投稿日:2025年6月23日

リチウムイオン電池バッテリーマネジメントシステム設計と安全設計のポイント

はじめに:リチウムイオン電池バッテリーマネジメントシステム(BMS)の重要性

現代の製造業において、リチウムイオン電池は、モビリティ、エネルギー貯蔵システム、さらにはIoT機器など、多様な分野で不可欠な存在となっています。

これに伴い、リチウムイオン電池の安全性とパフォーマンスを最大限に引き出すバッテリーマネジメントシステム(BMS)の設計が脚光を浴びています。

筆者も工場現場で数々のバッテリープロジェクトに関わってきましたが、「電池の安全性と長寿命化」「業界標準への適合」「量産現場でのトラブル最小化」は絶えず意識するテーマでした。

ここでは、長年の現場経験を踏まえ、BMS設計と安全設計のコアポイントを掘り下げます。

バイヤー視点、サプライヤー視点を織り交ぜつつ、昭和的アナログ文化が色濃く残る製造現場のリアルも反映しています。

リチウムイオン電池BMSが求められる背景と業界動向

脱炭素社会とリチウムイオン電池の拡大

近年、世界的な脱炭素社会へのシフトが加速し、EV(電気自動車)や再生可能エネルギーシステムが普及しています。

その中心に位置するのがリチウムイオン電池です。

容量密度の向上やコスト低減競争に加え、メーカーは「いかにして安全に、効率良く運用できるか」を競っている状況です。

その鍵を握るのがBMSです。

事故防止への社会的プレッシャー

近年でも国内外問わず、リチウムイオン電池の発熱や発火事故は後を絶ちません。

特に日本の大手メーカー現場では、「100ppm以下の不良率」「PPMに満たない事故リスクの許容」といった要求が当たり前となりました。

バイヤーとしては、サプライヤーに対し厳しい安全評価やFMEA(故障モード影響解析)の提出を求める傾向が強化されています。

サプライヤー視点でも、リードタイム短縮、コストダウン要求に加え、安全性の絶対水準を押し上げる動きに応じない限り選定リストにすら載りません。

BMSの基本的な役割と機能

BMS(バッテリーマネジメントシステム)は、リチウムイオン電池を安全・最適に利用するための管理・制御装置です。

工場現場でよく見かけるのは下記の機能です。

セル電圧管理

セル単位で電圧を監視し、上限・下限どちらにも逸脱しないよう管理します。

これにより過充電や過放電によるセル劣化や発火を防ぎます。

温度監視

セルやパックの温度センサーからリアルタイムでデータを取得し、過熱状態を検知します。

加熱時には充放電を制御し、安全な状態に復旧させます。

過電流保護

想定以上の大電流が流れると、即時に回路を遮断することで、セル破損や配線焼損を防ぎます。

安全回路設計はBMSの肝とも言えます。

セルバランシング

各セル間の電圧バラつきを補正し、セル全体の寿命を延長します。

車載や大規模ストレージでは、このバランシング精度が歩留まりや製品寿命を大きく左右します。

BMS設計の成功を左右する8つの現場的ポイント

1. 業界・用途ごとに異なる安全要求の見極め

自動車やFA(工場自動化)、エネルギー貯蔵、モビリティなど、用途別にBMSの安全要求は異なります。

例えば、車載用途ではISO26262(自動車機能安全規格)適合や、UN38.3(国際輸送法規)遵守が不可欠です。

工場現場のバイヤーや技術営業は、「このBMSはどの規格まで対応可能ですか?」と細かく確認します。

仕様の初期擦り合わせが不十分だと、追加設計や手戻りの原因となります。

2. セル/パックの不一致問題と設計マージン

リチウムイオン電池は、個体差やバラツキがあり、設計上はスペックどおりの均一動作を期待できません。

現場では「運用環境」「経年変化」によるバラつきが大きな問題となります。

設計段階で十分なマージンや、バランシング回路の冗長化を検討することが不可欠です。

バイヤーは、信頼性試験のデータとマージン設計の根拠を重視し、テストサンプル数の妥当性なども確認します。

3. 保護回路・二重化設計の重要性

日本のものづくり現場では、「フェイルセーフ設計」「冗長化」への要求が極めて高いです。

例えば、FETやリレーによる遮断回路の二重化、独立系統によるバックアップ制御などが推奨されます。

昭和アナログ時代から培われた「前例主義」「実績重視」の文化は、現場での安全設計ノウハウの積み重ねから来ています。

