投稿日:2025年6月17日

チューブハイドロフォーミングによる軽量化・高精度成形技術と製品への応用例

はじめに:製造業の現場を変えるチューブハイドロフォーミング技術

チューブハイドロフォーミングという言葉をご存知でしょうか。

自動車部品や家電フレーム、さらには航空機分野に至るまで、近年急速に注目を集めるこの技術は、「強度」「軽量化」「複雑形状への対応」という相反するニーズを同時に満たす成形方法として着実に地位を築いてきました。

しかし、いまだに日本の多くの製造業の現場では、昭和時代から続くアナログな手法や金属加工の常識が根強く残っています。

本記事では、20年以上もの現場経験と管理職として多くの改善PJに携わってきた筆者の視点から、「チューブハイドロフォーミング」の基本と、そのポテンシャルを最大限に引き出す現場実装ノウハウ、さらにはバイヤーやサプライヤー視点、それぞれが押さえておくべきポイントについて、実例を交え体系的にわかりやすく解説します。

チューブハイドロフォーミング技術の概要と基本的なプロセス

チューブハイドロフォーミングとは何か?

チューブハイドロフォーミング(Tube Hydroforming、以下THF)は、金属パイプ内に高圧流体(主に水や油)を注入し、型(ダイ)内でパイプ素材を膨張させながら成形する塑性加工技術です。

従来のプレス成形や曲げ加工では困難だった複雑形状・肉厚可変・均一な強度分布を実現でき、アッセンブリ点数削減や従来工法に比べ軽量・高強度部品を製造できるのが大きな特徴です。

基本プロセスと現場での流れ

THFの工程は大まかに次の流れになります。

1. パイプ素材(アルミ、ステンレス、炭素鋼など)を初期形状にカット。
2. パイプを金型にセットし、エンドシール装置で両端を密閉。
3. 内部にプレス油もしくは水を注入し、高圧(数百~数千バール)で加圧。
4. 同時に端末方向から材料を加圧して伸ばすことで、しわや割れを防止。
5. 設計形状まで拡径・成形した後、圧力を開放し、ダイから部品を取り出す。

近年では、冷間成形だけでなく、温間・熱間ハイドロフォーミングにより、さらに難成形材や厚肉材への適用も進みつつあります。

なぜ今THFが注目されているのか?軽量化・高精度化へのニーズ

自動車・精密機器業界を中心とした流れ

世界的な燃費規制、自動車のEV化、CO2 排出削減圧力の高まり、製品の省エネ化要請を受け、業界全体で「軽量で剛性が高いフレーム・モジュールパーツ」の開発が加速しています。

また、消費者のニーズ多様化や個別最適化設計(モジュラーアーキテクチャ採用)により、仕様数が爆発的に増加し、試作リードタイム短縮や型費低減も重要課題となっています。

このような背景のもと、THFは以下のメリットで脚光を浴びています。

・一体成形による部品点数削減
・しわ・割れ抑制による高精度成形
・型設計の自由度向上によるコストダウン
・従来より薄肉化でき、部品重量を低減

筆者も現場でEVモジュールフレーム開発を行った経験がありますが、「従来5部品の溶接アセンブリを1品番で一気に成形できた時の量産インパクト」は非常に大きなものでした。

「昭和型現場」から「スマートファクトリー」への布石

昭和の現場では、手作業溶接や汎用プレス機による量産工程が主流でした。

そこでは「型交換の手間」「金型の摩耗管理」「熟練工頼みの作業」など、非効率が常に課題となっていました。

一方THF導入による自動化は…

・金型セット、パイプ自動供給→全自動一貫ライン化
・NC輪郭制御による高精度位置決め
・成形パラメータのIoT連携によるトレーサビリティ強化

と、現場作業のDX(デジタルトランスフォーメーション)にもつながります。

今後、5G通信やAI連携を見据えたスマートファクトリー構築の「基礎インフラ」としてもTHF技術は不可欠な要素になっていくでしょう。

THF技術の応用例と製品実装ノウハウ

自動車分野での応用:ボディフレーム・サスペンション部品

自動車産業では、早くからドイツメーカーを中心にTHFの応用が進んできました。

・ドアインパクトビーム(側面衝突時の安全確保)
・サスペンションクロスメンバー(一体成形で剛性最大化)
・EV用バッテリーケース(冷却ライン・配線スペース組み込み設計)

