- お役立ち記事
- 制御対象のモデル化・システム同定技術とその応用・例
月間83,046名の
製造業ご担当者様が閲覧しています*
*2025年5月31日現在のGoogle Analyticsのデータより

制御対象のモデル化・システム同定技術とその応用・例

目次
はじめに:製造業における「見える化」の核心
製造業の現場では、熟練工の「勘」や「経験」によって最適制御がなされてきた時代が長く続きました。
しかし、デジタル化・自動化の流れが不可逆的に加速する中で、「過去のやり方」だけでは超えられない壁が目の前に立ちはだかっています。
その壁を乗り越える一つのキーワードが、「制御対象のモデル化」と「システム同定技術」です。
本記事では、現場経験に根ざした目線でこれらの技術と、その実務での活用例を深堀りします。
レガシーな現場が抱える課題の本質にもフォーカスし、先進技術をどのように現場で活かせるのか、バイヤー・サプライヤー双方に役立つ実践的内容を共有します。
制御対象のモデル化とは何か
制御対象のモデル化とは、工場設備や生産ライン、製品品質といった「制御したい対象」を数式やアルゴリズムなどの形で“見える化”し、データや理論的枠組みの中で再現することを指します。
なぜモデル化が必要なのか
従来の製造工程では、「ミスが出たらその場で職人が調整」「不良が出てもリアルタイムで原因究明できない」いう事態が日常茶飯事でした。
これは現場力として評価されてきましたが、属人化が進む、再現性が乏しい、品質変動への即時対応が難しいというデメリットも併せ持っています。
モデル化を導入することで、設備や工程の挙動を数値ベースで予測・管理できるため、属人的な判断やリカバリーからの脱却と安定生産が実現します。
モデル化の基本的な考え方
モデル化には大きく二つのアプローチがあります。
第一は、物理現象や機械工学的知識に基づく「物理モデル(ホワイトボックスモデル)」です。
第二は、現場から得られる大量のデータを数学的に変換する「ブラックボックスモデル」(統計モデル、機械学習など)です。
多くの現場では、両者を組み合わせたグレーゾーンのアプローチ(グレーボックスモデル)も増えています。
製造現場でよくあるモデル化の例
・自動車部品の圧入工程での「加圧時間×温度×圧力」から成形品質を予測するモデル
・半導体製造装置のガスフロー制御モデル
・化学プロセスでの反応器の内温・圧力・pHバランスの数式化
・射出成形機の型締め/賦形の挙動モデル化 など
昭和の製造業現場では「神」と称された技能者による管理が主でしたが、令和の時代では「データで語る」ことこそ競争力です。
システム同定技術:現場データから“真のモデル”を掘り起こす
モデルを作るためには、現場で取り得る「実際のデータ」から最適な数理モデルを自動的に抽出する技術が必要となります。
これが「システム同定(system identification)」と呼ばれる分野です。
システム同定のステップ
1. センサで現場データを取得(例:温度、圧力、流量、搬送系の速度など)
2. 何を「出力」とし、何を「入力」と考えるか(例:加熱ヒータの出力→温度変化)
3. 様々なモデル構造を設定(1次遅れ系、PIDパラメータ、ニューラルネットワークなど)
4. 最適化手法でパラメータを同定(最小二乗法、最尤推定、深層学習など)
5. モデルの妥当性を検証し、現場で運用
この作業は一朝一夕では終わりません。
しかし「自社設備は何となくしか分かっていない」「なぜ制御が効かないのか分からない」といった漠然とした不安や課題を“データ起点”で打破できるのが最大の魅力です。
現場起点で考えるシステム同定の活用術
システム同定技術は、学術的には難解に思えるかもしれません。
しかしポイントさえ押さえれば、現場の「再現性確保」と「ムダの削減」に直結します。
応用1:予知保全と設備トラブルの早期察知
設備の通常運転時の応答モデルを構築しておくと、「いつもの挙動と違う」微細な変化を早期に検出できます。
振動、温度、電流値など多様なデータを同期させ、AIや統計モデルで“兆候”を見抜くことで、計画外停止や重大事故のリスクを最小化できます。
応用2:品質ばらつき抑制のためのリアルタイム制御
部品や材料のロット変動、生産設備の経時劣化――これらが品質ぶれの原因です。
