投稿日:2025年9月9日

再生可能エネルギー100%工場を目指す製造業の取り組み

はじめに ― 製造業が直面するエネルギー大転換の波

近年、地球温暖化への危機感の高まりやSDGs(持続可能な開発目標)、そしてESG投資の拡大にともない、事業活動における環境負荷低減への要請はますます強くなっています。

その中で、製造業が果たすべき役割として「再生可能エネルギー100%工場」、すなわち全ての電力を再エネ由来でまかなう“脱炭素工場”へのシフトが一つの目標としてクローズアップされています。

これは単なる環境対策に留まらず、サプライチェーン全体の競争力、社会からの信頼獲得、バイヤーへのアピール、従業員への誇りの醸成など、多角的な経営インパクトをもたらすものです。

筆者は長年、製造現場の管理職としてエネルギー改革の最前線に立ってきた経験から、現場で直面するリアルな課題やトレンド、実践的なアプローチをお伝えしたいと考えています。

本記事では、「再生可能エネルギー100%工場を目指す製造業の取り組み」について、現場目線で深掘りします。

再生可能エネルギー100%のインパクトと業界動向

サプライチェーン全体で広がるグローバル要請

世界的なメーカー、特に自動車・エレクトロニクス・ITの巨大企業は既に、主要部材・部品サプライヤーに“RE100”やカーボンニュートラルの達成を求めています。

例えばApple、Microsoft、トヨタなどはサプライヤーに対し「2030年までに再エネ100%調達」「Scope3(二次排出)も含めたCO2削減」などを要求し始めており、下請け工場側が「うちはまだ先で大丈夫」と悠長に構えていられない状況となっています。

こうした動向は日本の下請け型製造業界も無縁ではありません。

取引継続や新規受注の与件化として、再生可能エネルギー導入の加速は喫緊の経営課題です。

昭和世代に根付くアナログ意識の壁

しかし一方で、古くからの工場では「まだ再エネなんてコストが高い」「安定供給が心配」「今まで通りが一番安全」という固定観念が根強く残っています。

経営陣も現場責任者も、多忙な日常業務や人手不足のなかで大掛かりな変革へのリスク回避傾向が強いのが実態です。

また、地方では再エネ関連の情報や先進事例が十分に入ってこない、経産省の補助金や自治体の支援スキームの活用ノウハウが浸透していないといった“情報格差”も大きなボトルネックとなっています。

この「昭和型アナログ体質」からどうやって脱却し、時代の要請に応えていくか。

そのヒントは、生産管理・品質管理・調達購買といった部門横断的な現場力にこそあると感じています。

再エネ100%工場の実現に向けた道筋

まず「何から始めるか」 ― エネルギーの現状把握が出発点

最初の一歩は、工場全体のエネルギー使用量・ピーク時間帯・用途別(照明、空調、動力など)の消費構造を正確に見える化することです。

生産現場の担当者、総務や施設部門を巻き込みつつ、30分毎の電力消費・月別推移・用途別の内訳、といったデータを地道に収集・分析します。

このフェーズで重要なのは、現場作業者の「暗黙知」を聞き取ることです。

たとえば、“この機械は昼夜の立ち上げ、停止が多いとムダが大きい”、“日中の太陽光発電が余る時間帯にバッテリー充電を”など、日々の工場運営に密着した“現実的な施策”のヒントは必ず現場に眠っています。

省エネと再エネの「セット導入」で早期効果を出す

再エネ100%への近道は、単に発電システムを外部から買うだけでなく、「省エネ(需要側管理)」と「再エネ(供給側管理)」の両輪を回すことです。

古い照明をLED化し、エアコンや空調の高効率機種への更新、老朽設備の最適運転見直しなど、あらゆる省エネの実践が再エネ投資を無駄なく活かす基盤となります。

加えて太陽光発電(自家消費型)、蓄電池、コージェネレーション設備(ガスエンジンや燃料電池併用)などの導入、さらに再エネ電力調達(グリーン電力証書やPPAサービス活用)を同時に検討します。

