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生産性改善のKPIが机上の空論すぎて現場が疲弊する典型例

目次
はじめに:現場が感じるKPIの違和感
製造業の現場で「生産性向上」という言葉を聞かない日はありません。
その取り組みの一環として、生産性改善のKPI(重要業績評価指標)が盛んに設定されています。
しかし、多くの現場ではこのKPIが「机上の空論」として独り歩きし、現場の実態と合わないことが原因で、生産現場が疲弊している現状があります。
20年以上、調達・生産管理・品質管理・工場自動化などの業務に携わってきた立場から、なぜKPIが現場の足枷になるのか、そして現場発の実践的な改善策とは何かを深掘りしていきます。
KPI導入の背景と及ぼす影響
経営層の論理と現場のリアリズムの乖離
KPIは、経営と現場をつなぐ「共通言語」として導入されました。
属人的な管理から脱し、誰が見ても評価できる「数値管理」で、生産効率を最大化しようという意図があります。
また、デジタル技術やIoTの普及により、現場の状態が数値として簡単に吸い上げられるようになったことも背景にあります。
しかし、KPIばかりが独り歩きし続けると、「現場が苦しむ」状況が生まれやすいです。
KPI至上主義とも言える、机上で設定された数値を達成するために現場が疲弊する構図が典型的です。
よくあるKPIの種類と、その問題点
代表的なものは、「生産数量」「稼働率」「不良率」「納期遵守率」「労働生産性」などです。
しかし、これらを設定する際、現場の設備の状態や熟練者のスキル、部品供給のばらつきを考慮せず、一方的に「前年対比10%向上せよ」といった具合の目標値が上から降りてくることが少なくありません。
現場は、非現実的なKPI数値に追いつくために、無理な残業や付け焼き刃の対応を余儀なくされ、結果として離職率増加・品質低下・モチベーション低下といった副作用に見舞われます。
昭和型マネジメントから抜け出せない現場の現実
「数値化神話」とアナログ現場のミスマッチ
製造業は古くから「現場主義」を掲げてきましたが、昭和時代の「根性論」「手作業重視」「職人技の伝承」が、今も多くの現場に根強く残っています。
このような文化の中で、急に経営層から「数値で管理」と言われても、現場スタッフは戸惑うことが多いです。
実際、膨大な紙帳票で作業進捗を管理したり、パソコンも導入されていない現場で「IoTデータを使ってKPIを週次管理せよ」と言われたところで、実行のためのリソースもノウハウもありません。
現場の声を反映しないKPIの末路
KPI設定会議に現場主任やリーダーが参加せず、経営層や管理部門主導で目標のみが一方的に決定されてしまうケースがあります。
「明日から稼働率を95%に上げてくれ」
「人件費削減のため、人員数を3割カットしても生産数量は維持せよ」
現場の実情や、「なぜ今は稼働率が低いのか」「どこに非効率が存在するのか」といった議論なしに、単なる数値目標だけが降ってきます。
現場は反論もできず、疲弊しきった結果、「帳尻合わせ」のために数字の操作や、本来必要な工程の省略が発生することすらあります。
KPI疲弊の典型例と具体的な現象
現場に起きがちな“数字合わせ地獄”
KPIを達成するために、以下のような現場歪みが発生します。
・本来停止すべき設備を、無理して稼働させる
・不完全な製品を流して、見かけ上の生産数量を達成する
・故障や異常の兆候を隠してしまう
・帳票上だけの「改善提案」を乱発し、実効性のない改善活動が増加
これらはいずれも、「現場」と「KPI目標」の間に乖離があるために起こる現象です。
現場スタッフは息苦しさを覚え、「なぜこんなことをやらされるのか」という疑問を抱えながら働かなければなりません。
品質・納期・コストすべてが破綻しやすい悪循環
KPI疲弊が進むと、品質トラブルが多発し、それに伴う納期遅延やクレーム、追加コスト発生など、サプライチェーン全体に悪影響を及ぼします。
結局は現場スタッフにしわ寄せが行き、悪循環に陥ることも多いです。
