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*2025年6月30日現在のGoogle Analyticsのデータより

金属疲労のメカニズムとFEM(有限要素法)による疲労解析および寿命評価・耐疲労設計への応用

目次
はじめに
金属材料を使用する製品や構造物において、「金属疲労」という言葉は避けて通ることができません。
長期使用される機械部品やインフラ設備など、繰り返し荷重がかかる環境下では突然の破断という形で、深刻な事故やトラブルを引き起こしかねません。
近年ではFEM(有限要素法)を活用した疲労解析が進化し、より高精度な寿命評価や耐疲労設計が現場に導入されています。
ここでは、金属疲労の基礎的なメカニズムからFEMを用いた応用、製造業の現場目線での課題や変わらぬアナログ業界の実態まで、現場叩き上げの立場から実践的に解説します。
金属疲労の基礎メカニズム
金属疲労とは何か
金属疲労とは、繰り返す応力が金属材料に与えられることで、最終的にクラックが発生し、破断に至る現象を指します。
たとえ一度では材料強度に満たない小さな力でも、何万回、何十万回繰り返されることで材料内部に微小な損傷が蓄積し、その蓄積が「疲労き裂」となり進行してしまいます。
機械設備、車両、橋梁、航空機など、社会インフラを支える多くの金属部品が、この「見えない敵」と常に戦っています。
疲労の発生メカニズム
疲労破壊のメカニズムはおおまかに、初期クラックの発生、クラックの進展、最終破断の3段階に分けられます。
まず応力が集中しやすい材料表面の「欠陥」や「粗さ」から微小なクラックが発生します。
その後、繰り返し荷重を受け続けることでクラックが徐々に成長し、最後には残存断面の強度が一気に低下して破断します。
このとき外観にはほとんど変化がないため、突発的な事故につながりやすいのが金属疲労の大きな特徴です。
重要なのは「応力集中」
現場では特に「応力集中」に注意せねばなりません。
角部や穴、溶接部など、荷重が一点に集中しやすい形状や工法が、不具合の温床となります。
キャリアを通じて経験上、設計の段階で丸み(フィレット)を付けたり、表面加工で粗さを低減するなど、地道な改善が現場で命運を分けてきました。
疲労設計の第一歩は、この「応力集中箇所をどう減らすか」に尽きるのです。
FEM(有限要素法)による疲労解析の進化
なぜFEMが重要視されるのか
従来の金属疲労寿命評価は、理論式や経験則(SN曲線など)に大きく依存していました。
しかし、製品の形状が複雑化し、使用条件も多様化する中、精度や信頼性に限界がありました。
FEM(有限要素法)は、製品の三次元形状や様々な条件を反映しながら、応力分布と変形挙動を数値シミュレーションできます。
応力集中がどこにどう生じ、部材全体にどう伝播するかを可視化できるため、疲労寿命予測が飛躍的に向上しました。
疲労解析におけるFEM活用フロー
FEMによる疲労解析の基本的な流れは以下の通りです。
1. モデル作成:図面やCADデータをもとに製品の三次元モデルを作成します。
2. メッシュ分割:モデルを微小な「要素」に分割し、各要素単位で引張・圧縮・せん断などの応力を解析します。
3. 荷重・拘束条件の設定:実際にかかる力や振動、温度、拘束条件を反映させます。
4. 静的・動的解析の実施:応力およびひずみ分布を算出します。
5. 疲労評価:応力振幅や繰り返し荷重条件をもとに、き裂の発生や進展を評価します。
この過程を通じて、設計のどこにリスクがあるか、「見えない弱点」を数値的に可視化できるのが最大のメリットです。
現場にもたらした革命
昭和の時代には現場のベテランたちの経験がすべてでしたが、素人的な勘や職人芸だけでは複雑な製品の全体最適化は困難です。
FEMの導入により、昔なら「やってみるしかない」試作・試運転の回数が大幅に削減され、高度な耐疲労設計が現場に根付くようになりました。
ただし「使いこなす」ためには材料物性データや設計実態の高精度な把握が必須であり、人と技術の融合が不可欠です。
実践的な金属疲労寿命評価の勘所
SN曲線とミネルの累積損傷則
金属疲労設計で昔から使われてきたのが「SN曲線」です。
これは、一つの試験片に対し、一定応力で何回繰り返し破断するかをシンプルにまとめたグラフです。
