投稿日:2025年6月18日

電子・電気機器の寿命試験・ライフエンド試験と評価および信頼性・安全性設計への活かし方

はじめに

電子・電気機器は、私たちの生活や産業のあらゆる場面に不可欠な存在となっています。
一方で、これらの製品には「どれだけ安心して使えるか」「どの程度の期間、問題なく使用できるか」という信頼性や寿命に関するユーザーからの厳しい要求が付きまといます。
とりわけ製造業の現場やバイヤー、そしてサプライヤー双方にとって、「寿命試験」「ライフエンド試験」といった評価プロセスは、単なる品質確認作業ではなく、設計・開発・調達の根幹に関わる重要なテーマです。
今回は、電子・電気機器の寿命試験・ライフエンド試験およびその評価手法、さらにその結果をいかにして信頼性や安全性設計に活かしていくべきかについて、現場目線で詳しく掘り下げます。

寿命試験・ライフエンド試験とは何か

寿命試験の基本的な考え方

寿命試験とは、製品や部品がどの程度の期間、仕様を満たしたまま安全に機能し続けられるかを予測する試験です。
環境ストレス(温度、湿度、振動など)や電気的ストレス(電圧、電流、パルスなど)をかけて、意図的に経年劣化や摩耗を促進し、その結果から実使用時の耐久年数や“不具合が発現するまでの期間”を推測します。
試験方式としては「加速寿命試験」や「リアルタイム寿命試験」が主流です。

ライフエンド試験とは

ライフエンド試験は、製品や部品が実際に寿命に到達し、その限界性能や最終的な故障モードを把握するための試験です。
最終的にどのような壊れ方をするか、その際に安全リスクがないか、不具合の顕在化が製品全体に与えるインパクトなどを評価します。
故障モード解析(FMEA)や信頼性工学にも直結するプロセスです。

現場で求められる寿命試験・ライフエンド試験の実践ポイント

求められる理由:バイヤーとサプライヤー双方の視点

バイヤーにとって、信頼性や寿命性能が作り込まれているかどうかで、調達判断や製品保証の方針が変わります。
一方、サプライヤーは試験結果をエビデンスとして、正しい仕様確認・契約交渉・市場参入リスクヘッジの武器とします。
とりわけ日本の製造業界、特に老舗企業が多い電子・電気分野では「現場で使い倒す」視点、つまりカタログスペック通りに動かない厳しい実使用環境での信頼性検証が強く求められる傾向にあります。

現場で“本当に必要な試験シナリオ”をどう描くか

試験は「とりあえずやる」のではなく、使用環境や想定される故障モード、コストや納期、顧客要求まで総合的に踏まえたシナリオ作りが重要です。
たとえば、工場の自動化設備向け電気部品なら、振動や温度変化のみならず“埃・油ミストなどの特殊因子”も加味し、それらが複合した状態で試験を設計するべきです。
決してカタログスペックの繰り返しではダメで、「現場×設計×信頼性」の三位一体で試験フローを作り込む必要があります。

寿命試験・ライフエンド試験の主な手法と評価方法

加速寿命試験(Accelerated Life Test)

現実の使用環境よりも厳しいストレスを短期間で与え、早く故障させることで長期寿命に相当するデータを取得します。
理論的にはアレニウス則やEyringモデル(加速因子※温度や応力値に応じた劣化速度の仮定)に基づき、実使用時間に換算します。
ただし、加速条件が実際の劣化現象と一致していないと誤った寿命推定をするリスクもあるため、実績値や前例とのすり合わせ、現場ヒアリングが欠かせません。

リアルタイム寿命試験(Real Time Life Test)

製品を標準的な使用環境下で長期間運転し、実際の劣化挙動と故障モードを観察します。
加速試験よりも期間・コストがかかりますが、現場のリアルな使用状況や装置組み込み時に発生する“現場特有のトラブル原因”の把握が可能です。

