投稿日:2025年8月30日

輸送中のカビ・結露対策:デシカント量算定とベーパーバリア選定

はじめに:現場で重要性が再認識されるカビ・結露対策

近年、製造業のグローバル化とサプライチェーンの複雑化が進む中、輸送中の製品品質維持がより一層重要視されています。

特に、長距離輸送や海外輸送では、温湿度管理の難しさからカビや結露の発生がリスクとして顕在化しています。

現場目線で見れば、ほんのわずかなカビや水滴の発生が「クレーム地獄」や「リコール」の引き金になることも珍しくありません。

この記事では、
「輸送中のカビ・結露対策」
に関して、デシカント(乾燥剤)の適正量算定やベーパーバリア(防湿包装材)選定に焦点を当て、実践経験に基づいた知見を交えながら解説します。

また、昭和の時代から抜け出せないアナログな現場にも根強く残る業界慣習についても触れ、これからバイヤーや調達担当を目指す方、サプライヤーとして提案力を高めたい方にも役立つ内容をお届けします。

なぜ輸送中にカビ・結露が発生するのか

温湿度の変化が招くリスク

工場から出荷された製品は、長時間をかけて船・トラック・航空機などを経由して世界各地の顧客の元へ届けられます。

この過程で大きく問題となるのが「温湿度」の変化です。

例えば、日本から湿度の高い東南アジア、あるいは気温差の大きい欧州向けに製品を輸出する場合、コンテナ内部は朝昼晩で数十度の温度差・湿度の増減が発生します。

温度が下がると空気中の水分が露点を下回り、結露(水滴)として内部に現れます。

そして湿気と適度な温度環境は、カビの発生を促します。

アナログ現場が抱える“見えないリスク”

現場では「たくさん乾燥剤を入れておけば大丈夫」「二重に梱包しておけば平気だろう」など経験則や過去の踏襲で対策してしまうことが多いものです。

しかし、梱包仕様が「根拠なき慣例」で決められていれば、ある日突然大規模な品質問題を発生させる危険性を秘めています。

ここをシステマチックに管理できるかどうかが、今後のサプライヤー&バイヤー選定の大きな分岐点とも言えるでしょう。

デシカント(乾燥剤)量の適正算定方法

理論的アプローチ:基本の考え方

デシカント量の算定は、以下の要素を元に行うのが基本です。

1. 梱包内部の空気容量
2. 梱包材の透湿度(どれほど水蒸気が通るか)
3. 製品自体に含まれる初期水分量
4. 輸送・保管期間
5. 目的とする最大許容湿度

代表的な算定式は、JIS Z 0701やMIL規格(米軍規格)などで提示されていますが、
現場では以下の簡易的な計算式がよく用いられています。

必要デシカント量(g) = 梱包内容物の重量(kg) × 必要係数
(係数は経験則、または各製品ごとのテストデータなどから設定)

但し、トレードオフとして乾燥剤が多すぎるとコストアップや環境負荷、作業工数増大のリスクも伴います。

つまり「根拠ある必要最小量」の設定が品質・コスト・現場負荷すべてを最適化するキーポイントになるのです。

現場での具体的・実践的な算定フロー

1. 内容物のサイズ・体積・重量を正確に把握
2. 実際の輸送梱包材(ダンボールや防湿袋など)のスペックと、外寸での空気容量を計算
3. 過去の輸送トラブル情報や現地気象データなどを調査し、「想定される最大湿度レベル」と「輸送期間」(例:45日間で85%RH)を見積もる
4. 主要乾燥剤メーカーの技術データから適合する製品・必要量を仮確定
5. 小規模な輸送試験で、包材内部の湿度・温度データロガーを用いて実測検証
6. 問題なければ標準化し、問題あれば量や包材・封入位置などを再調整

この一連の流れが最も実践的で、現場で“使える仕組み”として根付きます。

昭和からの流れを断ち切る:「適当に入れる」文化脱却

かつては“千三つ(せんみつ=千件のうち三件しか本当のことがない)”とも形容される日本の製造現場。

実態として「乾燥剤は箱の隅に慣習量を入れておく」「梱包作業時に作業者の感覚で足す」など、根拠なく対応している工場も未だにあります。

これからの時代は、データベース化された知見と実輸送トライアルによる根拠づくりが、バイヤー・購買担当としての評価を大きく左右します。

梱包仕様書や作業標準書に「デシカント量決定の科学的根拠」を記載し、説明責任を果たす姿勢がサプライヤーの信用にも直結するのです。

ベーパーバリア(防湿包装材)の正しい選定ポイント

包材選びを誤ると全てが水の泡

せっかく正しく乾燥剤を入れても、包材そのものが水蒸気を通しやすいものであれば、外部から湿気が流入し長期間輸送中に機能を失ってしまいます。

そのため
「梱包材の水蒸気透過度」=ベーパーバリア性能
が重要な選定基準となります。

代表的なベーパーバリア仕様と選び方

防湿包材の構成例は以下の通りです。

・PE(ポリエチレン)フィルム →コスト安、汎用的、防湿性そこそこ
・アルミラミネート(蒸着)フィルム →高性能、価格高い、真空パック可
・クラフト紙+PEラミネート →紙粉リスク、安価、簡易包装向け

包材の水蒸気透過度は、JIS Z 0208やASTM F1249などの試験規格で数値化されます。

目安として、「アルミ蒸着(例えば0.01g/m2・day以下)」のものを選定すれば、比較的長期間の輸送にも耐える性能が期待できます。

徹底ポイント:サイズ選び・封入方法も重要

・「内容物に対して袋が大きすぎるとくしゃくしゃになる=破れ・漏れリスク増」
・「シール不良や端部の折れ目からの湿気漏れも重大な品質事故の原因」

現場では「包材選定&封入手順」も標準作業とセットで管理する運用が、結局は最後の砦となります。

結露・カビ対策強化の最前線:IoT・データ活用の薦め

昭和型のアナログ現場でも、現在はリーズナブルなデータロガー(小型温湿度記録装置)が普及しています。

輸送中のコンテナ1箱ごとに数個入れておけば、どこで・どれだけの湿度上昇・温度低下が起きたかを“見える化”でき、次回以降の対策資料として大いに役立ちます。

こうしたデータ活用は工場内の自動化投資と比べて簡単かつ安価に始められるため、全社横断での品質向上プロジェクトにも適しています。

コストとリスク、どちらを優先すべきか?バイヤーとして知っておきたいバランス感覚

サプライヤーからすれば、乾燥剤も高級包材も「コスト増要因」です。

一方、バイヤーとしては「品質不良でのクレーム損失リスク」を避けたいと考えるのが当然です。

どちらか一方ではなく、「想定する輸送条件」と「許容リスク」のバランスを擦り合わせる“現場コミュニケーション”が欠かせません。

現場でトラブルが発生した時、再検証しやすいような記録・管理体制こそが、製造業における「攻め」のコストダウン・「守り」の品質保証を両立させる要となります。

まとめ:アナログの壁を超えて、根拠ある最適化で差別化を図る

輸送中のカビ・結露対策は、一見シンプルなようで奥が深く、現代のグローバル製造業において極めて重要な課題です。

乾燥剤の適正量算定も、防湿包材の選定も、「経験則」だけでは戦えない時代。

データと理論、現場検証に基づく最適化こそ、今後高付加価値なサプライヤー・バイヤーに求められる能力です。

ほんのわずかな努力が、大きな差別化・品質事故ゼロにつながります。

時代に合ったカビ・結露対策で、製造業全体の信頼性向上と持続可能な発展を実現していきましょう。

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