投稿日:2025年7月30日

金属疲労基礎強度設計FEM疲労解析寿命評価耐疲労設計

金属疲労とは何か:現場目線で捉える基礎知識

金属材料は長期間の使用や繰り返し荷重の作用を受けることで、徐々に劣化していきます。
この過程を「金属疲労」と呼びます。
特に自動車や航空機、産業用機械など複雑かつ高頻度に使用される部品では、金属疲労が原因となる破損事故が絶えません。
私が20年以上製造業の現場で携わってきた中でも、突発的な大事故や長期停止に直結するリスク管理の筆頭テーマの一つです。

従来、昭和のアナログ製造業では実績ベースの経験則や、単純な安全率に頼った設計が主流でした。
しかし、近年はデジタルツールやシミュレーション技術の進化により、「どの部位が」「どのくらい耐えられるのか」を定量的に評価する流れが一般的となっています。
では、現場目線で疲労破壊とは何か、基礎から解説します。

金属疲労のメカニズム

金属疲労は、一度の大荷重による破壊とは根本的に異なります。
小さな応力(力)が繰り返し作用する中で、部材内部にミクロな「き裂」が発生し、成長していくことで最終的に破断に至ります。
この「き裂」が最初に発生するまでの寿命(初期き裂発生寿命)と、き裂が発生してから破壊に至るまでの寿命(き裂進展寿命)の両方を管理する必要があります。

現場感覚では、「急に壊れた」のではなく「じわじわ内部で劣化が進み、最後の一打で壊れる」という認識が重要です。
日常的な点検や保守活動も、この“見えない疲労ダメージ”を早期に捉えるために行われています。

疲労強度設計の重要性:なぜ失敗例が多いのか

国内の製造業では、稼働年数の古い設備や年齢層の高い技術者が多い背景もあり、疲労設計が軽視されがちな傾向があります。
しかし、昨今の品質不祥事やリコール事例を見てもわかる通り、疲労設計の徹底は現代のものづくりにおける最重要課題です。

アナログ的判断とデジタル設計のギャップ

かつては「十分に肉厚を確保すれば壊れない」「念のため安全率を高めにとれば良い」という指導が常態化していました。
この姿勢は一見堅実ですが、以下の問題を生みます。

– 過剰設計によるコスト・重量増大
– 新素材や新工法へ転用できない
– 根拠の曖昧な設計に陥る

対して現代では、CAD/CAEを活用して部品ごと・箇所ごとの応力分布を正確にシミュレーションし、要求される寿命から逆算して「何年耐えられるか」「どのくらいの余裕があるか」を定量管理します。
これにより素材費の削減、軽量化、納期短縮、現場品質の安定化といったメリットが生まれます。

FEM(有限要素法)による疲労解析:基礎と現実の運用課題

再現性を持った疲労評価を行うには、FEM(Finite Element Method:有限要素法)を活用した解析が不可欠です。
しかし、導入初期のハードルや、現場レベルでの運用ノウハウ不足も依然として課題です。
FEM疲労解析の基礎、現場での使い方の肝について解説します。

FEM疲労解析の基礎プロセス

1. 3D CADデータから構造モデルを作成
2. 材料物性(ヤング率、引張強さ、疲労限度など)を設定
3. 荷重や拘束条件を再現(実機想定に近いほうが精度向上)
4. 疲労応力の算出(σやτなどの応力値を抽出)
5. 疲労寿命(破断に至る繰返し回数)を評価

注意が必要なのは、「FEMは万能ではない」という現場での実感です。
とりわけ以下の点に気をつける必要があります。

– 入力データ(CAD形状・材料情報)が不正確だと結果も信頼できない
– 実際の溶接や接合部は、モデル通り単純には計算できない
– 現実に近づけるほど高度な知識・経験が必要(解析担当者の力量に依存)

最新のFEMソフトウェアは操作も直感的で、設計担当者自身が簡単な疲労評価を行える環境も整ってきています。
一方で、疲労き裂が生じやすい応力集中部(穴あけ端部、段差、溶接止端など)は実機テストとのギャップを埋めるための総合的な目利きが必須です。