そのため、何重にも安全確保の仕組みを盛り込むことが現場バイヤーの安心感につながります。

4. ソフトウェア制御とハードウェア保護の最適バランス

近年は、AIやIoT、ビッグデータ解析といったデジタル技術の取入れが進んでいます。

BMSの制御ソフトウェアも進化していますが、「ハード依存の安全性」を軽視するのは現場的には危険です。

ソフト障害時、必ず物理的なシャットダウンが機能する構成になっているかがチェックされます。

バイヤーも「この制御はハード/ソフトどちらで閉じますか?」と確認します。

5. 製造現場での組立性と実装チェック体制

設計上完璧でも、現場で組立ミスや配線誤接続が発生すれば意味がありません。

昭和的アナログ現場では、QC工程表や作業標準書の更新が遅れがちですが、BMSのような複雑系のユニットでは現場リードタイムとのバランスを取ることが不可欠です。

量産工場のライン設計、チェック工程の自動化やトレーサビリティ確保は、BMSの信頼性を大きく左右します。

6. 現場でのトラブルシューティング体制とフィードバック

納入後に発覚する不具合や事故もゼロではありません。

その際、現場と設計が速やかに情報共有し、再発防止策につなげるループを構築しているかどうか。

サプライヤーは、現場の生の声を吸い上げて設計に反映するPDCA体制が問われます。

バイヤーは、「現場でのサポートスピード」や「トラブル履歴への対応履歴」もサプライヤー評価項目に含めています。

7. データ解析・AI連携による予知保全と稼働最適化

BMSが収集するリアルタイムデータは、予知保全や生産最適化に大きく貢献します。

IoT連携を進める新興企業では、
・バッテリー寿命予測
・温度・電圧異常の早期発見アラート
・クラウド連携での状態監視
を構築しています。

一方で昭和時代からの工場現場では、「データは取ったが活用できていない」というギャップも多々見受けられます。

今後は、BMSが生データと現場ノウハウを融合させ、「使えるデータ」に昇華する仕組み作りがカギとなります。

8. 標準規格・法令遵守と国際対応

グローバルなビジネス環境においては、各国の安全規格や法規制への対応が欠かせません。

例えば、欧州CE認証、UL認証、PSE(国内電気用品安全法)といった複数規格への多国対応設計は必須です。

初期からバイヤーと擦り合わせ、「どの市場まで広げるか」を明確にして設計パラメータを決定しましょう。

BMSバイヤーがチェックする三大ポイント

バイヤーは、現場導入前に以下の点を重視しています。

安全評価データとトレーサビリティ

どのような評価試験・耐久テストをクリアしているか、試験条件の実運用近似性やテスト履歴の記録方法を確認されます。

設計変更・品質改善のフロー

万が一の設計変更時、品質保証体制や通知・承認ルートが明確かどうか、「なぜ/いつ/誰が」変更したかを正確に追跡できる体制が求められます。

パートナー体制と現場フォロー力

導入後のフォロー体制、トラブル発生時のレスポンスや迅速な現地立ち上げサポート、リーンなコミュニケーション体制を重視しています。

サプライヤーが知るべきバイヤーのインサイト(本音)

・「安全性とコスト、どちらが優先か」と問われれば必ず安全性です。
・「他社に負けない提案(+拡張性)」がなければ見積もりすらテーブルに上がらない。
・現場の「声」と「困りごと」に最速でフィードバックし、改善サイクルを回すサプライヤーは確実に評価されます。
・昭和アナログ現場でも、現実的なデータ+現場ノウハウを融合した“地に足のついた”提案が響きます。

おわりに:新たなBMSパラダイムを切り拓く

リチウムイオン電池のBMS設計は、従来の“ものづくり”と“デジタル連携”、現場の地道な安全文化の両立が不可欠です。

激しい技術革新の中でも、「現場目線」「一次情報へのこだわり」「対話的なバイヤー・サプライヤー連携」にこそ、新時代BMSの競争力が宿ると確信します。

アナログ現場文化の強みと、デジタル技術の融合で、新たな地平線を一歩ずつ切り拓いていきましょう。

製造業に関わるみなさま、それぞれの課題や役割でさらに深化し合い、共に業界の安全・進化に貢献していきませんか。

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