また、複数の異なる荷重サイクルが混在する場合、「ミネルの法則(累積損傷則)」を適用し、各応力の影響を合算します。
現場でも、FEMで得た最大応力とSN曲線・ミネル則のデータを組み合わせて「この設計は何万サイクルで破断リスクがあるか?」を総合的に評価するケースが増えています。
疲労き裂進展解析の最新技術
近年はモードI(開口モード)などのき裂挙動もFEMと連携して解析できます。
き裂の進展速度(da/dN)やき裂先端の応力拡大係数(K値)を設計段階で予測できれば、保守部品の交換サイクルや、構造物の長期寿命プランを合理的に立てることが可能になります。
現場でありがちな落とし穴
FEM解析結果に頼りすぎると「どんな条件も全て分かる」と錯覚しがちです。
しかし、材料のロットによるばらつき、現場の溶接不良や加工ムラ、現実には見落としがちな初期き裂や表面粗さの影響など、解析モデルでは拾いきれない要素が多々あります。
設計と現場、製造・検査・保守間の緊密な情報共有と、最適な安全率の設定が最終的な寿命管理の成否を決めます。
アナログ業界でFEMはどう使われているか
変わらぬ保守的体質と現場のリアル
製造業の現場では、いまだに「昔からこの形、経験でなんとか」というスタイルが根強く残っています。
とりわけ中小サプライヤーや熟練工が強い現場では、設計変更や新しい解析手法への抵抗感が大きいのが実情です。
FEMのレポートも「難しすぎてよく分からない」、あるいは「結局、現物で検証しないと信用できない」といった声もあります。
バイヤーとサプライヤーの「温度差」
部品メーカー(サプライヤー)からすると、大手バイヤーはFEM解析データで厳しい耐久要求を突きつけてきます。
しかしバイヤー側の実情も、極度の安全志向やトレーサビリティ強化に迫られているため、解析の「裏付け」「証拠」を求める構造になっているのです。
双方で情報ギャップが大きいと「本質的な疲労強度向上」よりも”書類上の安全対策”だけが肥大するリスクも抱えています。
現場出身のバイヤーやサプライヤー同士では、「本当に”ヤバい”のはどこか」「昔の失敗から何を学んだか」といった実践知の共有が極めて重要です。
昭和の手作業と最先端FEMの融合へ
筆者が感じる今後の方向性は「昭和的な現場力と、デジタル解析の連動」です。
人の経験値、五感や現場観察力、微妙な加工ムラの勘所――これらは全てFEMだけでは補いきれません。
逆にFEMは経験値だけで見抜けなかったリスクを可視化し、設計や現場改善の科学的根拠となる。
この「両者の相乗効果」をどう引き出すかが、アナログ業界の進化と次代の勝者を決めるカギとなると強く感じています。
耐疲労設計への具体的アプローチ
設計初期からの疲労対策
応力集中の低減、滑らかな形状設計、表面処理の工夫(ショットピーニングなどによる残留圧縮応力付与)、高品質な材料選定。
設計初期から疲労リスク低減を徹底すれば、後工程での膨大なコスト・手戻りを未然に防げます。
そのうえでFEM解析を活用し、現物試験と連携した「PDCA型の寿命評価」サイクルを回すことが、競争力のある設計の肝要です。
現場教育・データ連携の重要性
解析だけに頼らず、現場作業者・保全担当者への教育、ヒヤリハット事例の蓄積、材料ロットごとのフィードバック――こうした情報連携が品質と安全性の土台となります。
現場で使えるチェックリストや、異変検知のIoT化など、工場のIT・DXも耐疲労設計を支える新しい武器となりつつあります。
まとめ~製造業の未来を支える鍵として
金属疲労とFEMによる解析技術は、これからの製造業にとって最も重要なリスクマネジメント手法の一つです。
企業競争力を左右する製品の「耐久性」や「信頼性」の根幹であり、一方で現場経験や人の勘所といった“アナログ力”も依然として不可欠な価値です。
新旧の知見とツールをどう組み合わせ、現場発で「現実的な最適解」を模索し続ける姿勢こそが、次代の製造業に求められています。
これからバイヤーを目指す方、サプライヤーで現場改善に取り組む方も、ぜひ「金属疲労×FEM×現場現実」を切り口に、自社の強みを再発見してください。
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