投稿日:2025年12月7日

設備保全計画が限られた人員では実行できない課題

はじめに:製造業における設備保全の現場課題

製造業の競争力の根幹は、生産設備の安定稼働にあります。

どんなに素晴らしいサプライチェーンや高性能な製品設計があっても、設備がストップすれば生産計画は崩れ、納期遅れや品質トラブルへと直結します。

そのため、設備保全計画は各工場の要と言っても過言ではありません。

しかし、近年深刻化しているのが限られた人員でその保全計画を実行しなければならない現実です。

少子高齢化による人材不足、ベテラン保全担当者の大量退職、現場の多能工化など、現代の製造現場は昭和の「人海戦術」に頼っていた時代から大きく変化しました。

この記事では、設備保全計画を実行する上で人員不足をどのように乗り越えていくか、現場目線で実践的なアプローチを深掘りします。

現場あるある:設備保全計画が“絵に描いた餅”になる理由

多くの工場では、年度初めや定期的なタイミングでしっかりとした設備保全計画を練っています。

文書化された保全スケジュール、部品交換周期、設備点検マニュアル──これらは一見盤石です。

ところが、いざ現場になると“毎日がイレギュラー”。

「急なチョコ停(ちょこっと停止)が発生し、予定の保全作業が後回し」

「新人が現場配属されたばかりでOJTに手が取られる」

「ラインはフル稼働で保全時間が物理的に取れない」

こうした現場のリアルな事情によって、せっかく作ったスケジュールが守られず、必要最小限の対処療法だけで日々を回すことも少なくありません。

その背景には、保全担当者の人的リソース不足があります。

増え続ける設備の自動化と省人化への矛盾

自動化や省人化が進めば進むほど、一人当たりが担当する設備の台数は増えます。

従来5人で見ていた設備を2人で見なければならないといった状況も珍しくありません。

しかも、省人化ラインほど異常時の原因特定が複雑化し、応用力や幅広い知見を持つ人材でなければ対応が難しい現実があります。

人を育てる時間も奪われる“火消し”状態

理想は、「予兆保全」「予防保全」に力を割き、突発トラブルを未然に防ぐことです。

しかし実際は連日「火消し型」の応急処置に追われ、技術伝承やマニュアル充実、後進育成が後手になりがちです。

このスパイラルはベテランの退職や体調不良によってさらに加速し、若手や中堅のパフォーマンス低下にもつながります。

なぜ人手が増やせないのか?業界構造的な課題

「設備保全員を増やせば解決する」──答えは簡単そうですが、現実はそう単純ではありません。

ここには製造業特有の事情や、アナログから抜け出しきれない業界構造的な課題も複雑に絡み合っています。

慢性的な人材不足と高齢化

日本の製造業全般に共通しているのが、技術系人材の慢性的な不足です。

特に保全職は「きつい・汚い・危険」の3Kイメージが強く、人気職種ではありません。

専門知識や高度な技能が必要なのに、給与面やキャリアパスで見劣りすることもあり、若手の応募が集まりにくい要因となっています。

コストカット至上主義の波

バブル崩壊以降、製造業のコスト削減圧力は年々高まっています。

「ムダを省け」「生産性を上げろ」と上層部から求められる中で、人件費を抑える流れは変わっていません。

また、定期点検でさえ「止めれば生産ロス」と見なされ、現場への負担がさらに重くなっています。

経営層と現場の“温度差”

経営層は「保全はきちんと実施しろ」と言いながら、「保全要員は抑制しろ」と相反する指示を出しがちです。

現場に寄り添った制度設計や、長期的な人材育成投資、働き方改革が浸透しきれていない企業も非常に多いです。

最新動向:デジタル化や外部委託へのシフト

こうした人的制約を乗り越える切り札として、多くの工場でデジタル化や保全業務の外部委託(アウトソーシング)が進んでいます。

IoT・データ活用による「スマート保全」

最近では、設備にセンサーを取り付けて温度・振動・電流値などをリアルタイム監視し、異常兆候を早期発見するIoTソリューションが普及しています。

また、予兆検知AIやデジタルツイン(現実設備の仮想空間シミュレーション)を活用する事例も増え、突発トラブルの未然防止や、保全スケジュールの効率化につながっています。

