投稿日:2025年7月15日

潤滑トライボロジー基礎潤滑摩擦特性評価潤滑油最適選定管理トラブル対策

潤滑トライボロジーの基礎とは

潤滑トライボロジーは、製造業の現場において欠かすことのできない重要な技術分野です。
金属加工や機械設備の運用効率、そして長期間にわたる装置の安全稼働を支えるうえで、潤滑技術の基礎知識は大変重要なものとなります。

そもそもトライボロジーとは、「摩擦・摩耗・潤滑の科学と技術」の総称です。
つまり、部材同士の接触によって発生する摩擦や摩耗、その際に機能部品を守り、効率的に稼働させるための潤滑手段や管理方法の体系化を図る学問分野です。

現代の工場においては、AIやIoTのような先進技術が導入されつつありますが、部品間の摩擦・摩耗現象は依然として根源的な課題です。
高度な自動化機器やロボット等も、根底には「最適な潤滑と摩擦特性評価」に裏打ちされた運用設計が不可欠です。

摩擦の種類と潤滑メカニズム

摩擦の三分類

機械現場で発生する摩擦は、大きく三つに分類できます。
一つ目は「乾燥摩擦」、二つ目が「潤滑摩擦」、三つ目が「境界摩擦」です。
乾燥摩擦は潤滑剤なしに金属面が直接接触した状態。
これに対し、潤滑摩擦は潤滑油やグリース等の潤滑剤が間に介在することで、接触面の摩擦が大幅に減少した状態を指します。
境界摩擦は、その中間の状態で、潤滑油が完全な膜を形成していないものの、ある程度の潤滑効果が得られているケースです。

潤滑油の役割とメカニズム

潤滑油は単なる“滑りやすくする液体”ではありません。
摩擦面間に油膜を形成し、直接的な接触を防ぐ役割を持っています。
この油膜が十分に厚ければ、「流体潤滑領域」と呼ばれ、摩耗や摩擦損失が劇的に下がります。
一方、スタート時や低速運転時など、圧力が高く油膜が破断したり、一定以上の荷重がかかったときは、境界潤滑状態となり、摩耗が発生しやすくなります。
このため、設備の稼働条件や用途に応じて、最適な潤滑油を選定し、管理することが重要です。

潤滑油の摩擦特性評価と最適な選定方法

摩擦特性の評価方法

潤滑油の摩擦特性評価には、主に次の手法が用いられます。
一つ目が、四球式摩耗試験機による評価です。
これは、三つの固定された鋼球の上に一つの鋼球を乗せ、潤滑油を介して荷重・回転を与え、摩擦係数や摩耗痕の大きさから特性を分析します。

二つ目は摩擦摩耗試験機による“摩擦係数曲線”の取得です。
荷重や回転数、温度などの条件を変えながら、実際の摩擦係数や摩耗量の変化を数値で可視化し、現場のニーズに適した油種かどうかを判断します。

三つ目に、現場の実稼働試験があります。
これは機械・装置の定期保全サイクルに合わせ、異なる油種を短期間実際に使い、その摩耗や劣化状態を比較検証する方法です。
工場ごとに使用環境が異なるため、この“現場トライアル”が最終的な決定打となるケースも多いです。

潤滑油の最適選定プロセス

潤滑油の選定は、単に「メーカー推奨品を使う」だけでは不十分です。

まずは下記の観点から機器条件を洗い出すことが大切です。

・稼働時・停止時の負荷、圧力、速度
・稼働温度・環境温度
・露出する可能性のある水や粉塵等外的要因
・機械ごとの使用頻度や負荷変動

これらの条件に合致する「粘度グレード」と「性能(酸化安定性・せん断安定性・極圧性・水分離性)」を見極めます。

また、最近は環境対応型潤滑油(生分解性オイル、低毒性オイル)の需要も高まっています。
これら新規油種の性能評価も一度現場でトライしてみるのがよいでしょう。

メーカー選定時の“現場目線”の注意点

経験則から言えば、「有名だから」「価格が安いから」といった一元的な理由で油種を選定すると、かえってランニングコストやトラブルが増加することもあり得ます。
また、昭和型の“言われるがまま”な選定では、現状最適な選択にはなりません。
実際の現場データから粘度指標や摩耗データをフィードバックして、専門商社やオイルメーカーの技術担当とじっくりすり合わせを行ってください。

