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材料力学基礎と有限要素解析による強度設計弾性靱性向上疲労破壊対策

目次
はじめに:材料力学と強度設計の重要性
製造業の現場では、常に「安全・安心・高品質」が求められます。
その根幹を支えるのが、材料力学に基づく強度設計です。
実際、設計や生産の現場で不具合が発生する原因の多くは、強度設計の甘さや材料特性の見極め不足に起因します。
昭和の時代から「とりあえず厚くつくれば壊れない」といった感覚で設計されてきた製品も少なくありません。
しかし、近年では軽量化、コスト削減、省資源化、サステナビリティ促進など、多様な外的要請が高まっています。
これに応えるためには、材料の本質を知り、有限要素解析(FEM)など最新の解析技術を取り入れることが不可欠です。
本記事では、材料力学の基礎から、弾性・靱性の概念、有限要素解析による強度設計、疲労・破壊対策、さらには製造現場ならではのリアルな課題とその解決策まで実践的に解説します。
材料力学の基礎:知っておくべき用語と考え方
応力・ひずみとは何か
まずは、「応力」と「ひずみ」の関係を把握することが材料力学の第一歩です。
「応力」は、単位面積あたりにかかる力(N/mm2やMPaで表記)を指します。
「ひずみ」は、部材に加わった力で生じる変形量の割合(mm/mmまたは%)です。
応力=力÷面積
ひずみ=変形量÷元の長さ
この2つの用語を正しく理解するだけでも、現場の不具合解析や設計におけるトラブルシュートの質が一段階アップします。
フックの法則と弾性域・塑性域
材料は、ある範囲までは元に戻る性質(弾性)があり、それを超えると戻らなくなる(塑性)という特性を持っています。
「フックの法則」により、弾性域では応力とひずみが比例関係にあります。
しかし、設計をする上では「弾性限界」を超えないことが重要です。
許容応力を超えた設計は、破断や恒久変形を招き、現場トラブルやクレームの火種となります。
降伏点・引張強さ・破壊じん性
さらに材料ごとに異なる「降伏点(弾性と塑性の境界点)」「引張強さ(破断する最大応力)」「破壊じん性(亀裂の進展に対する抵抗力)」など、重要物性値が設計指針となります。
これらの値を把握し、設計に生かすことが高強度かつ安全なものづくりの第一歩となります。
弾性・靱性の本質:素材選定と製造現場でのリアルな判断
弾性的な強さと靭性のトレードオフ
弾性率(剛性)は、「変形しにくさ」の指標ですが、必ずしも剛性=強度ではありません。
例えば、ガラスは弾性率が非常に大きく剛性は高いものの、割れやすいため靭性(粘り強さ)は劣ります。
一方、鉄や一部の高合金鋼は、ある程度の弾性率と高い靭性を持つバランスの良い素材です。
このバランス感覚は、「とにかく硬い材料=壊れにくい」という昭和流の固定観念から脱却する鍵となります。
現場感覚と論理的理解を両立させることが、今後の材料選定のポイントです。
靭性向上のための工夫と現場事例
近年では「ナノ粒子分散」や「組織制御」など、最先端の材料強化技術も登場していますが、実は熱処理や表面処理、従来工法のちょっとした工夫で靭性を向上させた事例も数多く存在します。
現場では「調質焼入れ」や「ショットピーニング」のような方法で、材料の靭性と疲労強度を両立させてきた歴史があります。
最新技術と現場ノウハウの融合が、生産性向上と高品質化への道を拓きます。
有限要素解析(FEM)で変わる強度設計の現場
有限要素解析とは何か、そのメリット
有限要素解析(FEM)は、複雑な形状や条件下の応力や変形を数値的にシミュレーションできるデジタル技術です。
従来は熟練設計者の勘や経験に頼っていた部分を「見える化」し、設計の精度を飛躍的に向上させます。
部材や部品の応力集中部位、歪みやすい箇所、破断予測など、「現場でなければ分からなかったヒヤリポイント」を事前に抽出できる強力なツールです。
FEMによる設計最適化プロセス
1. 3Dモデル作成
2. 材料物性値設定(ヤング率、ポアソン比、降伏点など)
3. 境界条件・荷重条件設定
4. 解析実行
5. 結果(応力分布・変形分布)の評価と改良案検討