モデルがあれば、現場データで最適制御点を算出しリアルタイムに設定値を微調整できます。
現場作業者の経験不足や、海外への生産移管後の品質維持にも有効です。
応用3:新規設備・プロセスの立ち上げ短縮
モデル化とシステム同定により、実機導入前にシミュレーションで制御パラメータのチューニングが可能になります。
従来は数ヶ月かかっていた歩留まり安定までの期間が大幅短縮され、トータルコスト低減にも繋がります。
現場導入時の落とし穴と克服のヒント
「モデル化やシステム同定をやりたいが、なぜかうまく進まない」という声は現場でよく耳にします。
その背景には、幾つかの業界特有の課題があります。
落とし穴1:データが取れない・そもそも計測されていない
多くの古い設備や既存ラインでは、センサ設置やデータ取得環境が未整備です。
この場合、既存の制御盤・PLCからのログデータ活用や、後付けセンサの小規模導入からスタートしましょう。
落とし穴2:現場とデジタル部門のコミュニケーション断絶
モデル化や同定は「机上の空論」「現場のリアルを知らない」と敬遠されがちです。
改善提案を現場主導で進めるためには、現場作業者の知見とIT技術者のコラボが不可欠です。
“製造データの正しい意味付け”を相互理解できる場づくりが、プロジェクト成功には不可分です。
落とし穴3:個別最適の罠―全体最適を意識せよ
一つの設備のモデル構築だけでは、工場全体の生産最適化という本来のゴールに届かないこともあります。
「個別設備」「生産ライン」「ロジスティクス」「品質管理」までを貫く総合的な視点が必要です。
データをどう“つなぐか”が、これからの製造業DXの大きなテーマです。
バイヤー視点で重要となるモデル化・同定技術
原材料費や部品調達コストだけでバイヤーは満足されがちですが、真の意味でサプライヤーの質を見抜くには「工程管理力」「品質予測性」などを問う必要があります。
モデル化や同定技術が現場に根付いているサプライヤーは、品質ぶれ・納期変動・トラブル時のリカバリー能力が群を抜いて高いです。
仕様書や納入条件だけでなく、「どのようなデータを可視化・活用しているのか」「不適合時にどのようなアプローチで異常原因をモデル化・検証するのか」といった“中身”を見る眼を養いましょう。
サプライヤー視点:差別化の武器として活用する
コスト低減や短納期対応だけでなく、「プロセスをモデルベースで管理しています」とPRできれば、バイヤーからの信頼は急上昇します。
定量的根拠に基づく品質保証体制や、トラブルの再発防止プロセスも「システム同定を活用したカイゼン活動」として競争優位となります。
要求を待つのではなく、攻めの情報発信をしましょう。
今後の製造業におけるモデル化・同定技術の展望
AI・IoT時代を迎えた今こそ、製造現場の“見える化”は避けては通れません。
デジタル人材の育成、アナログノウハウの棚卸、現場知見×数理技術の融合がカギとなります。
「見えないものを見える化する」――これは昭和伝統の現場にも、次世代のデジタル日常化にも必須のテーマです。
ラテラルシンキングを働かせて、新たな応用分野(例:エネルギー管理、物流最適化、カーボンニュートラル施策)にも自在に拡張できます。
少しでも多くの現場で、モデル化と同定技術による新たな地平線が開かれることを祈ってやみません。
まとめ
制御対象のモデル化・システム同定技術は、現場力の底上げ、生産性改善、品質保証の強化、バイヤーとの信頼関係強化、そして業界全体の競争力向上に直結します。
すぐに全てがデジタル化できなくても、データの記録・可視化から一歩ずつ始めることこそが肝要です。
現場で感じるアナログの壁こそ、DX・自動化時代への入り口です。
今までのやり方に囚われず、未来志向でモデル化・同定技術の活用を一緒に切り開いていきましょう。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
ユーザー登録
受発注業務の効率化だけでなく、システムを導入することで、コスト削減や製品・資材のステータス可視化のほか、属人化していた受発注情報の共有化による内部不正防止や統制にも役立ちます。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)