加えて、油補充・交換作業のしやすさ、混入汚染リスク、廃油処理・トレーサビリティまで、現場運用品質も必ず評価しましょう。

潤滑油の現場管理とトラブル対策

潤滑油管理の実務ポイント

現場での潤滑油管理は「入荷時点」からはじまります。
保管場所は直射日光や高温多湿が避けられる場所を選びます。
また、開封後は雑菌や粉塵混入リスクが高まるため、なるべく早期に使い切ること・小型容器の活用なども有効です。

機械ごとの給油・交換時期は、「運転時間ベース」もしくは「実際の油の性状分析による判断」が主です。
最近では、現場管理者による油の簡易チェック(粘度測定、酸価測定、水分測定等)や、オイル診断会社による詳細分析サービスも普及し始めました。

※古い工場や人手不足現場では「交換マニュアル徹底ですすんでいない」というケースも多いですが、これこそ摩耗・故障トラブルの温床になりやすいので、積極的な改善が推奨されます。

代表的な潤滑油トラブルの実態と対策

代表的なトラブルとして、次のようなものが挙げられます。

・機械摺動部の異音や振動増加
・歯車・ベアリング・ガイドレール等の摩耗進行
・油漏れ、泡立ち、エマルション(乳化現象)
・スラッジ・カーボン化等の堆積物の発生
・系内の水分・異物混入による腐食

これらを未然に防ぐには、現場管理者の定期的な点検だけでなく、データを蓄積し傾向管理する工夫も効果的です。
たとえば、給油量や摩耗量の経年変化をグラフ化し、閾値を超えた都度メンテナンス介入するような体制作りです。

また、設備近代化の進んだ現場では、IoTセンサーを用いて潤滑油の状態を常時監視し、遠隔でデータ収集・トラブル予知を行っているケースもあります。

トラブル発生時の現場対応フロー

万一、異音や異常摩耗が生じた際は、闇雲に油種を変えたりせず、以下のステップで原因追及しましょう。

1. 現場の稼働状況変化(荷重増加・速度変化等)の有無確認
2. 潤滑油の供給系統に異常(詰まり・減圧・エア混入等)がないか確認
3. 実際に潤滑箇所の分解点検(摩耗進行、焼き付き発生等)を実施
4. 既設油の残液に対して性状分析(油膜強度、混入異物、劣化など)を行う
5. 必要に応じて油種変更トライ、もしくは機械側の修理・再設計

表面的な「油が原因だろう」という思い込みを排し、必ず多角的な分析がポイントとなります。

これからの潤滑トライボロジーと業界の動向

製造業、とりわけ現場目線での潤滑技術は、今後さらに進化が期待されています。

AIやIoTによる状態監視・予知保全の高度化
水系・バイオ系など新材料潤滑剤の応用範囲拡大
カーボンニュートラルに対応した低環境負荷油・高性能油の開発・普及
現場作業者のノウハウ継承とデジタル化の融合

一方、昭和からの“言い伝え”や保守的な管理体制もまだまだ根強く残っています。
これを単に「古いからダメ」と批判するのではなく、現場の知恵と先端技術を融合することで、真に価値の高い潤滑管理体制を目指しましょう。

まとめ

潤滑トライボロジーは単に潤滑油を選ぶだけでなく、現場環境や運用条件、管理体制と密接に関係しています。
バイヤーやサプライヤー双方の立場から、正しい知識と現場のリアルな課題把握を持つことで、最適な潤滑管理とトラブルレスな工場運営を実現できます。

今も昔も、摩擦と潤滑は製造業の「肝」です。
時代の流れに合わせたラテラルな発想と、現場目線の地道な改善活動を組み合わせ、「攻めの潤滑管理」を志していきましょう。

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