投稿日:2025年10月22日

受託生産企業が自社製品を販売する際に直面する在庫リスクとその回避策

はじめに:受託生産企業が直面する在庫リスクの本質とは

製造業界の現場では、OEM(受託生産)企業が自社製品ブランドの立ち上げに挑戦する事例が増えつつあります。

これは自社の収益性と成長のために重要な戦略ですが、一方で「在庫リスク」という新たな課題と直面することになります。

特に昭和からのアナログ文化が色濃く残る業界風土では、在庫管理や市場開拓のノウハウが蓄積されていないケースも多く、リスク管理の難しさが表面化します。

本記事では、私自身の現場経験と管理職として得た知見に基づき、受託生産企業が自社製品販売で直面する在庫リスクの本質と、その最前線の回避策について実践的に解説します。

現場目線で解きほぐし、今日から役立つラテラルシンキング的なアイデアも盛り込みます。

受託生産企業が自社ブランド化で抱える主な在庫リスク

需要予測の精度不足による過剰在庫

受託生産業務では基本的に「受注生産」体制です。

納品数量は明確で、余剰在庫になるリスクは低いです。

ところが自社ブランド品となると需要が読みにくく、市場の声や流通の動向を自ら拾わなければなりません。

この変化に気付かず、従来の生産計画のまま新商品を大量生産してしまうと、市場ニーズを超過する「過剰在庫」が発生します。

過剰在庫は製造原価のみならず、倉庫代、陳腐化による値引き、不良在庫の廃棄など連鎖的なコスト悪化を招きます。

販売チャネルの不整備による滞留在庫

受託生産からの転換期には、既存の営業・販売ルートが不足しています。

取引先が決まった状態で始めるOEMと異なり、自社ブランドは「販路開拓」も一から構築する必要があります。

ここで販売ルートの選定や販促戦略が後手に回れば、せっかく作った商品が流通経路で滞留し、資金繰りを直撃する「滞留在庫」に繋がります。

製造業特有の営業力不足が背景にあり、アナログ世代の経営者もこの点でつまずく光景を何度も目の当たりにしてきました。

品質不良や仕様ミスマッチによる不良在庫

受託生産は「顧客仕様に従う」ため、品質や機能のゴールが明確です。

しかし自社製品を企画する場合、消費者ニーズの把握や社内の意志決定の甘さから、機能・デザイン・性能のすれ違いが起こりやすくなります。

こうしたミスマッチは製品化後に売れない「不良在庫」を生み、市場での信頼低下やロスコストの拡大へ直結します。

在庫リスクを最小限にするための現場主導型アクション

現場と経営層の「在庫管理意識」の共有

受託生産中心の現場には、「在庫管理は管理部門の仕事」と捉える文化が根強いです。

しかし自社ブランドの場合、在庫リスクは生産現場・営業・経理・経営層すべてに関係します。

まず工場長や中間管理職が「在庫は全社経営課題」であることを現場に浸透させるため、朝礼やミーティングで共有し続けることが重要です。

工場長自らが在庫指標(回転率・ABC分析など)を定期報告し「見える化」することで、全員の当事者意識を醸成できます。

小ロット・短納期体制への転換(アジリティ強化)

大量生産・大ロット志向から、まず脱却しましょう。

受託生産で磨いた「多品種少量生産」「セル生産」「かんばん方式」などのノウハウを応用し、初期生産はあえて最小ロットとし、販売動向に合わせて増産するスタイルにシフトします。

これにより過剰在庫の発生を抑えつつ、「まず市場に出してみる」→「売れ行きや反応で再生産」というアジャイル的な運営が可能となります。

ここに生産管理部門と営業部門の密な連携が不可欠になります。

販売先との事前コミュニケーション(受注型の進化)

