投稿日:2025年8月26日

突発的な需給変動でリードタイムが守れない問題

突発的な需給変動でリードタイムが守れない問題

はじめに:なぜいま「リードタイム」が問われるのか

製造業において、納期を守ること、すなわち「リードタイム管理」は最重要課題です。

かつての大量生産・大量消費の時代には、多少の在庫を積み増すことで納期遅延リスクに備えることができました。

しかし、近年は受注生産や多品種少量生産へのシフト、グローバルサプライチェーンの複雑化、サステナビリティへの要請など、状況は大きく変わっています。

特に「突発的な需給変動」により、計画通りにモノが流れず、リードタイム順守が難しくなるケースが増えています。

本記事では、現場で直面する「リードタイムが守れない問題」について、私の20余年の経験と、時代背景を交えつつ解説します。

また、バイヤー(調達担当)やサプライヤーの立場から解決の糸口を一緒に探っていきます。

需給変動のパターンと現場で起きていること

需要と供給のバランスが崩れる場面は多岐にわたります。

例えば、

・エンドユーザーからの突発的な予備注文やキャンセル
・新製品の立ち上げに伴う一時的な部品要求の急増
・海外からの原材料供給の遅延や国際物流の混乱
・自然災害や地政学リスクによるサプライチェーン分断

といった「想定外」がしばしば現場を襲います。

この時、多くの工場現場、特に昭和から続くアナログ体質の業界では、

・計画変更にシステムが追いつかない
・現場担当が紙の指示書・電話・FAXで伝達を余儀なくされる
・在庫管理が手作業で、実際の在庫と帳簿が合わない
・ベテラン頼りで属人化しており、人が変わると対応力が下がる

といった課題が顕在化します。

「リードタイムが守れない」は、バイヤーとサプライヤーのすれ違い?

バイヤー視点では「約束した納期でモノが来ない」と頭を抱えます。

サプライヤー側は「急な仕様変更」や「突然の注文増加」に右往左往。

双方向の立場を経験してきたからこそ分かるのは、
多くの場合、コミュニケーションギャップ、情報の遅延、リスク認識のズレが根本要因です。

例えば、

・バイヤー:「今月末納品できるって言ったじゃない!」
・サプライヤー:「材料が入らなかった。急な注文増も来て、生産がまわらない。無理だ。」

ここで重要なのは、ただ責める・責められる関係ではなく、需給変動が起きた“前提”で協働する姿勢に切り替えることです。

突発需給変動への現場的対策5選

1. 「柔軟な生産計画」の導入
従来の固定した生産スケジュールでは対応困難です。

需給バランスが崩れた際に、即座に生産順序や量を再調整できるよう、
生産管理・計画部門が日常的に現場と密に連携し、判断スピードを高めましょう。

2. 在庫の「見える化」
棚卸や記帳ベースの在庫把握では、変動時にタイミングを逸します。

IoTデバイスによる「リアルタイム在庫可視化」や、重要部品の「安全在庫レベル」の定量的設定が肝要です。

一方で、現場紙文化からの脱却にはハードルもあるため、まずは主要在庫のみのサイクルカウントなど、段階的な運用改革も有効です。

3. サプライヤー連携の深化
単なる「取り引き相手」以上に、計画段階からの情報共有や、リスク発生時の相互調整ルール(VMIやCPFRなど)を導入しましょう。

具体的には、需給変動の際にメール・電話ではなく、WEB共有シートやポータルサイトを通じて即座に不足情報や代替案をやり取りできる仕組みづくりです。

4. 「属人化」からの脱却、標準化ツールの活用
ベテラン社員の“勘と経験”に依存した需給・納期調整は、一時的な危機対応としては強い一方、持続性・再現性に欠けます。

ITツールやRPA、ワークフローソフトを使った定型化によって、誰でも一定品質の判断と対応ができる体制を築きましょう。

5. 予測と実績の「ギャップ分析」サイクル
過去の「予定vs.実績」のズレを定期的に分析し、予測精度を改善する“仕組み”を回し続けること。

個人の対処ではなく、組織としてPDCAを回転させることで、
突発変動への「体質向上」となります。

業界動向:昭和型のアナログ運用の壁と、デジタルシフト

日本の製造業の多くは、伝統的な先輩重視、現場主義のカルチャーが色濃く残っています。

「紙と鉛筆、口頭伝達が一番確実」、「新しいシステムは現場になじまない」といった声も根強いものです。

現場の“闇”として以下がよく見られます。

・突発受注のたびに「何とかして」と、現場を走らせる昭和型マネジメント
・残業ありきの納期対応で、結果として品質事故・ヒューマンエラーも増加
・全社最適よりも、各部門単位の「その場しのぎ」、情報伝達の遅滞

ですが、ここ数年のパンデミックや地政学リスク(ウクライナ危機・中東リスク等)を経て、
多くの大手メーカー・一部中堅メーカーでは「サプライチェーン全体のデジタルシフト」や「サプライヤーイノベーション推進」が急ピッチで進み始めています。

欧米・アジアの競合では「SCM(サプライチェーンマネジメント)」「S&OP(販売・生産統合計画)」をベースとした多階層・多主体連携の仕組みが一般化しています。

日本でも、部分最適を脱した“全体最適”志向の変化が課題解決の鍵となりつつあります。

これからの製造業バイヤー・サプライヤーに求められる資質とは

突発的な需給変動やリードタイム遅延に毅然と対応できるバイヤー・サプライヤー。

そのためには、「現場事情の理解」「多角的な視点」「デジタルツール活用力」「協調と論理的交渉力」が求められます。

また、「現場思考」と「システム思考」の二刀流が理想です。

・現場で何が起こっているのか、自分の目で見て、肌で感じる
・同時に、全体の流れフローや需給パターンをデータ・ロジックで捉える

これが、ただの“御用聞き”や“現場押し付け役”ではない、次世代バイヤー・サプライヤーの姿です。

まとめ:突発需給変動時代の「強い現場力」

リードタイムが守れない、突発需給変動に対応できない――。

こうした悩みは“他人事”ではありません。

サプライチェーン全体の強化、現場力とデジタルの融合、組織・人材の意識改革こそが、製造業の未来を切り開く鍵となります。

昭和型のやり方+デジタル化+協働、この三位一体で、日本のものづくりがより信頼され、「守りきれるリードタイム」を手にする時代が到来するはずです。

「アナログの良さ」を活かしつつ、「DXの武器」を取り入れる。

これからの日本製造業、そのバイヤー・サプライヤーの挑戦に、私たちは知恵と行動で応えていきましょう。

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