投稿日:2025年10月26日

マグカップの色が長持ちする釉薬配合と二度焼成技術

はじめに:マグカップの色が長持ちしない理由

マグカップは、毎日の生活に欠かせないアイテムです。

特にカラフルなマグカップは、使うだけで気分が明るくなり、オフィスや家庭での癒しにもつながります。

しかし実際には「使っているうちに色がくすむ」「模様が薄れてくる」といった悩みを持つ方が多いのも事実です。

なぜ色が長持ちしないのでしょうか。

その答えは、マグカップの釉薬配合と焼成工程にあります。

釉薬とは?色が長持ちする理由を理解する

マグカップや陶器の表面を覆うガラス質の層、これが釉薬です。

釉薬には「色の鮮やかさ」だけでなく、「耐久性」や「安全性」など、私たちが器を選ぶ際に無意識のうちに重視している要素が含まれています。

この釉薬は主に珪石、長石、カオリン(粘土)、酸化金属などを混ぜ合わせて作られます。

色の元となるのはコバルトやクロム、鉄、銅といった金属酸化物。

その配合のわずかな違いが、発色や色持ち、艶に大きな影響を与えます。

また釉薬には「透明釉」「艶消し釉」「マット釉」など多様なバリエーションがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。

特に鮮やかで美しい色合いを長持ちさせるためには、釉薬の配合比率、粒子の大きさ、添加剤の種類に対する高度な技術力が求められます。

昭和から続く課題―アナログ的な手法の限界

日本の陶磁器業界は、職人技と家族的な企業文化に支えられ、長らく手作業を中心としたアナログ的生産体制が色濃く残っています。

特に地方の窯元や中小メーカーでは、釉薬の配合も職人の「勘」や「経験」に頼りがちでした。

そのためロットごとの品質バラツキや、再現性の不足が大きな課題でした。

この“昭和的”ともいえる技法では、量産や品質保証が求められる現代マーケットへの対応が難しくなりつつあります。

また「調合表」の管理がアナログ台帳や手帳に残されていることも多く、情報の属人化や技術継承の壁となっています。

近年ではデジタル化・自動化の波が押し寄せ、配合データや焼成条件を数値管理するメーカーも増えてきましたが、現場目線では「長年の勘をデジタルで再現するのは難しい」「ICT投資はコストがかかる」といった声も根強く残っています。

色を長持ちさせる釉薬配合のポイント

色が長持ちするマグカップづくりで何より重要なのは、理論と経験の融合です。

現場で培われた知見を踏まえつつ、数値データをもとに最適化された釉薬配合が理想です。

1. 主成分バランスの見極め
まず大切なのは珪石や長石を中心とした主成分のバランスです。

ガラス化しやすく、機械的強度を高めると共に色材(金属酸化物)がよく溶け込み、化学的に安定化する比率を見極める必要があります。

2. 着色材(金属酸化物)の選定
鮮やかな青を出すには酸化コバルト、緑の場合は酸化クロム、赤やオレンジには酸化鉄や酸化銅が一般的に用いられます。

安定した色を長持ちさせるためには、各金属酸化物の純度や粒径、焼成時の収縮に対する相性を考慮することが重要です。

3. 添加剤による機能性向上
耐酸性・耐アルカリ性を求める場合は酸化アルミニウムや酸化ジルコニウムなどの機能性添加剤を適量加えることで、釉薬の化学的・機械的安定性が増します。

これにより食器洗浄機や電子レンジなど、現代の多様な使用シーンにも対応した色持ちを実現できます。

4. マイクロ粒径制御とミキシング技術
釉薬原料の粉砕度合い(マイクロ粒径)は発色や光沢に直結します。

均一で微細な粒子にすることで、釉薬ムラやブリスタ(泡)の発生を防ぎ、表面の均質化と発色の再現性向上を狙います。

「二度焼成」技術による飛躍的な色持ちアップ

特筆すべきは「二度焼成(二回焼成)」という工程です。

これは本焼き前に一度素焼きをし、その後釉薬を施してから再度高温で本焼きするプロセスです。

なぜ二度焼成が必要なのか

・素焼きを行うことで器体の水分や有機物を十分に飛ばし、釉薬がより均一に定着する
・釉薬の流動性が増し、表面の微細な凹凸までしっかりコーティングされやすくなる
・高温本焼きによってガラス質の層が形成され、金属酸化物(着色成分)が釉層の中に安定して分散する

こうした工程を経ることで、長期間の使用にも色がはがれにくく、洗浄や紫外線による退色にも強いマグカップが完成します。

現場目線:一回焼成との違いはココ

省コスト志向で「一回焼成(ワンファイア)」にシフトするメーカーも増えていますが、やはり“色の定着度・耐久性”の面では二度焼成に軍配が上がります。

現場レベルでは、温度管理や焼成時間、釉薬塗布の均一性など細かなノウハウが二度焼成の品質安定に直結しています。

ここは熟練オペレーターの経験が活きる領域であり、昭和的な「現場力」とデータ管理技術のハイブリッド化が求められる場面です。

AI・IoT活用事例:工場自動化による品質安定へ

近年では「AI」「IoT」を活用した釉薬噴霧の自動化装置や、窯内温度をセンサーで24時間自動記録するシステムが普及し始めています。

これにより
・1窯ごとの焼成条件のバラツキ削減
・釉薬配合変更時のテスト結果をデータベース化
・色彩計測センサーによる客観的な色差判定
といった品質保証精度の格段の向上が実現しています。

また、生産日報・不具合履歴もクラウドサーバで一元管理する流れが加速し、技術者の「経験」や「勘」を数値化して若手育成に活かす動きも見られます。

アナログ的な強みである“現場感覚”を継承しつつ、デジタルデータによる再現性・標準化を組み合わせることが、これからのマグカップ製造現場には求められます。

バイヤーが注目すべきポイントとサプライヤー視点の提案

マグカップや陶磁器バイヤーを目指す方は、釉薬配合や焼成工程の具体的な技術内容も重要視すると良いでしょう。

・どのような釉薬原料・着色材を使っているか
・二度焼成が標準工程か否か
・色の耐久試験(洗浄テスト・紫外線テスト等)の有無
・成分分析や色差管理システムの導入状況
など、カタログスペックだけでなく「現場の工程管理レベル」に着目することで、納入後のトラブル回避やエンドユーザー満足度向上につなげることができます。

一方、サプライヤー(工場・窯元)の立場からは、バイヤーが重視しているポイントを理解し、「データに基づく提案力」「カイゼン活動の履歴」「客先フィードバックへの対応事例」などを積極的に情報提供することが、信頼関係構築のカギとなります。

おわりに:色持ちマグカップは、“勘”と“ロジック”の融合技術

マグカップの美しい色を長持ちさせるには、昔ながらの職人技だけでなく、緻密な釉薬配合設計や、焼成工程のデータ管理、さらには新技術の導入が不可欠です。

昭和の「現場の勘」をベースに、最新デジタル技術や品質マネジメント手法を柔軟に取り入れることで、差別化された製品を生み出すことができます。

バイヤーやサプライヤー、それぞれの立場で“現場目線の実践力”と“新しい地平線を開拓する論理的思考”を掛け合わせ、製造業の更なる発展に寄与していきましょう。

最後に、マグカップの色持ちに悩んだとき――ぜひ「釉薬配合」と「二度焼成」を意識して製品選定・製造現場づくりを進めてみてください。

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