このプロセスを繰り返すことで、過剰設計・コスト増を避けつつ、十分な安全率を担保した設計が実現できます。
FEMの課題と現場での使いこなし術
一方、解析ソフトだけで全てが分かるわけではありません。
材料特性値が実際と乖離していたり、3Dモデルが現場で生じる冶具や溶接歪みを再現していなかったりする場合、FEMによるシミュレーションは逆に誤った設計指針を生みます。
これを防ぐためには、現場での測定値、過去不具合データ、品質管理部門との密な連携が不可欠です。
「FEM解析に現場知」を加えることで、目の前の実プロダクトに本当に役立つ強度設計が可能になります。
疲労・破壊対策の最前線:現場目線の工夫とラテラルシンキング
疲労破壊の本質と基礎知識
金属や樹脂などあらゆる材料は、「繰り返し荷重(サイクル荷重)」による微細な損傷が蓄積し、やがて破断に至ります。
これを「疲労破壊」と呼び、設計寿命や安全余裕の設定時に最重要視すべき要素です。
古くから「破断の8割は疲労破壊」と言われており、過去の大事故やリコール事例から教訓を得たメーカーも多いです。
疲労寿命を延ばす設計と現場改善例
疲労破壊対策には、「応力集中の回避」「表面の仕上げ向上」「溶接部のグラインダ仕上げ」など、地道な現場工夫が最も効果的です。
例えば、角のとがった部分を丸く(R付け)するだけで応力集中が低減され、劇的な耐久性向上が期待できます。
また、表面キズの検査精度向上や、摩耗部位の定期メンテナンスも疲労破壊防止に直結します。
現場発の改善案は「ラテラルシンキング」で生まれやすい領域でもあり、現状否定や発想の転換を積極的に促すことが重要です。
破壊力学の活用と今後の方向性
近年は「破壊力学(Fracture Mechanics)」の考え方が普及し、微小なキズや亀裂がどのように発生・進展するのかを数値化できる時代になっています。
アナログな現場の勘や経験だけでなく、デジタル解析やデータサイエンスとの融合が今後ますます重要になります。
受発注・バイヤー・サプライヤー全方位で考える強度設計
バイヤー(調達担当)視点:強度設計情報の伝え方
現場や設計部門がせっかくFEMや材料力学に基づいて高度な強度設計をしても、その意図が調達先(サプライヤー)に正確に伝わらなければ意味がありません。
具体的な「要求機能」「設計意図」「品質基準(許容応力や許容変形量)」を明示し、試作段階でサプライヤーと十分な打ち合わせを持つことが調達成功の鍵となります。
サプライヤー視点:現場でのQAやトラブルを現象把握から本質把握へ
サプライヤーは「クレームやQA対応」に追われがちですが、実は設計・要求段階で真の問題が潜んでいることも少なくありません。
表面的な現象(破損・変形)だけでなく、事象の発生条件、使用環境、応力分布解析のデータまで踏み込んだ「共通言語」でユーザー・バイヤーと会話する習慣を持つことが差別化ポイントです。
現場目線からの全体最適とは
現場はしばしば「もっと厚く」「もっと強く」といった安全側設計に傾きがちですが、「適度な強度と十分な靭性」のバランスを確実に実現し、無駄なコストや重量、納期リスクを抑えることこそ、バイヤー・サプライヤーが共同で目指すべき次世代ものづくりの方向性です。
まとめ:昭和流アナログからの脱却で持続可能な強度設計へ
製造業の現場変革は、一朝一夕には達成できません。
ですが、材料力学を正しく理解し、靭性・弾性のバランスを設計に生かす。
FEMなどデジタル解析と現場知を組み合わせて、「根拠ある強度設計」を実現することが、これからの製造現場に必要な進化です。
バイヤー、サプライヤー、設計、現場、それぞれが「材料強度や設計意図の共通言語」を持つこと。
ラテラルシンキングで常識や過去事例にとらわれず、本質的な価値を追求し続けること。
これらの実践が、日本の製造業を昭和型のアナログ思考から“真に持続可能なものづくり”へ導いていくのです。
今こそ、材料力学とFEM、そして現場の知恵という3つの軸を磨き、新たな製造業の地平線を共に開拓していきましょう。
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