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航空機エンジン関連部品向け大型ターニング加工の進め方

目次
はじめに:航空機エンジン部品加工の現場から見る本質
航空機エンジン関連部品向けの大型ターニング加工は、製造業の中でも特に高精度と高品質、そして多くの規制遵守が求められる分野です。
その一方で、この業界は意外なほど昭和的なアナログ手法が色濃く残る現場でもあります。
この記事では、私自身が20年以上の製造業現場で培った知見とともに、「なぜ航空機エンジン部品の大型ターニング加工は難しいのか」「どのように現場が進めるべきか」「購買・バイヤーやサプライヤー間で共有すべき本音」までを、元工場長の目線から深堀りしていきます。
航空機エンジン部品とは何か?大型ターニング加工が担う役割
航空機エンジン部品は耐熱性や強度、軽量化など、一般産業部品では満たせない特殊な要求が付きまといます。
特に大型ターニング加工は、シャフト、ディスク、ケースといった回転対称部品で多く採用されています。
これらのワークは、直径数百ミリから2メートルを超えるものまで多岐にわたり、その一つひとつが極端に高い要求水準をクリアしなくてはなりません。
また、ほとんどの場合で一品受注生産(片番多品種少量)となり、冶具・工程設計や品質保証手順が“流れ作業化されにくい”という難しさも存在します。
業界動向:昭和的アナログ慣習とデジタル化のはざまで
近年、製造DXやトレーサビリティ、IoT化推進などが話題です。
しかし、航空機エンジン部品の現場は、いまだに手書きの工程管理表や、熟練工の“勘・コツ・暗黙知”が支配する領域が根強く残っています。
理由の一つは、「万が一の品質不良が飛行安全に直結する」という絶対にミスが許されない独特のプレッシャー。
リスク回避、手戻り工数・納期遅延といった問題があるため、新しい技術や管理手法の導入も、常に“前例主義”と現実的折衝のせめぎ合いとなっています。
現場の課題:大物部品加工ならではの難しさ
1. ワークの重量やサイズが大きく搬送・チャッキング・加工すべてに特別なノウハウが必要
2. 熱変形や応力緩和の制御が難しく、寸法保証が高度
3. お客様の「KEY特徴管理項目」が非常に多く、工程内検査も煩雑
4. 同業間での設備・技術格差が大きいため、購買先(サプライヤー)選びが困難
大型ターニング加工を進めるためのSTEP
STEP1:図面/仕様の深読みから始まる事前検討
まず重要なのは、支給される図面や3Dデータを鵜呑みにせず、自社の加工ノウハウ・工程能力を冷静に照らし合わせることです。
航空機エンジン部品は“全数寸法保証、全工程トレース”が当たり前。
たとえ図面上で追加仕様がなくとも、穴精度や嵌合関係、仕上げ面粗度、材料指定(例:ニッケル系超合金やチタンなど)が盛り込まれています。
材料入荷と同時に「ミルシート」「工程プロセス承認(FAI:First Article Inspection)」のスケジュールも頭に入れておきましょう。
STEP2:加工工程(ルーティング)の設計
ここでは単なる旋盤チョイスではなく、各加工段階(粗加工・中仕上・仕上)と熱処理、検査、保管方法まで洗い出して逆算プランニングを行います。
特に大物ターニングは、工程間での搬送ミスや取り違い、脱着時の変形などアナログ管理が多いポイントです。
搬送台車や一時保管ワゴンの設計も重要な付帯業務となります。
また、段取り時間短縮や治具設計の工夫は、生産性と品質保証双方に大きく影響します。
STEP3:設備アサイン&加工プログラム作成
大型NC旋盤の選択・負荷調整はもちろん、「ワークセットの限界」は必ず現場と打合せを。
CAD/CAMによるNCプログラム作成時は、工具摩耗や切削負荷予測、スワーフ仕上げなどの工夫が不可欠です。
航空機業界向けでは、段取り作業をきちんと「順序化」「標準化(WI)」することが社内監査・顧客監査いずれでも高く評価されます。
STEP4:検査・品質保証とトレーサビリティの徹底
“加工して終わり”が許されないのがこの現場です。