重要なのは、「全体最適」の観点で、イニシャルコストだけでなくランニングコスト・補助金・償却年数のバランスを現場目線で精査することです。

ここでは、購買部門と現場担当の“コスト感覚”が試されます。

工場自動化(FA、IoT)とエネルギーマネジメントの融合

近年はファクトリー・オートメーション(FA)、IoTセンシング技術の活用による「スマート工場化」が再エネ100%達成の強力な手段になっています。

電力量計の多点設置による見える化、AI活用の省エネ制御、蓄電池の充放電最適化、需要予測にもとづくピークシフト運用など、デジタル技術を現場のオペレーションと直結させることで、“省エネ×再エネ×自動化”のシナジー効果を引き出します。

これも「現場の作業フローをどのように変えるか」「どの業務を自動化するか」という“現場主導”の視点がカギとなります。

単なるシステム導入に終わらず、実際にボタンを操作するオペレーターの声、保全作業時の手間、トラブル時の緊急対応といった「細部」に着目してください。

バイヤー視点 ― 再エネ100%工場を持つサプライヤーの強み

サステナビリティ調達の選定基準が変わる

近年、大手バイヤーが重視しているのは「サプライヤー自身の脱炭素目標」と「そのための具体的な実行計画」です。

再エネ100%の工場運営は、環境パフォーマンス・透明性・リスク低減・長期的信頼性の証明となり、競争力を上げる“新しい調達条件”となりつつあります。

受注側サプライヤーが、「うちは再エネ比率90%まで達成、残りはPPA調達中」といった“見える化されたロードマップ”を積極的に開示すれば、価格交渉以上にブランド価値・信頼性をアピールできます。

これは単なる宣伝ではなく、ESG経営方針の一部として認められる重要な要素です。

ROI(投資対効果)は“脱炭素プレミアム”の獲得力

バイヤー側は、将来のCO2排出規制強化、取引先のESG監査、消費者評価の高まりなどさまざまな“外部圧力”に直面しています。

そのため「単なる価格」よりも「環境配慮対応力」=ESG観点のプレミアムを持つサプライヤーと長期関係を築くメリットが大きくなってきました。

再エネ100%工場への投資は、単なるコストアップではなく、「新たなマーケット参入権」「サステナブルブランドへの進化」「社員のモチベーション向上」など多様なROI(投資対効果)を生む“攻めの経営”施策となります。

経営陣・現場リーダーが今できること

全員参加型のプロジェクト推進体制を築く

脱炭素や再エネ導入は一部の専門部門だけでなく、経営層から新入社員まで、全社員が「自分事」として理解し、参画できる全社横断のプロジェクト体制を構築することが肝要です。

現場でのアイデア募集、省エネ改善提案の実践、設備メーカーや行政との共創など、小さなアクションの積み重ねが大きな成果につながります。

定期的な勉強会やワークショップの開催、成功事例の共有・表彰は、従来の“現場主導・現物重視”の企業文化とも相性が良く、無理なく仕組み化できるでしょう。

人材育成と情報発信を消耗品にしない

再エネ100%実現には、設備投資や新技術の導入だけでなく、運用面で支える“人材育成”と、積極的な“社外への情報発信”が欠かせません。

特に今後は若手社員や多様な人材によるプロジェクト参加を推進し、「脱炭素時代の現場リーダー」の育成を長期的視点で進めていくべきです。

また、ホームページや採用ページ、営業資料で自社の「再エネ100%工場の現状・進捗」を広くPRすることで、バイヤーだけでなく、地域社会やステークホルダーへの信頼感を高め、企業価値向上に直結します。

最後に ― 昭和型から新時代のモノづくり現場へ

再生可能エネルギー100%の工場は、昭和から続く日本のモノづくりが「社会課題を自分ごと化し、世界と伍していく」ためのパスポートです。

アナログな体質の中にこそ、現場力やチームワーク、チャレンジ精神という日本型製造業の大きな資産があります。

その現場主義を柔軟に進化させ、「持続可能な成長」と「次世代への誇り」を同時に実現する新たな挑戦が求められています。

本記事が、調達担当・現場リーダー・サプライヤー問わず、明日のモノづくり現場に「一歩踏み出す勇気」と具体的なヒントを届けられることを願っています。

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