他社特許の読み解きと特許侵害を回避するための調査実践手法

はじめに：特許と製造業の関係性

現代の製造業は、革新技術を武器にグローバル競争を勝ち抜かなければなりません。
その中核をなすのが「知的財産権」、特に特許です。
特許は自社の技術を守る防御壁であると同時に、他社の権利を不用意に侵害すれば巨額の損失やブランドイメージ低下につながることもあります。

とはいえ、長年の現場経験から断言できますが、多くの中小製造業やアナログ色の強い昭和型メーカーでは、特許情報の読み解きや実務的な回避策に課題を抱えているところが多いのです。
この記事では、「他社特許を読み解き、侵害を回避するための実践的な調査手法」について、現場目線で掘り下げて解説します。

特許調査の「なぜ」「どうやって」から考える

特許が身近な存在に迫ってきた背景

かつては大手メーカーの知財部が全て面倒を見る、という時代もありました。
しかし、グローバル競争やサプライチェーンの複雑化、そしてデジタル化により、今やバイヤーや生産現場の管理職にも特許リテラシーが求められます。

自社開発品や新規設備導入、一歩進んだ自動化プロジェクトなどにおいても、「その技術、既にどこかの特許に抵触しないか？」という問いは常につきまといます。
そのためにも、特許情報を的確に読み解き、現場に落とし込むスキルがますます重要になっています。

他社特許を読み解くとはどういうことか

特許文献を単に入手するだけでは何の意味もありません。
大切なのは、「その特許がどこまで主張するものなのか」「自社の事業にどんな影響を及ぼすのか」を、言葉の裏側まで読み取ることです。
そして、表現の細部に込められた制限事項や例示、技術的範囲の曖昧さも見逃さず、自社で安全に運用できる落としどころを見出すことが、現場視点の特許調査の根幹です。

製造業現場で役立つ「特許調査」実践手法

1. 先行技術調査の基本（特許出願前、事業開始前）

特許調査の最もポピュラーなものが「先行技術調査」です。
自社が新しい商品や方式を打ち出す時、すでに同様の技術が特許化されていないかを調査します。
この段階での調査の精度が後々のトラブル回避につながります。

効果的な手順は以下の通りです。

– 技術キーワードを現場目線で洗い出す
– 特許庁の「J-PlatPat」やグローバル特許データベースで調査
– 競合他社の出願人名（企業名）で重点的に検索
– 特許分類（IPC、FI記号など）を使って技術分野を絞る

“製品名”や”方式名”だけでなく、現場で使われる「俗称」や「課題感」なども検索キーワードにすると、思わぬ特許が見つかる場合もあります。

2. 特許請求範囲（クレーム）の正しい読み解き方

特許請求範囲は「この技術はここからここまで特許で守ります」という境界線そのものです。
ここを甘く読み間違うと、思わぬ侵害リスクを背負うことになります。

ポイントは

– 技術的構成要件（”AとBとCを有することを特徴とする…”）の各要素を分解して理解する
– 例示（実施例）と、請求範囲の差異を整理する
– 曖昧な表現（例えば「おおむね」「略同一」など）が現実にどう解釈されうるか、落とし所を現場で確認

現場では、設計担当と密にコミュニケーションを図り、「うちの技術はこのクレームのAには該当しない」と根拠をもって主張できるようにしましょう。

3. 回避設計のための「設計変更」アプローチ

古き良き時代の製造業は、ノウハウ重視で「触らぬ神に祟りなし」精神が強かったものです。
しかし、今は挑戦的な技術開発と知財リスク回避がセットで求められています。

侵害リスクがあると思われる場合、「設計のどこをどう変えれば回避できるか？」を議論しましょう。
例えば、

– 特許要件の1つでも外す（A, B, CならCをなくす、A’にする）
– 構造ではなく手順を変える
– モノでなくソフトで解決する

など、現場ならではの「落とし所」を設計者、知財担当、場合によってはパートナー企業ともディスカッションし、安全領域を明確化します。

4. 侵害リスクの判定とノンインフリンジメント意見書による証跡化

最終的に社内会議、あるいはサプライチェーンでの納入先のリスク判定では、専門家（弁理士や弁護士）の意見書を活用するのも手です。
現場目線からの自社見解と、法律家の見解を突き合わせ、文書化します。
万一係争になっても、リスク管理の証拠資料となります。

業界構造と「昭和型マインド」からの脱却

アナログ業界に根付く「特許無関心体質」

日本の製造業には、いまだ「わが社は昔からこのやり方だ」「知財より品質管理が大事」という、昭和型の空気が根強い現場も見受けられます。

しかし、世界規模のバリューチェーン化と、高額な特許訴訟リスク（数千万円～数十億円）を前に、この姿勢は今や命取りになり得ます。
特許情報を活用し、業界内外の動向把握・競合分析をしていくことこそ、製造業現場の生き残り戦略です。

現場がリーダーシップを取る特許マネジメントへ

特許は知財部門や法務部門だけのものではありません。
バイヤーや生産管理、サプライヤーとして取引先視点に立ち、業界全体の知財リスクをマネージする姿勢が、新時代の優れた現場リーダーには不可欠です。
調達品に特許侵害リスクがないか事前確認する、サプライヤーと知財に関する契約条件を詰めるなど、日常業務プロセスにきちんと落とし込みましょう。