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金属加工業がD2Cブランドを立ち上げる際に避けたい量産設計の落とし穴

目次
はじめに:なぜ金属加工業がD2Cブランドに挑戦するのか
金属加工業の現場で20年以上を過ごしてきた私にとって、”D2C(Direct to Consumer)”ブランド立ち上げは革命的なテーマです。
昭和からの下請け構造や系列志向といった独特の価値観が強く根付いた業界で、D2Cは異端児とも言える存在でしょう。
しかし、VUCAと呼ばれる変動激しい時代において、経営の多様化・柔軟化は必須です。
自社技術や強みを活かしながら、直接消費者に価値を届けるD2Cブランドへの挑戦は、中小企業はもちろん大手金属加工業にも大きな未来をもたらします。
一方で、D2C立ち上げにおける「量産設計」には数々の落とし穴が存在します。
量産設計の失敗は、製品品質・納期・コスト・ブランドイメージという“4本の柱”を一気に揺るがします。
この記事では、D2Cを志す方やバイヤー、サプライヤーにも実践的に役立つ「量産設計の落とし穴」と「その対策」について、現場目線で深掘ります。
業界特有の罠:昭和型思考が招く設計ミス
“カイゼン”信仰の落とし穴
金属加工業には、改善(カイゼン)を繰り返してきた経験則が根付いています。
一見、これが強みになると思われがちですが、D2Cブランドの場合はむしろ罠になります。
なぜなら、量産設計の段階でカイゼンを前提に設計してしまうと、「最初の製品」が全く市場に定着しないリスクが高まるからです。
従来のOEM受託型や一品物と異なり、D2Cでは最初から多数のユーザーの目に晒される状況が作られます。
「あとで微調整すればいいだろう」という発想は、SNSで一気に評判が広がる現在では通用しません。
はじめから“ベスト”を目指す設計思想が求められます。
そもそもの設計思想のズレ
量産設計における“設計思想”が、顧客目線からかけ離れてしまいがちです。
たとえば「現場で簡単に削れるように肉厚を厚くしよう」「従来使ってきた素材をそのまま使おう」といった発想は、コスト高や製品の競争力低下を招きます。
D2Cはモノの性能以上に体験価値やデザイン性も重視されますが、設計の段階から“自己都合”が入ってしまうと、市場ニーズとズレたものづくりになってしまいます。
古い検査基準と量産品質のズレ
“これまでこの規格でやってきたから大丈夫”という、昭和型の品質保証観点ではD2Cでは十分ではありません。
量産した商品が返品やクレームの嵐となり、ブランドを一気に傷つける可能性があります。
そもそも最終消費者との距離が近いD2Cこそ、消費者目線での“体験品質”まで設計段階から考え抜く必要があります。
量産設計の技術的な落とし穴
試作品と量産品のギャップ
試作時には問題なかったのに、量産に移った瞬間、不良率が急増。
その原因の多くは「試作工程と量産工程のすり合わせ不足」です。
特に金属加工の場合、工場の設備能力や生産条件(バッチ数、治具、加工精度)が量産品には極めて大きな影響を与えます。
「試作は自社でやって、量産は協力工場へ」となる場合ほど、このギャップが拡大します。
部品点数・構成の複雑性
D2Cブランドでは「工場の理屈より、消費者の驚き・面白さ・デザイン」が優先されがちです。
その結果、設計段階でつい部品や工程が複雑化し、量産現場を著しく困難にしてしまうケースも多く見受けられます。
部品数の増加や複雑な加工形状は、不良率・歩留り・コストの大敵です。
量産設計時には「シンプル・イズ・ベスト」を常に意識する必要があります。
外部協力会社との“暗黙知”ギャップ
製造委託やサプライヤーとの協業では、“伝わっているはず”という思い込みこそが大きな障壁です。
金属加工現場では長年の付き合いの中で暗黙のルールが醸成されますが、D2Cの新製品ではこれが通用しません。
