投稿日:2025年7月14日

赤外線テラヘルツ基礎センサシステム計測技術産業応用

はじめに

赤外線やテラヘルツ波を利用したセンサ技術は、近年、製造業の現場で急速に注目を集めています。
日本の製造現場は、高度成長期から続くアナログな手法が根強く残っている一方で、グローバルな競争とデジタル化の波にさらされています。
工場の自動化(FA)、設備のスマート化、生産性向上を目指すうえで、これらのセンサがどのような役割を果たしているのか、どのような産業応用が進んでいるのかを、現場の実経験を交えながら解説します。

赤外線・テラヘルツ基礎とは

赤外線とテラヘルツ波の違い

赤外線は、可視光線よりも波長が長い電磁波です。
赤外線の波長はだいたい0.7μm〜1000μmの範囲で、主に物体の熱を検知する技術として古くから利用されてきました。

一方、テラヘルツ波はおおよそ0.1THz〜10THz(波長にすると30μm〜3mm)の周波数領域に属します。
この領域は、赤外線と電波の中間に位置し、独自の性質を持ちます。
たとえば紙やプラスチック、衣服などの非金属材料を透過できる一方、水分や金属には遮られるという特性があります。

センサ技術の進化

従来の赤外線センサは温度・物体検知などに活用されてきましたが、近年は光源や受光素子の高性能化によってテラヘルツ領域も実用化が進んでいます。
非接触での測定や、異物混入検査、材料内部の欠陥検出といった高難度なタスクで威力を発揮します。

製造業への適用事例

品質管理のイノベーション

品質管理の現場では、人の目視やサンプル抜取検査が主流でしたが、赤外線・テラヘルツ波センサの登場で大きく変わりつつあります。
たとえば、食品工場での異物混入検査では、テラヘルツ波を通すことで、包装の中に金属片やプラスチック片が入っていないか非破壊で検査できます。

また、フィルムや樹脂製品の内部異常や厚みのばらつき検査でも、テラヘルツ波イメージングによって高精度な計測が可能です。
こうしたシステムはインライン検査(生産ライン上での全数検査)への応用が進んでおり、不良品の早期発見や製品の品質安定化に大きく貢献しています。

生産管理・トレーサビリティ強化

近年は、製造過程の各工程で詳細なデータをリアルタイムで収集・解析するニーズが高まっています。
特に、半導体やバッテリー製造など精密な管理が求められる現場では、非接触で材料表面や内部状態をモニタリングできる赤外線・テラヘルツセンサが重宝されています。

生産プロセスの見える化や、ビッグデータ解析との組み合わせによる歩留まり改善、トレーサビリティ(製品追跡性)の向上にもつながっています。

工場設備の自動化・省力化

製造業では人手不足やコスト削減の観点から、自動化が欠かせません。
赤外線・テラヘルツセンサは、ロボットの目として、またはAGV(自動搬送車)の障害物検知センサとしても活躍しています。

たとえば、赤外線サーモグラフィーを使って設備の発熱異常を検知し、予知保全(設備の故障予防)を実現する例も増えています。
これまでベテランの勘や経験に頼っていたメンテナンスが、科学的なデータに基づくものに変わりつつあるのです。

調達購買・バイヤー視点での活用ポイント

赤外線・テラヘルツ関連機器の選定基準

調達・購買部門のバイヤーは、「コスト・信頼性・生産現場との親和性」の3軸で製品を評価しています。
現場経験上、次のような視点が重要です。

– センサの感度や解像度不足による検出失敗リスク
– メンテナンスのしやすさ、現場保守人員の教育コスト
– 導入後のシステム拡張性、既存ラインとのインターフェース
– 導入コスト・ランニングコストの明確性

また、最近はIoT・DX化の流れで、取得データの活用(データ解析システムとの連携)や遠隔監視機能が求められているため、IT部門や現場管理者との連携も欠かせません。

サプライヤーに求められる提案力とは

赤外線・テラヘルツのセンサメーカーやソリューションベンダーは、単純な装置納入だけでなく「現場課題に寄り添ったトータル提案力」がポイントとなります。
たとえば以下の観点から事前ヒアリングを重ね、現場への最適な提案を目指すべきです。

– 既存のどこに“非効率”や“ムダ”があるかを可視化
– 投資回収シミュレーション(ROI試算)の提示
– 「うちの現場では使えない・馴染まない」といった声を“見える化”し、現場説明会・フォロー体制を提案

昭和型のアナログ業界文化では、現場スタッフの抵抗感も根強くあります。
「誰でも使える」「現場が楽になる」「トラブルが減る」など、納得を得られるストーリーや実績紹介が重要です。

業界トレンドと今後の展望

現場DXと赤外線・テラヘルツセンサの融合

製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる中、赤外線・テラヘルツセンサは以下のような波及効果をもたらします。

– 生産ライン全体の見える化(可視化データに基づく改善策立案)
– 効率的な遠隔監視、無人化工程の実現
– AI・ビッグデータとの組み合わせによる高度な分析と自動意思決定

たとえば、実写カメラ映像だけでなくテラヘルツ波イメージをAIが解析し、不良品の“兆候”を自動で検出・排除するといった応用が現実のものになりつつあります。

グローバル競争と日本企業の課題

赤外線・テラヘルツ技術は、米欧や中国系メーカーも積極的に開発・導入しています。
日本の中堅・中小メーカーは、昭和型の“人手頼み文化”からなかなか抜け出せず、海外勢に遅れをとるリスクも生じています。

実践的には、「使いやすさ」「現場への定着」「費用対効果」を追求した現場主導の導入が日本的な成功事例となるでしょう。
本質は、“技術を入れること”そのものではなく、“現場をどうラクにできるか”の発想にあるのです。

赤外線・テラヘルツセンサで実現する現場の未来

これからの製造業は、「データ活用による生産性向上」と「人手の業務負担減」が勝負の分かれ目です。
赤外線・テラヘルツセンサは単なる測定装置ではなく、“現場課題を解決するための新しい道具”です。
現場経験の長い私の実感としても、最終的には「現場の肌感覚」+「新技術」の融合が重要だと考えます。

作業者や管理者が、「これなら毎日使いたい」「これなら仕事がラクになる」と思えるシステム設計を進めること。
また、バイヤーや調達担当者、サプライヤーはいかに“現場目線のDX”を後押しできるかが、今後の競争力を左右します。

まとめ

赤外線・テラヘルツ基礎センサシステム計測技術は、今後の製造業現場を支える大きな武器となります。
品質管理から生産管理、自動化、省力化、DXとあらゆる分野での応用が進んでいます。

業界のダイナミクスは大きく変わろうとしており、昭和からのアナログな発想に捉われず、ラテラルな視点で活用法を広げることが重要です。
本記事が赤外線・テラヘルツ技術を活かし、新たな現場イノベーションのヒントとなれば幸いです。

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