投稿日:2025年9月5日

海外市場を意識したペット用品OEM展開と規制対応のポイント

はじめに

ペット市場は、世界的に見ても成長著しい分野の一つです。
特に日本をはじめとする先進国では、ペットは家族の一員という位置づけが強まっており、ペット用品に対する品質や安全性への要求はますます高まっています。
加えて、アジアや新興国などでもペットビジネスへの関心が高まっており、各国の消費者ニーズや規制を踏まえた対応力が今後の日本メーカー・サプライヤーの海外進出の成否を左右します。

この記事では、20年以上の製造現場経験と購買・生産・品質・工場運営の視点をベースに、海外市場を意識したペット用品OEM(相手先ブランド生産)展開の成功ポイントや、業界に根付くアナログ的慣習、典型的な落とし穴、そして乗り越えるための実践的な規制対応ノウハウについて詳しく解説します。

世界のペット用品市場の動向と日本企業のチャンス

急拡大するグローバルペット市場

欧米を中心としたペット用品市場は依然拡大傾向にあります。
健康志向プレミアムフード、高機能おもちゃ、ウェアラブル機器、スマート給餌器など、従来型とは異なる新技術・新価値の商材が次々に登場しています。
また近年は、中国や東南アジアなどの新興国でもペット需要が急速に高まり、自国ブランドやアジア全体でのOEM案件が活発です。

このような市場環境下、日本のメーカーが高品質・高信頼性を武器にOEMによる海外展開を狙うのは有力な選択肢です。
特に、日本製OEMは今なお「安全で高品質」「信頼できる」と広く認識されています。

アナログ慣習が海外進出を阻む?

しかし、多くの老舗・中小メーカーでは「従来型の設計・品質管理」「口頭伝承ベースの調達・交渉」「紙主体の書類・記録管理」など、いわゆる昭和型アナログ体質が根強く、海外進出やグローバル規制対応で意外な障害となりやすいのが実情です。

例えば「細かい仕様の擦り合わせを現場作業員頼みにしてしまう」「英語による技術文書が弱い」「ロット管理などが記録不十分」などが典型例です。
こうした点が、海外バイヤーとの信頼獲得や安定供給の妨げとなりがちです。

ペット用品OEM展開における基礎戦略

市場調査とターゲットバイヤーの特定

まず重要なのは、市場ごとに異なる消費者ニーズ・価格帯・流通チャネルの把握です。
欧米、アジア、北米、中東ごとにペット文化も流通構造も異なり、求められる商品特性と価格のレンジも違います。

また、バイヤー自身が求めるOEMパートナーの要件も、「コスト重視」なのか「独自提案力重視」なのかによって異なります。
有力な展示会(Interzoo, Global Pet Expo など)や現地のリサーチ会社、業界誌の情報を活用し、ターゲット市場とバイヤータイプを絞り込むことが肝心です。

開発工程の見える化と技術ドキュメント力

OEM商談の現場では「設計仕様の明確化」と「技術・品質情報のドキュメント化」が求められます。
日本のアナログ現場では、「みんな分かっているから」「その都度電話で確認」を繰り返してきた企業も多いですが、海外向けOEMでは『エビデンスベース(証拠に基づく)』の情報提供が求められます。

CADデータ、材質・部品情報、原材料の国別証明、安全データシート(SDS)、工程ごとの検査基準・記録――こうした資料の整備・英語化は、OEMで海外進出を目指すすべての現場で避けて通れないポイントです。

調達先・協力工場の適正管理

ペット用品のOEM展開でよく起こるトラブルが、「一見コストダウンできているが品質が担保されていない」「協力工場の工程・管理能力がバイヤー審査基準に達していない」といった点です。
昭和型の「人間関係ベースの発注」「現場リーダーの暗黙知頼み」では、グローバルバイヤーは安心しません。

原材料のサプライチェーン透明性(トレーサビリティ)や、工程ごとの標準化、作業基準書(SOP)の整備が必須です。
可能であれば、協力工場にもISO9001、ISO22000、GMP相当の管理を求めることが望ましいです。

