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設計思想の共有不足でメカ・電気・ソフトが完全分断される課題

目次
はじめに:なぜ設計思想の共有が重要なのか
製造業の現場で日々課題として浮上するのが、メカ・電気・ソフトの分断です。
とりわけ顕著なのが、設計思想の共有不足による開発・生産現場の非効率化です。
昭和時代からものづくり現場では「メカはメカ屋」「電気は電気屋」「ソフトはソフト屋」という縦割り意識が根強く、未だに壁が残っています。
このような現象はなぜ起こるのでしょうか。
また、この壁を乗り越え、現代のグローバルな競争環境の中で戦える現場を築くためには何が必要なのでしょうか。
本記事では、現場経験に裏打ちされた具体的な事例を交えつつ、課題と解決へのアプローチを徹底的に考え抜いて解説します。
設計思想の共有不足で生じる3つの代表的な弊害
1. 設計の手戻りと品質トラブル
部署ごとに異なるゴールや優先順位で設計が進行すると、当初の目的や本質的な要件がぼやけます。
その典型例が「現物合わせ」の現場です。
メカ設計が終了した後、電気・ソフト側で物理的制約を見落とし、配線や組み込みスペースの都合で仕様変更を余儀なくされる――これにより手戻りが発生し、納期遅延やコスト増大につながります。
また、互いの設計意図が伝わらずに、「ソフトでは対応してくれるだろう」という思い込みで未確定なインターフェースを残してしまうケースも多く、品質トラブルの温床となります。
2. ノウハウの属人化・ブラックボックス化
設計思想が部門ごとに閉じたままだと、開発過程や設計理由がブラックボックス化します。
ある装置の仕様変更や、過去トラブルの再発を防ぎたい際、全体像が分かる人間が限られ、抜本的な解決ができません。
属人化により、「あの部分は○○さんしか分からない」といった状況が生まれ、担当者の退職や異動で、ノウハウや技術資産が失われるリスクが高まります。
3. 働き方改革・多能工化への逆行
最近の製造現場では、少人数・多能工で効率的に生産する方向への転換が求められています。
しかし、設計思想の分断が進んだ状態では、メカ担当者が電気やソフトをカバーできず、逆に「分業の壁」が高くなり、多能工化に逆行していきます。
これにより、新人育成やバックアップも滞りがちです。
昭和型アナログ思考が今なお根強く残る背景
この課題には、製造業の歴史的な成り立ちや文化も深く関係しています。
昭和時代の大量生産期には、分業効率を優先して「設計-生産-検査-組立」など業務を細かく切り分けてきました。
しかし、時代が変化し、機械装置や生産システムの高度化が進んだことで、メカと電気、ソフトの依存度・連携度は飛躍的に高まっています。
にもかかわらず、アナログ的な「分担主義」が根強く残り「自分の範囲だけやればOK」という意識が抜けきらない現場が多いのが実態です。
また、設計ドキュメントも紙ベースが根強く、情報のリアルタイム共有やバージョン管理が進まない要因になっています。
現場で見た分断事例と、その裏側に潜む構造
現場事例1:配線トラブルで納期遅延
ある装置メーカーでは、最初にメカ設計が形をまとめ、その後、電気設計が配線レイアウトを詰めていく手法が採用されていました。
メカと電気、双方が打ち合わせを重ねてはいるものの、双方に「自分側で何とかする」という暗黙の思い込みがありました。
その結果、配線経路が物理的にどうしても収まらず、その場しのぎで手直しを行う羽目になり、装置の納期が2週間遅延しました。
現場事例2:ソフト設計の後工程で仕様矛盾・再設計
ソフト開発部門では、現場経験の浅い新入社員が、装置の電気信号仕様を十分認識しないままソフト設計に着手。
後からハード側のインターフェース仕様書に齟齬があることが発覚し、すべての制御ロジックを作り直すことになりました。
ハード側とソフト側で設計思想を共有する文化がなかったことが、手戻りの温床になった典型例です。
設計思想を共有する仕組みを生み出すには