疲労寿命評価と耐疲労設計:バイヤー・サプライヤーの視点から

ものづくり現場の役割分担を考えると、バイヤー(調達側)は「基準を守ること」「安全規格の順守状況を監視すること」。
サプライヤー(供給側)は「自社の設計・生産が顧客要求を満たし、継続的な改善ができているか」が問われます。

バイヤー目線:なぜ疲労評価が必要なのか

バイヤーにとって疲労寿命評価は“トラブルを未然に防ぐ”最大の防衛線です。
調達活動では価格や納期だけでなく、「設計文書に明確な疲労寿命根拠があるか」「材料認定や試験データはアップデートされているか」を厳しく確認する必要があります。

特に長期で使う装置や輸送機械、万が一事故が起これば膨大な損害賠償や社会的信用失墜に繋がります。
その意味で、疲労評価の有無=サプライヤーの“ものづくり姿勢そのもの”と言えるでしょう。

サプライヤー目線:付加価値向上のための疲労設計

サプライヤー側から見ると、「FEM疲労解析で裏打ちされた耐久保証」を打ち出せるか否かが競争力の分かれ目です。
現場でときどきある失敗例としては、「テストピースではOKだったが実機で破損」「計算通りの寿命にならない」といったケース。
これは、部品ごとの負荷や環境ストレス、組み付け誤差など、リアル現場の多様な影響を織り込んでいなかったために発生します。

サプライヤーが「現場での使われ方」まで考えた複合的な耐疲労設計を提案できれば、バイヤーからの信頼性・独自性につながります。

現場あるある:アナログ体質企業での疲労設計の壁と突破法

製造業の現場では、今も昭和の体質が色濃く残り、「疲労は勘と経験がすべて」とされがちです。
この壁を突破し、企業の競争力を高めるためのヒントを提示します。

問題1:非効率な“安全率”頼みの設計

現場の先輩から「とりあえず安全を2倍見ておけば大丈夫」「問題起きたら都度板厚を増やせ」と指示されるケースは今でも珍しくありません。
その一方、軽量化やコストダウンが叫ばれる中、過剰安全率がもたらす損失も無視できない段階です。

問題2:現場ヒアリングとデジタル設計の乖離

設計・生産技術・現場オペレーターの間で、実作業の負荷や使い方が正しく共有されていない場合、FEM解析や疲労設計が机上の空論になりがちです。
改善するには、「現場で何が起きているか」「どの部品が特に弱いか」を日常点検・ヒアリング・帳票データで見える化し、設計側に定期的にフィードバックする仕組みづくりが第一歩です。

解決への実践:現場知恵とデジタルスキルの融合

疲労設計に限らず、設計・解析・生産・現場それぞれの“気付き”をデータとして一元管理し、FEMなど解析ツールの活用に反映する。
例えば、「溶接工程の微細なバリ・応力集中」「長期運用時のグリス切れ」「現場作業のクセ」など、現場目線の観察と分析をプリセット条件に取り込むことで、よりリアルな寿命評価が可能になります。

また、解析担当者や設計者も現場教育の一環として、“現地現物”を体験し、「どんなトラブルが起こるのか」を肌で知ることが長期的な組織力強化に繋がります。

今後の課題と製造業関係者へのメッセージ

金属疲労基礎強度設計、FEM疲労解析、寿命評価、耐疲労設計は、今や大手・中小の垣根を越え、全てのものづくりに不可欠なスキルセットです。
特に調達購買部門や現場技術者は、従来の経験則一辺倒から脱却し、数値根拠による設計・評価へと舵を切ることが急務といえるでしょう。

サプライヤーや設計開発部門の方には、「FEM疲労解析」という新しい“武器”を使いこなすことで、差別化と信頼性向上を実現し、ユーザーからの指名買いへと繋げてほしいと思います。
バイヤーを目指す方や、サプライヤー側でバイヤーの意向を理解したい方は、「なぜ疲労評価が求められるのか」「どんなデータが必要なのか」を深く理解することで交渉力・提案力がアップします。

金属疲労との戦いは、ものづくりの“見えざる敵”との闘いです。
昭和型の勘と経験に、デジタル解析と現場ヒアリングの知恵を掛け合わせれば、より強く、軽く、長持ちする製品開発に繋がります。
製造業の現場から新しい地平線を共に開いていきましょう。

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