まずは工程内でインプロセス寸法管理を、限界ゲージやCMM(3次元測定機)でマメに実施。
測定記録は、手書きであっても誰がどのタイミングで測定したか一元管理が必要です。
また、お客様支給の「特別工程監査(Special Process)」やFMEA(故障モード影響分析)も事前に準備しましょう。
STEP5:納入・出荷管理、顧客との最終コミュニケーション
航空機部品で特に気を付けたいのが「出荷時の梱包」と「納入書類(出荷証明、工程認定書等)」の整合性です。
欧米エアラインやIHI、川重など顧客がグローバルとなれば、記載フォーマットや言語仕様にも細心の注意が求められます。
現場主導のちょっとしたミス(書類不備や表記ズレなど)が、多大な納入遅延・クレーム発生の引き金になることも多々あります。
バイヤーが本当に見ている現場力と選び方
航空機エンジン部品業界のバイヤーは単なる価格勝負では動きません。
むしろ、“加工現場・工程レベルでどこまで想像力と先取り準備ができているか”に注目しています。
バイヤーが重視するのは以下のポイントです。
生産技術・工程管理能力
・段取り替え、加工プログラム最適化、治具工夫の知見とPDCA実践力
・突発事象(機械停止、材料不具合など)に対するフロー改善経験
品質保証・変更管理のプロ意識
・FAI、特別工程監査、国際規格(AS9100、NADCAP等)認証取得の有無
・全数記録、測定器管理といった“実効力”の裏付け
柔軟なコミュニケーション力
・部品ごとの重要管理項目を“なぜ要求されるか”背景まで翻訳できる中間管理職や技術者の質
・顧客からの突発変更、緊急納期などに“ただNOと言わず、代替案を提案できる姿勢”
特にグローバル案件では、英語での工程説明やQ&Aができる人材の有無が、商談可否を左右するシーンも増えています。
サプライヤーの立場で知っておきたい「バイヤーの視点」
多くのサプライヤーは「自社の加工技術」「過去の成功事例」だけを前面に出しがちです。
しかし航空機部品バイヤーは、こうした“手段”だけでなく「本当に治具・工程安定化まで一貫対応できるか」「イレギュラー案件への腰の重さ」を見抜いています。
ですから、納期遵守への工程改善や、“不測の事態”へのシナリオプランを日々アップデートしているかが大きな評価軸となります。
また、調達購買部としては「1社専任リスク」を嫌います。
一方で、大型ターニング分野は“職人技の属人化”を言い訳にしやすく、技術承継や計画的教育に遅れがちです。
この“現場力の見える化”と“技術の分散化/チーム化”こそが、今後のサプライヤーの競争力といえるでしょう。
昭和的現場を進化させるためのラテラルシンキング
ここで最後に、昭和的“ムリ・ムダ・ムラ”が残る現場をどうアップデートするか、一歩踏み込んで考えてみましょう。
現場とデジタルのハイブリッド型アプローチ
・IoTセンサーで加工中の振動値や温度変化をリアルタイム収集し、ベテランの「勘」と数値を照合
・工程内確認書をタブレット化、ライブで工程進捗と異常検知をシェアし即時対処
・FAIや出荷証明書も電子化し、顧客と安全かつスピーディーな情報連携を目指す
これらは一朝一夕には進みませんし、現場の反発も想定されます。
しかし“ヒヤリハットは現場の宝”という昭和の感覚を活かしつつ、新世代の現場管理テクノロジーを盛り込むこと。
まさにラテラルシンキングで「現場×デジタル」の共存を模索していくことが、次世代サプライチェーンの強靭化に繋がると考えます。
まとめ:航空機大型部品ターニング現場で求められる真の力
航空機エンジン関連部品向けの大型ターニング加工は、設備・技術・人材・管理のいずれもが極めて高次元で要求されます。
昭和の職人気質と最新技術を有機的に組み合わせ、「意図を自ら読み取り、工程全体の最適化を図る力」の有無が、これからの現場・バイヤー・サプライヤーそれぞれに求められる真の“競争力”となるでしょう。
航空産業の未来のためにも、現場に根付いた本質的な知識と、変化を楽しみながら成長する姿勢を持ち続けていただきたいと思います。
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