繰り返し動作・サイクル試験

リレーやスイッチなど、機械的動作機構を持つ部品の場合、「何回のON/OFFで故障するか」を調べるサイクル試験が有効です。
製品の「耐久サイクル回数保証」を裏打ちするデータとして重宝され、量産後の保証体制やサービス対応フローにも直結します。

HALT(Highly Accelerated Life Test:高加速寿命試験)・HASS(Highly Accelerated Stress Screen)

HALTは極端な温度変化や振動、電気ストレスを重ねて短時間で欠陥や弱点を炙り出します。
個々の部品や組立品・システム単位での“隠れた弱点発見”に有効です。
HASSは量産段階でのロットごとの品質保証や初期不良検出に活用されます。

試験データからどう信頼性・安全性設計に活かすか

不具合モード・メカニズムの深掘り

試験中の微細な異常兆候や、統計的な故障データを正確に読み取り、根本原因を推定・特定することが重要です。
たとえば、加速試験で特定部位の摩耗が早い場合、応力集中や部品精度、組立品質の見直しが設計改善のヒントになります。
製品ライフエンド時の破壊挙動や安全リスク(ショート、発火、液漏れ等)の評価も、設計マージンや安全弁設計に直結します。

フィードバックループ作りの重要性

試験で得た教訓や傾向を開発・設計部門に責任を持って伝え、次期モデルや現行品改善に具体的なアクションを落とし込むことが、真の“信頼性設計”です。
また、サプライヤー側も試験データと改善策をセットで顧客に提案することで、単なる価格勝負から「パートナー型提案」への転換が可能になります。

予防保全・予兆管理への応用

近年ではIoTやエッジコンピューティング技術を活用し、現場でのセンサーデータ取り込み&AI解析による“予防保全”や“予兆検知”が現実的になっています。
寿命試験やライフエンド試験で得た劣化トレンドやしきい値判定をアルゴリズム化し、製品稼働後の早期異常予測や通知システムへと高度化する動きも加速しています。

業界動向:昭和型アナログ文化とデジタル変革の狭間で

帳尻合わせ文化からの脱却は進むか

日本の製造業には「現場のベテラン勘」「帳尻合わせ」「職人気質が保証する暗黙の信頼」といった昭和レトロな風土が根強く残っています。
たとえば「壊れたら呼んでくれ」「この部品は毎年手当て交換するから大丈夫」という場当たり運用が、実は根本的な信頼性評価の曖昧さに直結しているケースがしばしばあります。
しかし、海外や大手企業のTier1バイヤーは近年、“証拠”や“データ”そして“物理的根拠に基づいた提案”を厳しく求めています。
寿命試験・ライフエンド評価の標準化や自動化、そして開発・調達・サービス各部門がシームレスにつながる仕組み作りが今後のカギです。

試験・評価データのDX(デジタルトランスフォーメーション)化

試験データを紙・表計算ソフトで管理・保管していた時代から、クラウドやデータベースプラットフォームへの転換が加速しています。
時系列データによるトレーサビリティ強化や、AI・機械学習による不具合兆候の自動検出、さらにはビッグデータの活用による設計初期段階での信頼性予測など、「失敗に学ぶ文化」のデジタルシフトが求められます。

まとめ:寿命・信頼性評価で未来の製造業を強化するために

電子・電気機器の寿命試験やライフエンド試験は、単なる製品チェックではなく「信頼の設計」「安全の作りこみ」「新たなパートナーシップ形成」のカギとなる取り組みです。
現場で培った経験知と科学的・合理的なデータ解析、市場やバイヤー要求の動向、そしてデジタル技術の進化を三位一体で活用することで、日本の製造業は新たな地平線を切り拓くことができます。
バイヤーとしての精度ある判断力、サプライヤーとしての提案型信頼性力、現場全員の“自分事”としての品質・安全へのこだわりが、激動のグローバル市場で勝ち抜く力につながります。

寿命試験・ライフエンド評価の徹底と仕組み化こそが、「失敗を科学する」文化を根付かせ、真の安全・安心を提供する製造現場の進化を支えます。
今こそ、現場の視点と現代技術を融合させて、次代の製造業をリードしていきましょう。

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