投稿日:2025年11月5日

量産化に向けた金型設計の流れと試作検証のポイント

はじめに:量産化へ向けた金型設計の重要性

量産化を目指した製品開発において、金型設計は決して避けて通れない重要なプロセスです。

金型そのものが製造プロセスの根幹をなすため、一度不適切な設計で量産を開始してしまうと、その後の修正には莫大なコストと時間を要します。

逆に言えば、金型設計段階で量産リスクを可能な限り排除し、効率的な生産を想定した仕組みを作れば、企業にとって大きな競争力となります。

本記事では、長年の工場現場で培った知識と、現実的な目線から「量産化」に特化した金型設計の流れ、そして試作検証で陥りがちな落とし穴や課題について、業界の最新動向も交えて解説します。


金型設計の全体像と量産を見据えた考え方

金型設計のプロセス概要

金型設計は単なる図面作成や形状検討ではありません。

製品図面・仕様策定→成形工法の選定→金型構造設計→材料選定→加工・組立→トライ(試作/初品出し)→量産評価までの全体プロセスを一気通貫で考えることが肝要です。

昭和時代からの「とりあえず作ってみて、ダメなら直す」スタイルは現代の市場スピードに適応できなくなりつつあります。

一発でベストな型を作るためには、設計早期から製造現場・品質保証・バイヤーなど多職種が連携し、目標仕様に向けて逆算思考で進める必要があります。

「生産容易化」を意識した設計思考

金型設計の現場で重要なのは、生産現場の「リアル」を意識した設計です。

量産工程において不良や停止の原因となるのは、しばしば設計段階では見落とされがちな“つまらないこと”の積み重ねです。

例えば、抜き勾配不足、エジェクタピン配置の不備、ガス抜き不良など、些細な設計ミスが数千・数万個単位の製造で大きなロスや品質問題の元凶になります。

これらを未然に防ぐため、生産技術や工場現場の熟練者とのすり合わせ、本質的な「製造容易化設計」「メンテナンス性向上」への配慮が欠かせません。

量産前提/ “アナログ現場”特有の要求も考慮

最新設備が導入されている工場ばかりではなく、昭和から続くアナログ主体のラインも製造業現場には多く残っています。

こうした現場では「職人の暗黙知」や「現場独自の段取り・管理手法」が未だ巨大な影響力を持っています。

たとえば、型交換時の人手負担や、予防保全のしやすさ、修理交換パーツの標準仕様化など、図面上では見えない課題が現場では本質的な要件となることも多々あります。

このような「古き良き現場感覚」も尊重しつつ、最新デジタル技術との融合を進める視点が現代の金型設計に求められます。


金型設計で失敗しないための実践ステップ

ステップ1:製品設計担当・生産現場・バイヤーの三位一体化

従来、製品設計者と金型設計者が異なる部署、時には異なる会社であることが珍しくありませんでした。

昨今は「モノづくり現場力」を高めるため、以下の連携が重要です。

・製品設計段階から金型化の可否・成形性を検証する
・購買/バイヤーがコスト視点や取引先の設備能力情報を積極的にフィードバックする
・量産現場で発生するトラブル知見を設計へ迅速に展開する

