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防水防塵IP等級の達成法:ガスケット・超音波溶着の選定

目次
はじめに:製造業で求められるIP等級とその重要性
製造業の現場では、製品が外部環境からの影響を受けないように設計することが非常に重要です。
なかでも、防水防塵性能を示すIP(International Protection/Ingress Protection)等級の取得は、国内外の厳しい規格への準拠や顧客からの信頼獲得に直結します。
特にエレクトロニクス機器や自動車、建設機械など、水や埃の侵入が致命的な障害を引き起こす製品群では、このIP等級の達成が避けて通れない課題です。
昭和から令和にかけて、製造プロセスの自動化や品質に対する要求は飛躍的に高まりましたが、一方で「昔ながらのやり方」に固執してしまう現場も数多く存在しています。
こうしたなかで、ガスケットや超音波溶着などの防水防塵対策をどのように選定し、確実にIP等級をクリアするのか――。
本記事では、現場の経験と業界動向を融合させた実践的なノウハウをお伝えします。
まず知っておきたいIP等級の基礎知識
IPコードの意味と読み方
IP等級は「International Protection Marking」の略で、IEC(国際電気標準会議)60629などの国際規格、日本工業規格JIS C 0920に基づいています。
IPコードは「IPXY」という形式で表され、“X”が固形物に対する保護等級、“Y”が水の浸入に対する保護等級を指します。
たとえばIP65なら、“6”が「完全な防塵」、 “5”が「あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない」という意味になります。
なぜIP等級が必要なのか
製品が使われる現場は様々で、工場の油まみれの床、屋外の雨天時、さらには埃が舞う粉じん環境など、過酷を極めます。
このような環境下で正しく動作し、長期間にわたり信頼性を担保するには、設計段階からIP要件を厳密に定め、適切な封止技術を選択することが不可欠です。
さらに、IP等級の高さは製品の差別化や海外輸出、入札資格のハードルとしても作用します。
防水防塵対策の主要技術:ガスケットと超音波溶着
ガスケットの概要とメリット・デメリット
ガスケットは、主にゴムやシリコーンなどの弾性体からなるパッキン材料です。
部品同士の合わせ面に挟みこみ、圧縮によって隙間を埋めることで、水や埃の侵入を防ぎます。
長年の採用実績がある普及技術であり、形状や材質のバリエーションが豊富で、少量多品種生産にも柔軟に対応できるのが特長です。
しかし一方で、圧縮残留応力の減衰によるシール性の劣化、組立時の位置ずれや破損、材料の追従性不足による漏れリスクといった課題も潜んでいます。
昭和から伝わるアナログ的手法ゆえ、設計段階の勘や経験に頼る部分も多いことが難点です。
現場で問題が発生した場合、原因特定と再発防止には地道な現場観察や測定、PDCA運用が求められます。
超音波溶着の概要とメリット・デメリット
超音波溶着は、プラスチック部材同士を超音波振動により一体化させる接合技術です。
部品の接合面に微細な振動を与えることで摩擦熱を発生させ、短時間で強固かつ均一な溶着が可能になります。
ガスケットのようなシール材が不要なため、部品点数の削減や自働化ラインとの親和性も高いのが利点です。
また、繊細な電子機器や精密パーツでも、局所的・瞬時に熱を発生させるため熱影響が限定的です。
ただし、金型コストや初期投資が大きい、設計自由度が制限される、素材の溶融温度や物性差にシビアであるなどのデメリットも存在します。
加えて、溶着状態の均一性確保には工程管理の自動化が不可欠であり、アナログ感覚だけで運用するのは危険です。
現場視点で見る!ガスケットと超音波溶着の選定ポイント
設計段階で検討すべきこと
設計者がまず直面するのが、「どちらの封止技術でIP等級要件を満たすべきか?」という根本課題です。
大きな判断軸は下記の通りです。
– 製品の使用環境:水滴、小雨、粉塵、油霧などへの暴露状況
– 製品寿命やメンテナンス性:長期信頼性、保守・分解の必要性
– 生産規模:初期投資/金型費用に耐えられる数量か
– 部品点数と手順:自動化可能な設計か、人手が必要か
– 素材・形状の制約:自由度重視か、標準化か
たとえば、少量多品種で複雑形状を柔軟にカバーしたいならガスケットが最善です。
一方、大量生産・自動化・コスト重視なら超音波溶着を優先するのが合理的と言えます。
IP等級テストとフィードバックの重要性
設計段階でIP65などの要件を満たす設計案ができても、現実には試作・評価テストによる裏付けが必須です。
特に、ガスケットの場合は加圧状態、組立手順、締付トルク管理など、IP性能に直結する因子がきわめて多く存在します。
自動車業界などでは経年劣化シミュレーション(耐湿熱、サイクル試験)も実施し、繰り返し成績が担保されるかを重視します。
一方、超音波溶着では接合面の設計値(リブ高さや溶着幅)、設備設定値、材料ロット差異の管理がカギとなります。
現場でよく見かけるのが、設備担当と設計者の意思疎通不足や、検査基準の曖昧化による再発事故です。
アナログ技術に頼りきりでは設備の自働化も形だけになってしまい、「実は人が毎回微調整して現場で凌いでいた」といった光景も珍しくありません。
昭和から令和へのパラダイムシフト:業界動向と今後のポイント
サプライヤー・バイヤー視点から見る封止選定の勘所
サプライヤー側は、「相手がなぜこの技術を求めているのか」「IP要件の真の落とし所はどこか」を意識することが最重要です。
業界大手バイヤーの多くは、QCD(品質・コスト・納期)のバランスに加えて、「納品時点での形だけのIP性能」より「使用現場での長期信頼性」を重視します。
現場では、「自動車のエンジンルーム向けなら高温サイクル下のガスケット耐久性」「アウトドア向け精密機器ならマイクロ浸水リスクへの設計余裕」「工場現場カスタマイズ品ならフィールドエンジニアの現場施工性」といった“使いやすさ”の本質が問われます。
単なる試験合格だけでなく、トータルの運用シーンやメンテナンスを見越した提案が、サプライヤーの差別化ポイントとなります。
また、近年ではデータを活用した信頼性評価、シミュレーション技術の高度化、トレーサビリティ管理も重要視されています。
DX時代の封止技術:IT連携やスマート工場との融合
防水防塵手法にも、AIやIoTなどデジタル技術が徐々に浸透しはじめています。
溶着工程の品質状態をリアルタイム監視するIoTセンサー、ビッグデータ解析による不良傾向抽出、仮想空間上での密閉性シミュレーションなど、昭和的な「勘と経験と度胸」だけではない新たな品質保証の時代へ移行しています。
バイヤーやサプライヤーも、こうした時代の変革をキャッチアップし、社内外におけるデータ主導のQCD管理を行うことが、これからの製造業では不可欠です。
まとめ:IP等級達成の本質とラテラルシンキングで未来を拓く
防水防塵のためのIP等級取得は、単なる規格対応の枠を超え、製品信頼性・ブランド競争力の根幹を成すテーマです。
ガスケット、超音波溶着、それぞれの封止技術には一長一短があり、現場ごとの実態・課題をふまえたラテラル(横断的)思考が重要です。
昭和のアナログ的手法に現代の自働化やデジタル解析を融合させ、最適な設計・工程管理・運用を実現することが求められています。
製造業のバイヤー、サプライヤーを問わず、「現場起点の深い洞察」と「新たな価値を創造する発想力」で、次世代のモノづくりを共に進化させていきましょう。
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