国際的な規制対応とその現場実務

代表的な海外規制とスタンダード

ペット用品の主な輸出先となるアメリカ・EU(ヨーロッパ)・中国では、各国独自の法規制があります。

  • アメリカ:CPSIA(消費者製品安全改善法)、FDA基準、州別規則
  • EU:REACH規則、CEマーク、EN規格、動物愛護指令
  • 中国:GB基準、製品品質法、ラベル・安全警告要件

これらの条項は頻繁にバージョンアップされるだけでなく、要求されるテスト証明書類やロット情報も細かいです。
現場では「輸出時その都度対応」ではなく、少なくとも半年から1年は先読みした体制構築が肝心です。

輸出リスクマネジメントと現場でのPDCA

規制違反によるリコールや通関差戻しは、重大な損失と信用失墜を招きます。
実際のアナログ現場では「うっかりミス」「記録書の紛失」「新規材料のテスト手順抜け」など些細な抜け・漏れが大事故につながるため、調達~生産~出荷までのPDCAサイクル(計画・実行・チェック・改善)を徹底することが必要です。

例えば、ペットフードであれば「添加物の使用禁止リスト更新」「残留農薬の定期測定」「製造ロットごとの記録と保管期限」をIT化・アプリ活用で一元管理することが重要です。
ペット用玩具であれば「成分・発色材ごとの適合証明書の整備・添付」「外注先での抜き打ち検査」など現場ごとにブラッシュアップが欠かせません。

現地バイヤーの“ホンネ”を知る

多くのサプライヤーが見落としがちなポイントとして、「現地のバイヤーはコストだけでなく、何よりトラブル時の対応力・説明責任を重視する」ことがあげられます。
特に日本の現場的には「細かい部分はいいから早く出してくれ」という風潮もありますが、グローバルバイヤーは『もし問題が発生したらすぐ報告があるか』『どこまで現場を“見える化”してくれるのか』を基準にします。

「責任者不在・現場担当者の押し付け合い」「記録が口頭伝承」「海外からの問い合わせの放置」などは最も嫌われます。
常に透明性の高いコミュニケーション、LINEやビデオ会議などデジタルツールの積極活用も強く求められている現実を意識する必要があります。

これからのペット用品OEM現場強化のポイント

IT・デジタル化の実践的導入

「自分たちの現場には難しい」「費用ばかりかかる」と敬遠されがちなIT化ですが、今や安価で即導入できるIoTタグ・在庫管理アプリ、記録用タブレット、バーコードラベリングなど多様なツールがあります。

たとえば、工程ごとにQRコードを導入してロット履歴を“可視化”、スマホアプリで作業写真・問題点を共有するだけでも、国際バイヤーに対する信頼レベルが一気に上がります。
また、英語マニュアルや製品仕様をAI翻訳+現地修正ツールで作成すれば、煩雑な業務負荷も大幅に削減できます。

“人的資本”教育と流動性ある現場作り

ペット用品分野では、固定観念や縦割り体制が新しい技術・規制対応の妨げになりがちです。
従来の“匠の技”依存型から、「標準化・属人化排除」「多能工化」「現場教育のデジタル化」へ転換するには、現場リーダー自身の“アップデート”も必要です。

特に若手・外国人スタッフの積極登用、部門間を横断したプロジェクト制度などによって、変化への柔軟な適応力を高めることがグローバルOEM拡大の近道となります。

まとめ

海外市場を見据えたペット用品OEM展開には、単なるコスト勝負を超えた「現場力の見える化」と「規制対応力の拡張」が欠かせません。
そのベースには、アナログ業界に根付く“日本的モノ作り”の良さは活かしつつ、属人性や非効率な伝承を“標準化・IT可視化”でブレイクスルーする知恵が求められます。

ペット用品OEMに挑戦するサプライヤーの皆様や、業界バイヤーを目指す方、現場でバイヤーのホンネを知りたいと願う皆様に、現場の知恵と実践ノウハウが役立てば幸いです。
革新的な取り組みで、世界のペット市場で日本ブランドの新たな可能性を切り開いていきましょう。

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