この三者連携が強まれば、“作りやすく・壊れにくく・安く作れる成功型”に昇華できます。

ステップ2:最新CAEの活用と現場レビューの融合

CAE(シミュレーション)は、流動解析や冷却シミュレーションで金型の問題点を事前予測できます。

特に射出成形品の肉厚不均一やヒケ、ウェルドラインの発生箇所などは、熟練者の勘や経験だけでは把握が難しいです。

一方で、CAEだけを過信しすぎると、意図しない設計バイアスや、微細な勾配の設定ミスなどに気付かない場合があります。

そこで「CAE結果を現場視点でレビューする」「現場からのフィードバックをCAEパラメータに反映する」といった融合型プロセスが推奨されます。

ステップ3:デジタルとアナログのハイブリッド型マスタ管理

デジタル設計データによる型製造プロセス管理は当然ですが、現場では紙ベースや職人の口伝によるノウハウ継承も根強く残っています。

「メンテナンス履歴」「不具合発生情報」「型の摩耗状況」などを一元デジタル管理し、現場作業者も使いやすいインターフェイスで記録・共有できる体制作りが理想です。

現場に寄り添うシステム導入は、型の長寿命化や突発不良の予防に大きく寄与します。


試作・トライで押さえるべき量産化のポイント

なぜ1stトライで「全合格」を狙う必要があるのか?

現場では「ファーストトライはあくまで最低限の形を出せば良い」という意識が根付いていました。

しかし、今や「ファーストトライで限りなく量産そのものの品質・コスト水準」に早期到達することが市場競争力の源となっています。

試作での課題抽出やパラメータ最適化を怠ると、量産転換後の手直しや立上げ遅延が深刻化し、全社損失に直結します。

試作検証で必ず意識すべき観点

1)外観・寸法・機能・組付適合の全チェック
 図面上の寸法検証はもちろん、実際の組立現場シミュレーションや、「量産スピード下での外観不良」「ラインでの送り出し性」まで現場感覚でチェックします。

2)成形圧力・温度・サイクルタイムの最適化
 量産ラインと同等環境で「どこまでサイクル短縮・コスト低減が可能か」「安定的な品質確保ができるか」を実条件に即して追求します。

3)トラブル“再現性”の見極め
偶発的なトラブルであっても、些細な条件変更で再現してしまう現象は“未然防止”の観点から徹底的に潰します。

4)現場作業者・品質担当者の意見収集
現場目線で見落としがちな“使い勝手”やメンテナンス面、ロットトレース性なども、早期から試作段階で意見吸い上げすることが重要です。

“型のシリアル化”とリアルタイムPDCAサイクル

近年はIoT型管理や型のシリアルナンバー化、バーコード・センサー連携で「どの型で、どの条件で、どんな不良が出たか」を即時モニタリングできる環境が整ってきました。

昭和型の“場当たり対応”から一歩抜け出し、リアルタイムPDCAの文化を組織で定着させることが、ますます重要です。


量産移行での投資最適化/バイヤーの視点

金型コスト管理の失敗あるある

金型調達時に「初期投資は安いが、修理頻度やメンテナンスコストが高い型」を選択してしまい、トータルコストが跳ね上がるケースは後を絶ちません。

購入担当バイヤーは、単純な「型価格」だけでなく
・量産1個あたりの減価償却費
・1年後・3年後の修理・部品交換コスト
・作業負荷や生産停止ロス

など、TCO(トータルコスト)思考による型選定が求められます。

サプライヤー・型メーカーとのWin-Win関係構築

バイヤーが最良サプライヤーと長期的信頼関係を築くには、「目先の価格交渉」よりも、「協業開発」「現場課題の共有」「共同PDCA会議」などの文化作りが肝になります。

その上で、独自技術や生産ノウハウを保有する金型メーカーを巻き込んだ“共創型モノづくり”が、今後の日本製造業の競争力となるでしょう。


まとめ:徹底した現場力×システム連携で次世代へ

金型設計・量産化への流れは、設計×製造×調達、それぞれの現場力を多元的に融合させなければ立ち行きません。

AIやIoT、デジタル技術は急速に進化していますが、アナログ現場の“現物・現場・現実”視点も無視できません。

トライ&エラーを単なる偶然や属人化にせず、全社一丸で「量産しやすく・不良を出さない・コストを下げる」設計を実現する仕組み改革こそ、製造業全体の底上げになると私は考えます。

これから金型設計や量産化に携わる方、バイヤーを目指す方、サプライヤーとして価値を高めたい方は、ぜひ現場の声と経営視点の両方に立ち、モノづくりの真の進化を目指してください。

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