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産業用ロボット導入後に保全工数が増える逆転現象

目次
はじめに:産業用ロボットの導入は本当に保全工数削減になるのか?
製造業では毎年のように「省人化」「効率化」というキーワードが叫ばれています。
そして、その手段として真っ先に挙がるのが「産業用ロボットの導入」です。
ロボットに作業を任せることで、人手不足の解消や品質の安定化、さらには人件費削減など、導入メリットばかりが強調されがちです。
しかし現場レベルでは、必ずしもポジティブな側面ばかりではない。
実は、「ロボットを入れたら保全工数が逆に増加した」という現象が、いまだ根強くアナログな昭和的現場や、多くの中堅中小企業でしばしば発生している事実をご存じでしょうか?
本稿では、現場でよくある「産業用ロボット導入後の逆転現象」と、その根本的な原因や対応策まで、深く掘り下げていきます。
産業用ロボット導入に期待される従来のメリットと現実
カタログ上の「省人化」メリットが独り歩き
産業用ロボットのカタログや提案書には、「○○人分の作業をロボット1台で自動化できます」「保全は定期的なメンテナンスだけ」といった謳い文句が並びます。
これを経営層や調達バイヤー層がそのまま信じて導入判断をすると、現場は「ロボットに置き換えたのに、保全作業やトラブル対応が増え、結局人員削減どころか追加の保全要員が必要になった」という“逆転現象”に直面します。
なぜ現場は保全工数が増えるのか?
一つは、ロボットが機械的には「止まらず動き続ける」状態を実現できても、現場全体の運用としては「停止トラブル時の対応や突発修理」「治具やグリッパー部分の磨耗や故障」「ロボット周辺設備との連携不良による調整」など、想像以上の作業・工数が追加発生するためです。
昭和的な職人技からロボット時代への過渡期に潜む落とし穴
属人的な現場力に頼っていた過去の運用
これまで多くの現場は熟練工・ベテランの「音を聞けば異常がわかる」「ちょっとした調整で不具合を解消する」など、いわゆる“匠の技”に依存していました。
このような暗黙知ベースの運用から、いきなり高機能な産業用ロボットへ移行すると、「ロボットはブラックボックス化」「調整や初期不良解析がベテランにも手に負えない」といったギャップが生じます。
ITリテラシー不足・教育コストの問題
産業用ロボットはプログラミングやティーチング、ロボットコントローラという新たな知識領域が必要です。
にもかかわらず、現場スキル移行(リスキリング)が不十分なまま現場任せで導入を進めると、トラブルが起きたときに「誰も直せない」「保全担当者が疲弊」「メーカー任せで費用増大」といった悪循環に陥ります。
保全工数増大の原因を徹底振り返り:実務でよくある具体例
1. 消耗部品の寿命管理がアナログのまま
産業用ロボットは高速・高頻度の動作を24時間365日こなします。
一方で、エンドエフェクター(グリッパー)やJ1〜J6各軸の駆動装置、ケーブル等の消耗・摩耗が想定以上に早く進行します。
従来の定期メンテ表や紙の日報に頼っていると、劣化の早期発見ができません。
その結果、突発停止や生産計画崩壊→緊急対応で人手が余計に割かれる現象です。
2. 周辺設備との“皮膚感覚”的すり合わせが不足
昭和の現場では「モーター異音」「材料自動供給のタイミング」「搬送設備とのインターロック」など、経験則でバランスをとっていました。
ロボット導入で一部だけ自動化されても、現場の“呼吸”を理解しないプログラム自動化だと、周辺装置とのミスマッチが多発。
結局最後は現場担当や保全要員が手作業でリカバリー作業を強いられ、保全工数が跳ね上がるパターンが散見されます。
3. トラブル一次対応能力の不足
メーカー推奨のメンテ内容や予防保全では現場の実状まですくい切れません。
異常発生時に「メーカー呼ばないと復旧できない」「保全担当がロボットの専門領域に弱い」ことで、突発トラブル対処が長期化。
これにより、保全や現場の社員が「つきっきり対応」になり本来の保全計画以上の工数が投入されます。
逆転現象を食い止めるための抜本的対策
1. 保全業務のDX化による予防保全の高度化
ロボット本体や周辺機器にIoTセンサーを設置し、各種稼働データ(日常動作パターン・振動・温度・サイクル数など)を収集しましょう。
これにより、「いつ・どこが・どんな条件で」異常が発生しやすいか予測が立ち、計画的な補修で突発工数が大幅削減できます。
現場の日常点検も、紙からデジタル化して進捗管理を可視化することで、人手をかけずに効率的な保全部門運営が叶います。
2. リスキリング(現場スキル再構築)の推進
従来型の「経験とカン」に頼った保全作業から、ロボットの構造理解・簡易ティーチング・一次点検・軽微な修復作業の標準化マニュアルを整備。
保全面では「ロボットベンダー依存」から「現場自律保全」へのスキルシフトが不可欠です。
研修や現場実習を通じて、若手だけでなくベテラン現場作業者にもロボット基礎教育を徹底しましょう。
3. バイヤー・サプライヤー連携による「使い倒す視点」の導入
経営層・調達担当・サプライヤーが「導入したら終わり」でなく、保全トラブル時の対応スキームや、部品調達リードタイム、定期保全パートナーシップまで具体的なプランを企画段階から合意しておくことが求められます。
この連携が、突発対応に現場力を無駄に浪費したり、コスト高騰や生産停止リスクを未然に防ぎます。
産業用ロボット保全の未来:AIと新しい現場力の融合
AI・機械学習による予知保全の普及
今後はAIによる稼動データ解析も現場活用が進みます。
例えば稼働ログから故障発生傾向を自動検出し、「○○部品に交換兆候あり」といったアラートによる先回りメンテが主流になります。
これにより“突発停止→緊急工数増加”の逆転現象が大幅に減少するでしょう。
従来型の職人知(ヒューマンスキル)とのハイブリッド化
それでも、全てをAIや自動化だけでカバーできるわけではありません。
現場の環境変化や微妙なニュアンスまでは、ベテランならではの「勘」「現場の肌感覚」が活きます。
理想は、職人知と最先端のデジタル力の融合。
それこそが、保全や現場業務を単なる「後処理係」から「戦略的保全」へのアップデートにつながります。
まとめ:昭和から続く現場力が今こそ進化する時
産業用ロボット導入による保全工数の逆転現象――これは今なお多くの製造現場で発生しています。
ですが、これは単なる「ロボットはダメだった」という教訓ではありません。
むしろ、現場が一段上のデジタル知見・リスキリング・ベンダーやバイヤーとの協働体制を築くことで、保全業務は「重荷」から「競争力の源泉」へと変わります。
私自身、現場長や保全責任者として幾度もロボット導入の“光”と“影”を体験してきました。
今こそ昭和から続く現場力を進化させ、AIやデジタルと融合した新しい保全部門の姿を模索し続けたい――そのヒントとなることが本記事から一つでも得られれば幸いです。
ものづくり現場のバイヤーの方、サプライヤーの方、すべての現場関係者の皆様と共に、次世代の生産現場をより良くしていきましょう。