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投稿日:2025年7月4日

水素脆化を防ぐ材料評価と安全設計のポイント

はじめに:水素脆化という“見えざる敵”

「水素脆化」という言葉を聞いたことがありますか?

近年、水素エネルギーがカーボンニュートラル社会の鍵として注目される一方で、水素を扱う材料や設備の安全性について、一層の知識と注意が求められるようになっています。

水素脆化は、普段はしっかりとした強度や靭性を持つ金属材料が、水素の影響を受けて突然なぜか脆くなり、破断・破損事故を引き起こす現象です。

この“見えない敵”は、特に製造業の現場で、調達・購買、生産管理、品質管理、さらには自動車やプラント・インフラ業界など、幅広い分野に大きなリスクを及ぼします。

現場主義の視点で、水素脆化を防ぐ材料評価と安全設計のポイントについて深掘りして解説します。

水素脆化のメカニズム:なぜ金属がもろくなるのか

水素の“すり抜け力”と金属内部への侵入

水素は、宇宙で最も軽く、小さな分子です。

そのため、金属の格子間を容易に「すり抜ける」ことができます。

水素が金属中に侵入すると、見た目には一切変化がありません。
しかし、内部では水素原子が「ワナ」的に欠陥部(格子欠損や不純物、粒界など)に取り込まれ、金属組織に負担をかけ続けます。

水素原子が材料に与える悪影響

水素脆化には主に、
・焼入れ鋼などの高強度材料で発生しやすい「水素誘起割れ(HE)」
・水素が存在する環境で持続応力下に発生する「応力腐食割れ(SCC)」
など、複数のメカニズムがあります。

特に問題なのは、内部に滞留した水素が、材料のもつ本来の延性や強度を著しく低下させ、亀裂や割れを誘発することです。
最悪の場合、想定外のタイミングや箇所で突然破断が発生します。

技術の進化で高強度化・軽量化が進む昨今、これまで問題なかった材料でも、気づかぬうちに水素脆化リスクが“潜在化”している可能性が高いのです。

現場で直面した“水素脆化”のリアルな事例

製造現場での水素脆化発覚のきっかけ

筆者が管理職として関わった事例の一つで、「高圧ガス配管継手」の破損が、突然発生したことがありました。

通常の使用方法・環境下だったにもかかわらず、見た目では一切異常がありません。
詳細に調査した結果、内部に発生したマイクロクラック(微細な割れ)が起点となり、わずかな衝撃で一気に破断。

原因をたどると、調達時の熱処理不良や、組立工程での酸洗い残存物による水素侵入の影響があったことが分かりました。

生産スケジュールと品質保証へのダメージ

このような突発的な破損は、生産ラインの停止・再工程・部品交換・品質調査など多大なコストと工数を強いられます。
加えて、安全性への信頼低下は、エンドユーザーや取引先との信頼関係にも大きく影響します。

この痛い経験から、「水素脆化を未然に防ぐ材料選定・設計・工程管理」の重要性を、骨身にしみて学ぶことになりました。

水素脆化を防ぐ材料評価のポイント

なぜ“現場目線”の材料評価が大切なのか?

カタログや仕様書どおりの材料選定だけでは、現場で“想定外”が起こることを防げません。
調達・購買担当が注意すべきは、材料の由来・履歴・成分管理状況、サプライヤーの製造プロセスなど、多様な観点です。

さらに現場目線の材料評価には、
・どの工程で水素が侵入する可能性があるか(熱処理、酸洗、表面処理等)
・サプライチェーン全体で適切な管理が行われているか
を“点検”し、現場にフィードバックすることが求められます。

水素脆化感受性の評価手法

製造現場では、単純な引張強度試験だけでなく、
・昇温昇圧環境下でのクリープ破断試験
・水素透過装置を用いた水素侵入量の計測
・標準化された水素脆化感受性試験(JIS、ASTMなど)
などを、サプライヤーとも連携して取り入れる必要があります。

また、破断面観察(SEM解析)、成分分析など、材料内部の“見えない傷”を事前に発見できる非破壊検査技術の活用も進んでいます。

調達・購買担当者が意識すべき“水素頂点のサプライチェーン”