現場発の生産性改善KPIの組み立て方
“現場知”を活かす巻き込み型KPI設計
本来、KPIは「改善の方針」を現場と共有し、一緒にゴールを目指すための道具です。
そのためには、「現場の声を徹底的に拾う」「現場リーダーを協議に必ず参加させる」ことが不可欠です。
たとえば、
・昨年はどの段階でボトルネックが発生していたのか
・設備・人員のスキル・資材供給など、今の制約要因は何なのか
・小さなPDCAを積み重ねることで、どこまで生産性が高められるのか
こうした話し合いを地道に積み重ねることが、結果的に“腹落ち”したKPI作りにつながります。
KPIは“指標”であって“宗教”ではない
KPIは、あくまで現状把握と課題発見のきっかけに過ぎません。
目標値を達成できなかった場合、その原因をきちんと現場側・経営側で振り返り、根本的な課題(人材不足、設備老朽化、サプライヤーの納入遅れなど)をオープンに議論できる体質を作ることが最重要です。
「100%達成できなければ罰」「達成できたら終わり」ではなく、“プロセス改善の道標”という原点に立ち返るべきです。
デジタル時代のKPIマネジメントとの両立
アナログ現場に寄り添うデジタル活用
近年はIoT・AIの進展で、手動で記録していた帳票や報告書も、自動化デバイスがデータとして吸い上げてくれるようになりました。
しかし、ITリテラシーが低い現場や、昭和型文化が根強い職場では「機械任せは不安」「現場に合ったデータしか信用しない」といった抵抗感が根強くあります。
そこで重要なのは、“新旧ハイブリッド”のアプローチです。
たとえば、習熟しているベテラン職人の知見をヒアリングしつつ、効率記録はデジタル端末でなるべく負担なく自動化する。
現場で“意味が通じる”データのみをKPI指標に選定し、過剰な情報で現場を混乱させない。
こうした工夫が、デジタルとアナログ両方の良さを持った、現場目線の生産性改善につながります。
KPIは「現場の進化」を測る鏡
KPIというのは、あくまで「現場が進化しているか、自分たちのやり方は本当に正しいか」を点検する“鏡”です。
決して「やらされ感」や「達成だけの道具」になってはいけません。
人と設備の関係性・現場育成・サプライチェーン全体の健康状態…あらゆる要素のバランスをこまめに点検し、軌道修正し続ける営みが、真の生産性向上を実現します。
サプライヤー・バイヤーの立場から見た現場KPIの本質
バイヤーが理解すべき「現場リソースの限界」
サプライヤーや購買担当者にとっても、生産現場のKPI運用の苦しさを理解することは極めて重要です。
「1割安く」「1割早く」といった要求を一方的に突き付けるのではなく、現場がどんな制約下で生産しているのか、現場改善と連携できる余地がどこにあるのかを探るべきです。
一緒にKPIの中身を議論し、「どこまでなら無理なく効率化できるのか」「お互いどの情報をシェアすれば改善アイデアが出るのか」を探る時代です。
パートナーとしての「共通言語」を育てる
生産性改善KPIの本質は、「相手を思いやる目線」にあります。
バイヤー・サプライヤー双方が同じ現場KPIレベルのデータをオープンにし、「持続的な改善」に向かって一体感を高めていく姿勢が、今後の業界標準になるでしょう。
まとめ:現場に根ざしたKPIで真の生産性革新を
生産性改善のKPIが机上の空論になることで現場が疲弊する…これは決して珍しい現象ではありません。
ですが、その解決策は「現場目線のKPI設計」と「現場の声を生かす巻き込み型改善活動」、「経営と現場の双方向コミュニケーション」にあります。
昭和から抜け出せない業界動向を変えるには、管理職や経営側こそ“数値”に縛られず、現場とともに考え、改善の歩みを止めないことが求められています。
現場で働く皆様が、KPIの重圧を少しでも和らげ、真の意味で「生きたKPI」を作り、持続的な生産性向上を目指していくことを心から願っています。
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