投稿日:2025年7月12日

プラスチック衝撃応力解析で実現する高信頼性強度設計入門

はじめに 〜製造業の現場で求められる「強度」とは〜

製造業の最前線では、軽量化・低コスト・多品種化が求められる一方、製品の信頼性や耐久性の確保はますます重要性を増しています。

特にプラスチック部品の利用は年々拡大しており、自動車、家電、医療機器、産業用途など、あらゆる分野で金属からの置換えが進んでいます。

しかし、プラスチックは金属に比べて強度や耐環境性に課題があり、強度設計を確かなものとするには材料特有の「衝撃応力」を的確に管理する必要があります。

本稿では、20年以上工場現場で購買・生産管理・品質管理を手掛けてきた著者の経験をもとに、製造業の皆さまやこれからバイヤーを目指す方、サプライヤー目線でバイヤーの思考を理解したい方へ「プラスチック衝撃応力解析」を用いた“高信頼性強度設計”の実践ポイントを詳しく解説します。

昭和から続く現場アナログ思考の中に、最新の解析技術をどう融合するか──
現場リーダーのリアルな目線から、ラテラルに真価を探っていきます。

プラスチック材料の特性と、衝撃応力がもたらすリスク

金属とは異なる「割れ方」をする樹脂の怖さ

プラスチックは軽量で成形性に優れる反面、引張・圧縮・ねじれといった静的な荷重にはある程度耐えられても、瞬間的な大きな外力(=衝撃)に弱い性質があります。

金属の場合は「塑性変形しながら破断」するため緩やかな破壊挙動を示しますが、プラスチックは「脆性破壊」「スパッと割れる」という現象が頻発します。
このため、歩留まりや市場回収リスクを下げるには、
「プラスチック材料において、どんな時に“危険な応力状態”が発生するのか」
という本質への理解が不可欠です。

実際の現場課題:衝撃耐性不足によるクレームや損害

たとえば樹脂製品の現場トラブルとして、
・落下、取付ミス、強い荷重の集中
・組立工程での打痕や圧入不良
・気温・湿度の変動による材料劣化
などに起因した割れ・クラック事故が数多く報告されています。

こうした事象は、設計初期に予測・対策が不十分であった場合に起こりやすく、リコールや保証コスト増に直結します。
現場に根付く昔感覚(「このくらい大丈夫だろう」「金型品で形さえできてたらOK」)のままでは、新しい顧客要求に応える競争優位はもはや確保できません。

衝撃応力解析の基礎と、現場導入のための考え方

「衝撃応力解析」とは何か?

衝撃応力解析は、瞬間的な外力(落下・衝突・急停止など)によって発生する応力やひずみの分布を数値解析によって可視化する技術です。

主に有限要素法(FEM)を用いたシミュレーションが中心で、解析結果から「どこに、どのくらいの危険が潜むか」を事前に把握することができます。

これにより、従来の試作・物理試験だけでは読み切れなかった“潜在的な弱点”を設計段階で除去することが可能となります。

現場目線での衝撃解析へのアプローチ

解析コストやツールの導入費用がネックになることも多いですが、近年はクラウドサービスや簡易解析ツールの普及で、中小企業でも段階的に活用しやすくなりました。

最低限として押さえるべきポイントは、
・設計図だけでなく、実際の使われ方(「使われる現場のリアル」)を想定したモデル化
・荷重条件(どんな力がいつ加わるのか)と拘束条件(どこが固定されるのか)の適切な設定
・材料物性値(特性値)の正確な収集と入力
です。

「理論値」だけに頼らず、現場の作業者やサプライヤーと密にコミュニケーションをとることで、“実運用に即した予測精度”を高めることが重要となります。

高信頼性強度設計を実現する、解析プロセスの全体像

【Step1】要求仕様と実使用状況の整理

バイヤーや設計担当者は顧客の製品要求仕様(耐荷重・耐久回数・使用温度・落下高さ等)を正確にヒアリングすることが出発点です。

ここで重要なのは、「数値」のみならず市場クレームや現場ヒヤリハット事例、類似他社品の失敗事例なども幅広くインプットし、模型的な“理想使用環境”だけでなく現実の過酷な使われ方も加味することです。

【Step2】材料選定と物性パラメータの見極め

材料メーカーのカタログデータだけでなく、必要時はサンプル材を使った社内試験データを取得しましょう。
例えば耐傷性、摩耗、経年による脆化(老化挙動)など、「時系列」の視点も忘れず材料検討に組み込むべきです。

バイヤーとサプライヤーの見解が分かれるポイントですが、必ずデータと現場経験の双方を突き合わせ、自社に最適な材料スペックを定義していく過程が品質向上に直結します。

【Step3】FEM衝撃解析の実施と、結果の解釈

自社でFEMツールがなければ外部委託も選択肢ですが、解析内容(荷重条件・拘束点・評価指標)は自社主導で策定しましょう。
現場ヒアリングを重ね、「どの部位が・どの方向に・どう力を受けるのか」を鮮明にイメージすることが精度アップの鍵です。

解析結果グラフや数値を「見た目」だけで判断せず、応力集中部(赤色・高ストレス領域)については設計リーダーも一緒にチェックし、金型構造やリブ形状へのフィードバックを怠らない姿勢が重要です。

【Step4】設計への反映と、試作・現場フィードバック

解析で判明した弱点部にはリブの追加、肉厚増加、材料変更、衝撃吸収構造の設計などを施し、比較検証を伴った試作に落とし込みます。

また、組立従事者や物流、品質保証部門と意見交換を行い、“机上”だけでなく「実使用環境×強度設計×生産性」の全方位最適化を目指します。
ここまで踏み込むことで、真に信頼性の高いプラスチック部品が誕生します。

高度化とコストバランス、これからの購買・バイヤーの役割

安かろう悪かろうから脱却する、現場主導の購買改革

昭和時代のアナログ調達は「品番を選ぶ」「安いものを選ぶ」でした。
しかし今やバイヤーには解析技術や強度設計プロセスへの基本的なリテラシーが必須です。

“単なる材料コスト”と“設計段階での失敗回避によるトータルコスト低減”を同時に見据えることこそが、現代バイヤーの本来の価値です。

サプライヤー視点で押さえたい「バイヤーの解析要求」

サプライヤーは解析レポートを提示するだけでなく、「どんな使い方・どんな現場課題に対し、なぜこの材料・設計なのか」までストーリー立てて説明できるかが選ばれる条件です。

また、工場実務での変更やトラブル時、迅速かつ納得感のある“原因解析・提案”を用意できる組織力が長期的取引の鍵です。

まとめ 〜現場の知恵と先進技術の融合で、次世代の信頼性を〜

プラスチック衝撃応力解析は、ただの設計者向け高等技術にとどまりません。

購買担当者はもちろん、生産管理や工場現場シフトマン、サプライヤー営業担当も、自社・顧客の現場で「なぜ割れるのか」「どうすれば壊れないのか」という根源的課題を可視化・議論できる素養がますます重要になります。

現場の古い慣習や「経験則」だけでは見落としがちな弱点も、解析による事実の把握と全員での見える化によって解決への糸口がつかめます。

最後に、製造現場で日々汗を流す皆さまとともに、アナログとデジタル、ヒトとAI、熟練の知恵と最新の解析を掛け合わせて「本当に壊れないモノづくり」「顧客志向の課題解決」へ一歩を踏み出しましょう。

強度設計は「本質をどう見抜くか」。
ぜひ、今日からの改善活動に活用してください。

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