投稿日:2025年12月20日

抄紙機トラブルの多くが部材理解不足から始まる理由

抄紙機トラブルの多くが部材理解不足から始まる理由

はじめに:見落とされる部材知識の重要性

製造業の根幹を支える抄紙機(しょうしき)は、紙の品質や生産効率を大きく左右する機械です。
しかし、現場では「とりあえず動くから良い」「年長者の言う通りで良い」という風潮や、昭和時代から続くアナログな考え方がいまだ根強く残っています。
その中で、日常的に発生するトラブルの多くが、「部材そのものへの理解不足」から始まっている事実に気づいている方は意外と少ないのではないでしょうか。

本記事では、抄紙機トラブルの本質的な要因と、部材への深い理解がどのようにトラブル防止・生産効率向上につながるのか、私自身の現場経験を交えて解説します。
バイヤーを目指す方やサプライヤーとして生き残るための着眼点も提示し、製造業の発展のための新たな地平線を切り拓くヒントを提供します。

抄紙機トラブルの現実:何が起きているのか?

抄紙機は、原料を供給し、給水、濾水、圧搾、乾燥、そして巻き取りまで、全工程が複雑に連動しています。
特定の部位で「ちょっとした違和感」でも、それが全体に波及し、重大な停止や品質不良に繋がるケースが多発します。

私が現場でよく見聞きした例は以下の通りです。

– ロールの外周摩耗が見逃され、紙厚ムラが広範囲に発生
– ワイヤーの交換サイクル根拠が曖昧で、運用中の目詰まりや断線
– スリッター刃の材質選定ミスによる頻繁な破断
– 部材コスト削減のための安価品採用で想定外の頻度で交換や清掃が必要

これらトラブルの多くは、現場の作業者や購買担当者の「部材の根本的な機能や性能要件への理解不足」が起点になっています。

なぜ部材理解が浅いまま現場運用されるのか

部材理解が浅いまま現場が回ってしまう理由はいくつかあります。

1. OJT頼みの暗黙知文化
日本のものづくりの現場では「見て覚えろ」「壊れたら直せ」が美徳とされてきました。
その結果、どの部材がどんな機能を担い、どのような選定・交換基準で管理されているかが体系的にならず、個人の経験に依存しがちです。

2. サプライヤー・バイヤー間の情報断絶
購買や調達担当者は、コスト・納期・品質といった商談条件で忙殺され、各部材や消耗品の仕様や型番の意味、微細な設計変更の影響までは深く理解しきれないことが多いです。
逆にサプライヤー側も、「お客様の言う型番通りに納入」「余計なおせっかい」と情報共有を控えがちで、結果として双方に知識ギャップが生まれています。

3. アナログ思考から抜け出せない構造
抄紙現場のベテラン層の中には、デジタル化や見える化に不信感を持つ方もまだまだ多いです。
IoT・データ分析主体のトラブル予防が定着しにくく、「経験と勘」に頼り切った現場運営で、部材ごとの科学的管理が進んでいません。

部材知識を深めることで得られるメリット

部材への体系的な知識を身につけることには、以下のような大きなメリットがあります。

1. トラブル未然防止の精度が格段に上がる
例えば抄紙機の「ワイヤー」は、繊維の流れや抜き効率、紙の表面性に直結する重要部材です。
過去の摩耗・交換実績データと現行ワイヤーの設計・性能をリンクさせて管理すれば、「運用パターン別の最適交換タイミング」がデータで語れるようになります。
予期せぬ断線やライン停止リスクの低減、計画的なメンテナンス体制構築への一歩となります。

2. コストと品質の両立が実現できる
「コスト優先の安価品大量購入」が一時的には費用削減に見えても、実は「交換頻度増」「不良発生」として後から膨大なロスコストが発生します。
各部材の要求品質と用途を正確に把握したうえでベストバイを選定すれば、トータルコストの最適解を導くことができます。

3. サプライヤーとの建設的な関係構築
購買担当者や現場責任者が、「この部材のスペック/原理」をしっかり理解していれば、サプライヤーとも高いレベルの会話ができます。
結果、余計な調整や交渉が減り、品質問題や納期遅延への対応もスムーズになります。
真の“信頼パートナー”関係へ進化します。

バイヤーを目指す方に伝えたい:部材への宿題

バイヤーは単なる値引き交渉者ではありません。
メーカー現場担当者と同じ「ものづくり」を根底で支える存在です。

調達・購買部門でこれからキャリアを積みたい方は、目の前の購入品が「どんな原理・構造で、どんなメリットデメリットがあり、どんな場合に不具合を起こすのか」を徹底的に勉強しましょう。
ベテラン現場スタッフやサプライヤーへ臆せず質問し、カタログや技術資料を熟読し、「自社の現場特性に本当に合うか」を判断する目を養うことが大切です。

「安く買えた。この型番で問題ない」ではなく、「なぜその型番が必要なのか?現場の生産性や品質にどんな影響を及ぼすのか?」を追究できたとき、周囲から頼られるバイヤーになります。

サプライヤー目線で考える:顧客現場の“深読み力”

サプライヤーとして成功するためには、自分の商品知識だけでなく「バイヤーや現場担当者が求めている“背景”」を読み取ることが重要です。

「新型なのでおすすめです」という売り込みはよくありますが、顧客の抄紙工程の運用条件(連続稼働、品質要求、設備世代など)を細かくヒヤリングし、本当に役立つ情報・改善案を提案できる営業こそ重宝されます。
そのためには顧客の部材選定ロジックや工程内で起きがちなトラブル実態を知る努力が必要です。

「クレームが来てから対応」ではなく、「設備構成や紙種ごとの消耗傾向を理解した上で予兆管理法を案内」できれば、真のパートナーとして信頼が増します。

アナログ現場でも部材知識は“攻め”の切り札

「うちの会社はまだアナログ」「自動化は進まない」と嘆く現場にこそ、部材の選定・管理を徹底する“攻め”の姿勢が武器になります。
現物を見て、触れ、摩耗・破損のパターンや現象と向き合うことで、独自の管理ノウハウや改善アイデアが必ず生まれます。
その積み重ねが結果としてペーパーレスや自動化を進める足掛かりにもなります。

部材パーツリストに一歩踏み込んだメモを書き溜める、日々の点検や稼働トラブルを「なぜこの部材で起きたのか?」と深掘りする——
現場の粘り強い学びが、アナログ現場の最大の強みに変わります。

まとめ:抄紙機とともに進化を目指すために

抄紙機のトラブルは、部材そのものの理解や知識が浅いことから始まるケースがほとんどです。
ものづくり現場の安定稼働・コストダウン・品質向上は、「部材の特性・設計意図・運用条件」を正確に捉え、現場力と購買・供給者との連携の中で常に磨き上げていくことから生まれます。

現場で汗を流す皆さん、バイヤーを目指す方、サプライヤーとして成長したい方は、日頃から部材に興味を持ち、「なぜ?」を繰り返してください。
その積み重ねが必ずや、昭和から抜け出せない構造に風穴を開け、次世代のものづくりを切り拓く鍵となります。

価値あるトラブルゼロの抄紙現場へ——
深い部材理解と対話がその第一歩です。

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