設計思想の共有を実現するためには、仕組みと文化の両面で強力なアプローチが不可欠です。
1. 初期段階での「三者横断設計レビュー」
装置や設備開発の最初期、プロジェクト目標や全体アーキテクチャをすり合わせる場を必ず設けましょう。
部門横断で、メカ・電気・ソフトの設計者が一堂に会し、設計思想や狙い(コアバリュー)を率直に共有します。
ここで「なぜこの構造か」「なぜこの制御方式か」をPM・品質管理・現場担当を交えて話し、それぞれが納得いく形に整理しておくことが肝要です。
2. 要求仕様と設計思想を「言語化」し見える化する
設計思想の共有には、ドキュメント化とビジュアル化がきわめて有効です。
「単なる仕様書」ではなく、装置・部品の“狙い”や“根拠”といった目に見えにくい情報を、社内Wikiや共有クラウド等で誰もがアクセスできる状態にします。
たとえば、「電気的インターフェースはなぜこの信号構成にしたか」「冗長設計はどこまで許容するか」など、担当者の思考プロセスまで“見える形”に残すことがポイントです。
3. 若手・異分野交流を促進するタスクフォース運用
部署横断で若手中心のチームを発足させ、課題ごとに最適解を議論する仕組みを設けましょう。
「普段関わらない部門の視点」が不可欠です。
例えば「メカ屋」が「ソフトの困りごと」や「電気屋」の知見を学ぶ機会を増やすことで、現場の壁が徐々に低くなります。
人事ローテーションやOJTを通じて、複数分野の経験を積むしくみも有効です。
4. DX推進・デジタル化による情報一元管理
紙資料や口頭伝承に頼っていたノウハウは、デジタル化して一元管理すべきです。
PDM(Product Data Management)やPLM(Product Lifecycle Management)システムを導入し、各設計データ・会議記録・レビュー意見などが一目で分かる仕組みへ。
トレーサビリティやナレッジの社内蓄積により設計手戻りのリスク減、現場力強化につながります。
アナログの強みも活かす「ハイブリッドな現場力」の重要性
とはいえ、すべてをデジタル化・標準化すればうまくいくわけではありません。
日本の製造業が世界に誇る現場力――すなわち「スピード感ある手直し力」や「現場合わせでの職人技術」も、アナログの副産物であり、無視すべきではありません。
むしろ、アナログの強みとデジタル共有文化を「いいとこ取り」した“ハイブリッド現場力”を目指しましょう。
たとえば、設計レビューやトラブル対応の際は、現場に集まって熱量ある議論を交わしつつ、その内容をすぐデジタルツールでまとめて全員と共有する、といった運用です。
両者の長所を最大化することで、世代間知見の伝承や多能工化も加速します。
バイヤー・サプライヤー間で設計思想を共有する価値
バイヤー、サプライヤーという異なる立場で商談に臨む場合でも、設計思想の共有は極めて重要です。
相手が望む真意、本質的な要望をとらえ、「なぜその要求・仕様変更が必要なのか」を正確に理解することが差別化につながります。
また、こうした設計思想や全体像への理解は、納期遵守・品質向上・コスト低減といった三方良しの取引実現に不可欠です。
たとえば「なぜ従来工法ではNGか」「設計変更がどの領域に波及するか」を共有することで、リスクヘッジもスムーズに行えます。
結論:分断を打破し、設計思想共有文化を育むために
設計思想の分断による課題は、根強い文化や習慣が壁となり、簡単には解決しません。
けれども、今のままではグローバル競争や人手不足、多様化する顧客ニーズへの対応が遅れ、競争優位を確立できなくなります。
まずは「誰のための設計か」「理想の現場はどんな姿か」を職場全体で考え直しましょう。
そして、メカ・電気・ソフトの枠を越えた真の“現場力”こそ、これからの日本の製造業復活の鍵です。
現場で闘う方々が日々ラテラルな発想で切磋琢磨し、設計思想の共有を愚直に貫き、次世代産業を形作っていくことを心から応援しています。
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