昭和的な「作って売る」発想から一歩進み、「売れる先を巻き込む」体制へ転換します。

たとえば販路となる販売代理店・量販店と発売前から商談し、販売予測やテストマーケティングを実施した上で、初回生産数を決定します。

ここで顧客候補から「先行オーダー」や「予約受注」が得られれば理想的です。

ビジネスモデルの進化として、場合によってはMTO(受注生産型)やBTO(ビルドトゥオーダー)方式の導入も検討に値します。

EC活用による直販とデータ取得の強化

デジタル化が遅れている製造業界においても、自社ECサイトやAmazon・楽天・Yahoo!ショッピングなどのプラットフォームを活用することで、「リアルタイムで売れ筋を掴む」ことが可能になります。

販売データは需要予測や生産計画のアップデートの重要材料です。

また直販ECは、過剰在庫発生時のアウトレット販売やキャンペーンに柔軟に対応でき、キャッシュ化を早めるリスクヘッジにもなります。

在庫リスク低減に役立つ昭和的ノウハウとDXの融合

「三現主義」で現物・現場・現実の徹底確認

在庫管理と聞くとITやシステム導入が注目されがちですが、昭和世代の現場では「三現主義(現場・現物・現実)」を徹底するだけでも在庫トラブルの芽が格段に減ります。

・現場を訪れてどの製品が積んでいるか目視する

・現物を手に取り、品質・パッケージング・ラベル情報を都度確認する

・現実の販売状況(売れ線・止まり品など)を営業担当と直接対話する

こうした泥臭い現場主義が、AI時代にも根本的なリスク感知力となります。

EXCELの延長上で始められる在庫分析

いきなり大規模な在庫管理システムを導入するのはハードルが高いです。

まずは現場担当がアクセスしやすいエクセルやGoogleスプレッドシートを活用し、在庫のABC分析・回転率算出・棚卸差異の記録から始めましょう。

既存受託業務で使用している帳票類に、「自社商品」だけの個別シートを設けるだけでも効果大です。

管理レベルの可視化が進むことで、IT化(DX)へのスムーズな布石が打てます。

外部支援の積極活用とセミナー/相談会参加

中小企業や地場系ファクトリーでは、自社だけで抱え込まず「異業種交流会」「地元銀行や商工会議所のコンサル」「中小企業診断士」など外部アドバイスを有効活用することも大切です。

生産現場にこもる、昭和型のムラ社会から脱することが新たなマーケット開拓・在庫リスク低減の近道になる場合が多いと実感しています。

バイヤーの視点とサプライヤーの温度差を理解する

バイヤー視点:在庫リスクをどう見ているか?

バイヤー(購入担当者)は在庫リスクのある取引先を非常に警戒します。

よく売れる実績や回転率、増産に柔軟に応じるサプライヤーかを重視しており、「売れ残り在庫=不良資産」と捉えています。

新規に自社製品を売り込む際には、納期短縮やリードタイム保証、売れ残り時の迅速な協議対応体制など「リスク対応力の見える化」が不可欠です。

サプライヤーはなぜバイヤーの悩みを見落としがちか

多くのサプライヤー(供給側)は、自社製品の長所や製造技術にばかり目が行きがちです。

一方バイヤーは、「商品がいかに早く・確実に売れて」「どのくらい在庫リスクが少ないか」に関心を寄せています。

この温度差を埋めるためには、事前にバイヤーの業界動向や在庫回転率などをリサーチし、納品後の在庫支援や情報共有体制も含めてプレゼンすることが受注力アップの近道です。

まとめ:受託生産企業の次なる成長には、在庫リスクとの知的対話が不可欠

受託生産企業が自社ブランド事業に挑戦することは、リスクとチャンスのトレードオフであり、「在庫」という古くて新しい経営課題に真正面から向き合う覚悟が要ります。

大切なのは単なる在庫管理のシステム化ではなく、営業・生産・現場・バイヤーの視点を横断したラテラルな知恵の結集です。

「昭和的な現場主義×最新のIT活用×全社的な情報共有」といったハイブリッド型アプローチにこそ、これからの製造業の飛躍の可能性が眠っています。

今こそ現場出身者が、アナログ現場の手触りとデジタルの強みを橋渡しする役回りを担いましょう。

そして本記事が、製造業に従事するすべての方、バイヤーを志す方、サプライヤー側から市場を広げたい方のヒントとなれば幸いです。

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