投稿日:2025年9月27日

現場の課題が軽視され経営優先で動く問題

はじめに:現場を知る者として伝えたいこと

製造業の現場で20年以上勤めてきた経験から、声を大にして伝えたいことがあります。

それは、「現場の課題が軽視され、経営優先で物事が進む」という問題がいかに根深く、そして企業の成長を妨げる壁になっているかということです。

昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)やカーボンニュートラル、働き方改革といった大きな経営テーマが声高に叫ばれる中で、現場から上がる実務レベルの改善提案や問題提起が軽んじられ、経営目線のKPIや利益至上主義が先行しています。

この現象は決して新しいものではありません。

むしろ、昭和時代から続く縦割り文化や年功序列、根回し重視といった製造業特有の風土が、現場と経営の溝をより深くしています。

本記事では、現場で日々葛藤する製造業の皆さま、そしてバイヤーやサプライヤーの立場の方が「なぜこのような課題が繰り返されるのか」、その本質を現場目線で解説し、ラテラルシンキング(横断的思考)を交えながら、対処のヒントをお伝えします。

なぜ現場の課題が軽視されるのか?

経営視点と現場視点の根本的なギャップ

経営者と現場担当者。

この両者が持つ「現場認識」には埋めきれない溝があります。

経営層は、限られたリソースの中で「全体最適」や会社存続を期してKPIを設定し、数字で経営を捉えます。

一方、現場担当者は「安全」「品質」「納期」などの“いま目の前の現実”を何よりも重視します。

このギャップが、「どうせ現場はわかっていない」「現場からの声はコストがかかるだけ」といった無言の圧力につながり、現場の課題が軽視される要因となっています。

昭和型アナログ体質が根強く残る理由

製造業は高度成長期を支えた“現場主義”が根付いた業界です。

しかし皮肉にも、その現場目線が「現場依存」あるいは「現場の知見は現場のみのもの」という保守的な空気を生み、改善提案を組織全体へ昇華することが難しくなっています。

また、根回し重視・報連相(ほうれんそう)文化は、体制変更や新たな仕組み作りを遅らせる要因にもなっています。

新しい設備導入や自動化の話が上から降りてきた時、「今が回っている理由が理解されていない」「現場が想定する運用負荷は考慮されていない」と反発が出るのも、このアナログ体質から来るものです。

サプライヤーとバイヤーでも起きる現場軽視

部品調達や工程外注の現場では、バイヤー(調達担当)が「コスト最優先」「納期最優先」でサプライヤーに無理を通すケースがあります。

サプライヤー側は、現場の工程負荷や人的リソース、品質保証の実態を分かってほしいと日々苦悩します。

この点も、「上流の意向が現場に押し付けられ、建設的対話がなされない」という構造になっています。

経営優先主義がもたらす現場への弊害

一時的な効率化が長期的なリスクに転化

経営目標達成のために「人員削減」「工程圧縮」「大型投資」の意思決定がなされることがあります。

現場の実務負担や不足するノウハウ、設備停止リスクなどが十分に織り込まれないまま実行に移されることで、かえってトラブル対応に追われて逆効果となるケースも少なくありません。

さらに、現場担当者の「考える力」「改善力」が抑圧され、人材育成の観点からもマイナスとなります。

現場のモチベーション低下と離職リスクの増大

「どうせ現場の声は通らない」「自分たちの仕事は評価されない」――こうした諦めと無力感が現場の空気に蔓延することで、エンゲージメントやモチベーションが低下します。

優秀な現場担当者が離職していく現場も後を絶ちません。

現場目線でいえば、「現状維持バイアス」が生まれやすくなり、結果としてボトムアップの改善活動やイノベーションが進まなくなります。

品質や安全の犠牲という本質的リスク

現場が無理を強いられる“現場軽視型経営”は、品質問題や安全事故の温床となります。

トラブルが表面化した時だけ「なぜ現場で気付けなかったのか」と責任が押し付けられ、場当たり的対策に終始する傾向があります。

こうした構造的な弊害が、製造業全体の信用と競争力を損ねていると言っても過言ではありません。

現場起点のものづくりに戻る時代

なぜ「現場ファースト」がグローバル競争力となるのか

世界標準で見た場合、「ものづくり大国・日本」が置かれている現状は決して楽観視できません。

賃金水準や調達網のグローバル化、DX投資の遅れなど、経営側が取り組むべき課題は山積です。

ただ、海外企業と比べて日本製造業に独自の強さがあるとすれば、それは「現場力」に他なりません。

トヨタ生産方式に象徴される現場カイゼン、QCサークル、熟練工によるノウハウ伝承――こうした地に足の着いた現場主導型のものづくりこそ、長期的な競争力の源泉です。

経営層が「現場の知恵」を経営戦略に組み込むことなくして、真の現場起点経営は実現しません。

バイヤー・サプライヤー関係の見直しが不可欠

サプライチェーンの安定が経営問題としてクローズアップされる中、「お互いの現場」を理解し合うことが必須となっています。

バイヤーとしては、「コストや納期」だけでなく、サプライヤーの現場リソース、技術の限界、納入プロセスの細部について知ろうとする姿勢が求められています。

サプライヤー側も、「経営視点では何が重視され、どこで意志決定されるのか」を理解し、自社現場の課題を“経営響く言葉”に翻訳して伝えなければなりません。

互いの現場理解が、持続可能なパートナーシップの第一歩です。

製造現場から発信できる“これから”へのアプローチ

現場を知る人材の経営参画

若手や中堅現場リーダーが、日々の課題感を経営会議等の場で発信できる仕組みづくりが重要です。

たとえば現場リーダーの「シャドウボード」設置や、課題意見を吸い上げる現場調査チーム、または経営層が毎週現場に赴き“現場ヒアリング”する仕掛けも有効です。

現場から新たな提案が生まれる風土を醸成しましょう。

現場起点のDX推進とアナログの融合

DXは経営層主導でトップダウン的に導入されがちですが、「現場で本当に使いこなせるか」「現場作業のどこが本質的に変わるか」が抜け落ちるケースが多くあります。

現場担当者が「これなら業務が楽になる」「品質ミス削減に役立つ」と納得できる範囲から部分的にDXを導入しましょう。

また、部分的にはアナログを活かす発想も大切です。

すべてを置き換えるのではなく、「現場手書き日報×デジタル集計」「アナログ帳票をAIがOCR処理」など、現場の知恵を活かしたハイブリッド化を進めましょう。

失敗から学ぶ現場文化の醸成

現場の改善提案やトライアルがうまくいかなかった時、多くの組織は「失敗した人を責める」傾向があります。

これでは現場担当者が自ら行動を起こしにくくなります。

むしろ、「失敗こそ貴重なデータ」「うまくいかなかったプロセスを組織全体で共有する」ことが競争力向上につながります。

業界や組織の壁を越えて「現場課題共有コミュニティ」を作るのも有効です。

まとめ:現場のプロとして、業界を変える最初の一歩を

現場を知る私たちが、無力感に屈していては何も変わりません。

まずは小さくとも「自部署の現場改善」「上層部への課題発信」「バイヤーとサプライヤー双方の立場理解」といったアクションを起こしましょう。

経営優先型の意思決定が悪ではありません。

ただし、その背景に現場の実態と知見があるかどうか――これが企業の未来を左右します。

現場の価値は、現場でしか磨かれません。

変革の主役である現場の皆さんが、声を上げる勇気と、業界を動かす一歩を踏み出すことが、これからの製造業を強くします。

共に、業界の新たな地平線を拓いていきましょう。

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