図面精度ひとつとっても「不要な寸法公差を入れてしまいコスト増」「説明不足から工程省略による品質不良」など、設計・現場間での齟齬が頻発します。
D2Cに特有のリスクと量産設計で陥る先入観
“口コミ効果”の両刃の剣
D2Cの場合、SNSやECレビューにより、お客様の声がダイレクトにフィードバックされます。
少数のクレームがネット上で一気に拡散し、ブランドイメージを損なうリスクが非常に高いのです。
設計段階で“実際のユーザー体験”を徹底的にシミュレーションし、小さな使い勝手の悪さも徹底排除しなければなりません。
量産初期投資への過度な楽観
D2C型では小ロットから立ち上げて徐々に拡大するモデルが主流ですが、金属加工業は本質的に量産志向でありがちです。
これにより「一気に初期設備に投資」「生産能力を先行確保し過ぎる」ケースが後を絶ちません。
結果として、販売計画に対して生産能力や在庫・部材調達が過剰となるリスクを孕みます。
“最小ロットからスモールスタート”を基本にした、柔軟な設計・工程計画が求められます。
量産設計を成功させるための現場目線の実践ポイント
想定顧客を徹底的に深掘りする
設計段階で最も重要なのは、“誰のどんな不満や課題をどう解決するための製品なのか”を明確にすることです。
単なる機能美やコスト競争だけでなく、ユーザーのライフスタイルや購買心理まで見つめ直す必要があります。
よくありがちな「自分たちにできることベース」ではなく、「新たな顧客体験価値をどうデザインするか」の目線を持ちましょう。
現場担当者も巻き込んだ設計レビュー体制をつくる
量産設計の場面には、生産技術・工程担当・品質管理・調達購買など多職種を一気通貫で巻き込むことが大切です。
それぞれの現場が日々感じている「製造しやすさ」「検査しやすさ」「部品調達の難易度」「工程間のリスク」など、設計段階で全て洗い出すことで、量産移行時のトラブルを圧倒的に減らせます。
古い体制の現場ほど「設計=設計部門だけの仕事」という発想がまだまだ強く残っていますが、これこそ最大の落とし穴です。
短サイクルで“現場検証”を繰り返す
D2Cでは、「失敗から学ぶ」「初期不良は当たり前」といったベンチャーマインドも大切です。
ただし、金属加工など設備投資負荷が比較的大きい分野では“現場での検証サイクル”を早め、PDCAを高速で回す必要があります。
設計と現場の距離をゼロに近づけ、“設計したら即現場で試す”を繰り返すフットワークこそ、D2Cブランドの新製品開発では不可欠です。
サプライヤーとともに“共創”する姿勢を持つ
サプライヤー(下請け協力会社)は単なる外注先ではなく、“技術パートナー”という視点で付き合いましょう。
量産設計の段階からサプライヤーと意見交換を重ね、量産現場の困りごとを拾い上げ、その知恵や改善策も取り入れることで、設計品質を格段に高められます。
また、普段は見落としがちな部材調達リードタイム、コスト変動要因、加工限界など、現場でしか気づけない“現実”も見えてきます。
まとめ:観点を変えれば量産設計は劇的に進化する
金属加工業の現場で長年培った“職人技”と“カイゼン文化”はD2C時代にも確かな強みです。
しかし、量産設計における「昭和型思考」「自己都合設計」「部門間の壁」など、古い慣習や暗黙知が潜む落とし穴をしっかり認識する必要があります。
D2Cブランドの価値は“顧客体験”に直結します。
だからこそ、量産設計の段階で徹底して顧客起点・現場起点・協力会社との共創という“三位一体”の考え方で進めていただきたいと願います。
この記事を読んでいる皆さんが、これまでの常識にしばられず、現場目線・顧客目線・未来目線で新たなモノづくりに挑戦し、D2C業界で「選ばれるブランド」を創っていってくださることを心より願っています。
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