水素社会の到来で、原材料メーカーからエンドユーザーまで、全てのサプライチェーンが水素脆化リスクと向き合う必要があります。

調達担当者は、単に価格や納期だけを重視するのではなく、“水素リスクへのトレーサビリティ”と“再発防止力”を持つサプライヤー体制を作り上げる視点が不可欠です。

安全設計の基本と進化する防止策

伝統的アプローチ:材料選定と設計マージンの見直し

水素脆化を根本から防ぐための第一のステップは、「水素脆化感受性が低い材料」の採用です。

具体的には、
・Ni、Mo、Crなど合金元素の最適化
・低炭素鋼・フェライト系ステンレス鋼など水素に強い材料の選定
などが、昔からの“定番”として考えられています。

また、必要強度よりも“一段階余裕を持った設計マージン”の設定も重要です。
しかし、近年は軽量化や高強度化のニーズが高まり、設計マージンだけではカバーできないケースが増えています。

最新の防止策:コーティング・表面処理・プロセス制御

最近では、以下のようなアプローチが広く導入され始めています。
・金属表面を水素バリアコーティング(例:アルミ系・セラミック系コーティング)で保護する
・メッキ工程での水素還元工程の最適化、脱水素処理の徹底
・摩擦攪拌接合(FSW)や溶接プロセス制御による水素混入量の監視・低減

これらの技術は、現場の生産効率化やコスト競争力とも密接に関係しています。

設備更新と“昭和的アナログ”からの脱却

日本の製造現場では、伝統的アナログ管理が根強く残っています。
しかし、デジタル技術(IoT、AI技術、データ収集・分析)を組み合わせることで、“予兆管理”や“実績トレース”が容易になりつつあります。

最新の鋼材管理システムや、各工程での“水素バランス管理”も、工場の自動化・省人化とともに、今後の安全設計を大きく変えていくでしょう。

バイヤーが押さえるべき取引先選びと監査の着眼点

水素脆化リスクを共有できるパートナーか

かつては、規格を満たしていればOKという時代でした。
今は「水素脆化にどう対応しているか」「工程ごとにどう管理しているか」を、“見える化”し、安全思想を共有できるサプライヤーが求められます。

現場監査やサプライヤーとの技術会議でのチェックポイントは、
・工程での水素対策の有無
・過去トラブル履歴と再発防止策
・現場作業者への教育・コンプライアンス
・非破壊検査・データ記録の更新状況
などです。

バイヤーとして「取引先に安全設計での提案力・改善力があるか」、「共に問題を事前解決できる関係性か」を重視しましょう。

業界動向と今後の課題:ラテラルシンキングで新たな道を拓く

水素エネルギー普及と水素脆化リスクとのバランス

水素社会が現実のものとなりつつある現在、自動車・化学プラント・配管部材・インフラなど、多くの分野で水素脆化リスクは“グローバルな課題”です。

安全基準の統一化、業界横断的な検証と知見の共有、最新材料・技術の共同開発が加速しています。

また、欧米・中国など海外企業の最新動向にも目を光らせ、「失敗事例の共有」「日本固有のアナログ工程改善」「サプライチェーン全体の品質経営」など、枠を超えたラテラルな発想が重要になります。

新規材料・AI活用・異業種連携のトライアル

今後は、従来の材料改良だけでなく、
・金属―高分子複合材料など新素材の活用
・AI・ビッグデータによる予兆管理システム構築
・異業種(IT・センサー・化学企業など)連携によるソリューション開発
など、新たなチャレンジも進んでいくでしょう。

工場現場・バイヤー・サプライヤーが一丸となり、従来の“縦割り発想”から、“横断的・全体最適”の思考へ進化することが不可欠です。

まとめ:水素脆化ゼロ社会を目指して

水素脆化は、ただの理論上のリスクではありません。

現場の安全と信頼を守るためには、調達・設計・工程管理・品質保証が一体となり、「誰が・いつ・どこで・なぜ・どのように」水素脆化リスクに対応しているかを“自分ゴト”として常に問い続ける必要があります。

そして、最新技術の導入と現場知見、世代を超えた知の融合、異業種コラボレーションによるラテラルな発想力こそが、これからの製造現場の大きな武器になります。

水素脆化を“恐れる”だけでなく、一歩先ゆく知見と実践力で“産業の飛躍”につなげていきましょう。

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