これらは従来、複数部品を溶接で組み上げていたものを、曲げ・穴あけを同時に行えるTHFで一体化。

最小厚み・最小材料で設計でき、グローバルコスト競争力の源泉となっています。

筆者の経験上、「アッセンブリ一体化=品質不具合削減」に直結し、結果的に検査工数・流出クレームも大幅に減少しました。

家電・精密機器・スポーツ用品への展開

家電や産業機器では…

・洗濯機フレームや冷蔵庫構造体
・耐振設計のための複雑パイプ材料
・自転車やスポーツ用品フレーム(軽量・高剛性化)

にもTHFは応用されています。

かつては海外製しかなかった高級自転車アルミフレームも、国内中小メーカーがTHFで追随しはじめています。

「高精度・個別試作」ニーズの高い精密業界でも、短納期対応や多品種少量の現場でTHFはDX化の起爆剤となるでしょう。

現場での失敗例と導入のポイント

THF導入現場でのよくある課題・トラブル例も紹介します。

・成形圧力・送り速度パラメータの最適化失敗→割れ・しわ・寸法不良
・金型の冷却制御ミス→製品のバリ発生・後加工増加
・搬送工程での精度保持不足→上下流バッファ・人手増

昭和期の「とにかく圧力を上げればなんとかなる」的な発想では成功しません。

型設計、油圧制御、組立搬送、IOT計測まで「トータルでのプロセス設計」が欠かせません。

導入初期は現場と設計、生産技術部門が密にコミュニケーションをとり、パイロットラインで小刻みに条件出し・問題分析していくことが成功の近道です。

調達バイヤー視点:サプライヤー評価とTHF活用の着眼点

バイヤーが重視する課題・査定ポイント

部品調達・購買担当者目線では「どのサプライヤーなら高品質、安定納入ができるか」をシビアに評価する必要があります。

THFを強みとするサプライヤー選定時は、従来以下の観点が高ポイントとなります。

・量産スケールに応じたライン設計力(小ロット→大ロット化できる柔軟性)
・自前の金型設計+試作ノウハウ保有
・成形データのトレーサビリティ(不良解析・品質保証の裏付け)

また近年は、サプライチェーンのBCP(事業継続計画)観点から、「複数素材対応」「内製+外注ネットワーク構築」まで備えた企業への信頼が増しています。

サプライヤー目線:バイヤー最上流のニーズをどう読み解くか

一方、THFを強みとしたいサプライヤー企業は、「バイヤーが何を考え、どこに不安を持っているか」を敏感に捉えることが肝要です。

実際、バイヤー側は…
・量産納期のタクト遵守
・突発トラブル時のQR(Quick Response)体制
・金型・成形コストの見える化
・品質異常時のフィードバック体制

など「安心・安定供給」の実績を重視します。

形式的なスペック値やパンフレットではなく、自社の「現場ノウハウ」「異常対応体制」「自動化設備投資」など、よりリアルな現場対応力をPRし、実地見学やライン立ち合いアピールなどで信頼構築を進めましょう。

今後の進化と日本の製造業への期待

今後、THF技術はAIシミュレーション技術と融合し、短TAT・多品種ラインへの応用が拡がると考えられます。

また、持続可能な製造の観点から、高い材料歩留まり・環境負荷の低減がますます評価されます。

昭和型の手作業・ベテラン頼みの文化から、「現場力×最先端技術」の融合が問われる時代。

これまで筆者が工場長として数多くの改善PJやトラブル対応で感じた現実は、“地道な現場改善”と“社会構造の変革”はどちらも不可欠であり、どちらか一方だけでは製造業の未来はありません。

バイヤー、エンジニア、マネージャー、バッググラウンドの異なる全ての方が「現場のリアル」「先駆的技術」「進化を恐れず実践する意識」を共有し、新たな地平を一緒に切り開いていきましょう。

まとめ

チューブハイドロフォーミングは、現場の常識すら一変させる可能性を秘めた革新的技術です。

昭和から抜け出せないと嘆くのではなく、「進化した現場の最前線」に共に立つ覚悟こそ、これからの製造業にとって最も大切なことではないでしょうか。

この記事が、調達担当者、製造現場の技術者、そしてこれから業界を担うすべての方への“現場力アップ”のきっかけとなれば幸いです。

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