これにより「現場経験の蓄積がなくても異常を見逃しにくい」「保全対象の優先順位付けが容易」など、人的負荷の低減が可能になります。

外部委託やパートナー活用の拡大

定型的な点検業務や部品交換作業は、専門の業者やメーカー系の保全サービスにアウトソーシングするケースも急増しています。

自社で人材確保や教育コストを負担するより、必要なときだけ外部リソースを活用するスタイルです。

ただし、「設備のカルテ管理」や「緊急時の即応性」などは自社の保全部隊との連携が不可欠です。

単なる丸投げではなく、“協働体制の構築”が課題となっています。

現場で“本当に効く”限られた人員向け保全マネジメント術

人が増やせない現実の中で、現場目線で有効だった取り組み事例を紹介します。

1.保全対象の“選択と集中”

全設備を万全に保全することは、現実的に無理です。

故障リスクが高く、生産に大きな影響を及ぼす「重要設備」を見極めてリソースを集中します。

「致命的なダウンタイムを引き起こす設備」「カバー部品の納期が長い設備」など、独自の優先順位リストを作り、まずはここだけは定期保全を絶対死守する。

周辺装置や非クリティカル機器は、「予防保全より予兆・自主保全へ」「部門やオペレータに一部委譲」という柔軟分業も有効です。

2.多能工化&クロストレーニングの推進

特定の人しか分からない属人化を排除し、一人ひとりの守備範囲を広げる「多能工化」「クロストレーニング」は極めて重要です。

新人OJTは通常ラインだけでなく、保全業務も交えて体系的に設計します。

また、定期的な職場内ローテーションやマニュアルの動画化も有効です。

これにより繁忙期や急な休勤時でも臨機応変にフォローできる“現場力”が鍛えられます。

3.ちょい掛けのデジタル化活用

巨額投資の大規模IoTではなく、既存設備の簡易状態モニタリング(例:市販のワイヤレスセンサーで稼働ログ収集)や、LINE・Slackなどを使ったトラブル報告・共有ツール活用も現場目線では効果的です。

アナログが根付く中小工場だからこそ、「少しずつでも負担が減る」入り口から始めることが大切です。

4.サプライヤーとのパートナーシップ強化

バイヤーや外部パートナーと本音で付き合い、保全部品の緊急対応やトレーニングセミナー、技術サポートを“協働”で取り組みます。

ベストプラクティスや成功・失敗事例など「情報の水平展開」は現場横断で共有し、属人化した知見を開放する意識改革も不可欠です。

サプライヤー・バイヤー目線から見る保全問題

サプライヤーとしては「設備が止まらない=自社製品の信頼性」となるため、バイヤー(顧客側)の保全活動へ如何に情報・技術の提供ができるかが差別化のポイントです。

納入後の技術相談対応、点検・改修サービス、部品供給体制、トラブル予兆分析のアドバイスなど、バイヤーが何に困るかを現場ヒアリングしニーズに合わせたサポートが求められます。

逆にバイヤーは、「このサプライヤーなら設備保全面も安心」と思える関係構築を目指しましょう。

設備の選定段階から保全性(メンテナンス周期・交換部品の手配容易性など)を重視する視点は、今後ますます大切です。

おわりに:人員不足の時代でも工場力を高めるために

設備保全計画を限られた人員で実行するには、昭和的な「属人芸」や「根性論」から脱却し、仕組みやツール、社内外の知恵を組み合わせて全員で守る体制を築くことがポイントです。

人員不足だからこそ、“選択と集中”と“分かち合い”の知恵が現場力を底上げします。

製造業に携わる全ての方が、足元のしごとを見直し、新たな発想と協働の精神で未来の現場をつくっていきましょう。

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