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縫製後の型崩れを防止する芯地選定とプレス条件設定

目次
はじめに:縫製後の型崩れ防止が求められる理由
縫製品の品質を左右する大きな要素の一つが「型崩れ」です。
特にジャケットやシャツ、スーツといったアイテムでは、一度型崩れを起こすと見栄えや着用感が大きく損なわれます。
現代の消費者はデザインや風合いだけでなく、長期間美しさを保てる製品を求めています。
そのため、縫製後の型崩れをいかに防止するかは、完成品の価値を大きく左右する工程上の重要課題といえるでしょう。
本記事では、20年以上の現場経験から蓄積した知識をもとに、芯地選定とプレス条件設定という2大要素に焦点を絞ります。
「コスト管理」「製造効率」「品質維持」のバランスを取りながら、サプライヤーの立場あるいは調達・購買担当の目線でも納得いただける現場発のノウハウを解説します。
芯地選定の現場的視点
なぜ芯地が型崩れ防止に重要なのか
芯地は表地の内側に配置されることで、貼り合わせる生地のハリや形を保ちます。
芯地が果たすのは単なる補強ではなく、生地同士の「一体感」を実現することです。
これによって、着用や洗濯などによる変形を最小限に抑え、企画段階で意図したデザインを「現実の製品」で再現し続ける力となります。
芯地の種類と選定基準
芯地には大きく分けて「接着芯」と「縫い付け芯」があります。
コストや生産性を重視する工場では接着芯が主流ですが、ハイブランドや高級既製服では風合い重視で縫い付け芯も根強く使われています。
芯地選定にあたって、現場でチェックすべき代表的なポイントは以下の通りです。
- 表地との相性:混率、厚み、伸縮性に合わせて選定
- 仕上がりのハリ・コシ:形状記憶が必要か、ソフトさを重視するか
- 接着強度:洗濯やクリーニング耐性も加味する
- 操作性:裁断・縫製時に扱いやすいか
昭和世代のアパレル業界では、職人の「勘」に頼った芯地選定が主流でした。
しかし、現代の大量生産現場では、素材メーカーとの情報連携やデータによる物性評価が欠かせません。
調達の観点では、価格だけでなく上記特性のトータルバランスを比較し、製品仕様ごとに適材適所の芯地を複数パターン準備することも成功の鍵となります。
芯地不良が引き起こすリスクと対策
芯地選定に失敗すると、次のような不良が発生しやすくなります。
- 接着不良(フクレ、剥離)
- パッカリング(シワや波打ち)
- 型崩れ(ヨレ、型の崩れ、シルエット変化)
これらを防ぐためには、サプライヤーと工場が一体で「JIS規格」や「社内試験」に基づく評価を厳格に行うことが不可欠です。
また、海外生産拠点との連携ではローカルで勝手に類似芯地へ変更されるリスクもあるため、スペックやブランド指定、物性管理の徹底が重要となります。
プレス条件設定の最適化手法
プレス工程の重要性と失敗例
現場では「接着プレス機」を使い芯地と表地を熱圧着させます。
この工程は仕上がりを決定づける最終関門です。
しかし、温度・圧力・時間の3要素のバランスが1つでもズレると、芯地本来の能力を発揮できません。
具体的な失敗例としては
- 温度不足:接着不良や剥離リスク増
- 温度過剰:生地のテカリ、黄変や芯地の変性
- 圧力過多:生地に凹み・シワ発生
- 加圧ムラ:局所的な接着不良や線上の跡
などが挙げられます。
適正なプレス条件を設定するポイント
・芯地メーカー推奨値を起点とする
ほとんどの芯地メーカーは、接着条件の「推奨値」を公開しています。
温度・圧力・時間の三要素が明記されていますが、実際の工場現場では加熱部のバラツキや機械の劣化による影響を受けることも多々あります。
・現品現物による「現場検証」
推奨値をそのまま当て込むのではなく、必ず「現場の生地」と「現場のプレス機」でテストします。
サンプルピースを使えば少量で確認可能です。
このとき、着用・洗濯・摩擦などの工程に相当する「加速試験」も推奨します。
・作業標準書の明文化
検証した結果をもとに、作業標準書や品質基準を「文書化」してください。
特に多品種少量生産の現場では、製品ごとに一律の設定は困難なため、「この仕様ならこの条件」と明文化することで、人・設備の交代や海外委託時の品質低下リスクを防げます。
型崩れ対策はサプライチェーン全体の課題
調達・購買の目線:芯地選定におけるコストと品質の両立
購買担当者にとって芯地は「隠れコスト」の代表例です。
安価な芯地を選んでも、後工程で型崩れやクレームが発生すれば返品コストや増員対応、ブランド毀損につながります。
サプライヤーとも早い段階で現場テストを繰り返し、「必要品質ラインを超えた合理的な品種」を複数用意して値決め交渉することが重要となります。
また、芯地メーカー側からも最新素材のトライアル提案など、提案型営業による共同評価体制が、結果としてWIN-WINの安定供給とコストダウンに結び付いていきます。
現場作業者の声を反映する現地現物主義
日本のアナログな現場では、今も「この人じゃないとこの工程はできない」といった属人化問題が根強く残っています。
芯地やプレス条件の設定も、ベテランを頼り切る属人的運用では納期の遅延や品質劣化の温床となります。
現地現物・現物主義を徹底し、実際の製品でひとつずつトライ&エラーを積み重ねる、水平展開の文化づくりが不可欠です。
最新動向:デジタル化と自動化による型崩れ防止
工場の自動化による均一品質実現
近年、縫製工場にも自動接着プレス機やAIによる表地・芯地識別システム、IoTセンサーでの温度圧力管理など自動化機器が導入され始めています。
これらの導入により、工員の技量差が原因となるバラツキが減り、高品質・安定生産が現実味を帯びてきています。
デジタル管理によるトレーサビリティの確立
さらに、芯地のロット番号や接着条件、生産時間をすべてデジタル記録する仕組みを導入することで、不良発生時も即座に原因追跡が可能となります。
これにより、従来の「伝統的な属人的技術」に依存するだけではなく、データに基づく科学的アプローチで品質・効率・コストのバランスを取れる時代が到来しています。
まとめ:持続可能な品質を目指して
縫製後の型崩れ防止は、芯地選定とプレス条件設定の二大要素が鍵を握ります。
コスト圧力が高まる中でも、現地現物主義に基づく「科学と勘の融合」、標準化とデジタル化活用、そしてサプライチェーン全体での品質確保が、これからのものづくり現場には不可欠です。
アナログな文化が今なお強い製造現場ですが、持続可能な日本のものづくりを実現するために、現場発の改善を積み重ねていきましょう。
芯地選定とプレス条件という小さな課題の先に、世界と戦う大きな未来が必ずあります。
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