投稿日:2025年7月2日

モータ電磁振動騒音の原因解析と低減化設計テクニック

はじめに:電磁振動騒音はモータ開発現場の宿命

モータの駆動音や振動、騒音の問題は、製造業に従事するエンジニア、特に設計担当や品質担当にとって、長年付きまとう課題です。
市場で要求される静粛性の高い製品づくりは自動車、家電、産業機械を問わず、市場評価や取引先バイヤーの評価にも大きく影響します。
また、昭和から続くアナログ主体の作業現場では、こうした問題へのアプローチが属人的・経験頼みになっているケースも多々見られます。
ここでは、現場で20年以上培ってきた視点や、最近の業界動向も踏まえ、「電磁振動騒音」の根本的な原因解析と、具体的な低減化設計の実践テクニックをお伝えします。

電磁振動騒音とは何か?

モータの“うなり”は何から生まれるか

電磁振動騒音は、モータ内部で発生する磁場の変動が、コアやケーシングといった構造部材に力を与え、結果として振動や音として外部に現れる現象です。
一見、単純なメカ騒音に見えても、根底には「電磁的要因」が潜んでいます。

この騒音は人の耳に不快感をもたらすだけではなく、製品そのものの信頼性低下(ゆるみ、亀裂発生、早期故障など)につながることすらあります。
とりわけ近年はEVや小型ロボットなど低騒音が重視される分野で、騒音・振動のクレームが激増しています。

現場で誤解されやすい振動騒音の“犯人”の正体

製造現場では、騒音源をメカ由来(例えばベアリング劣化や締結不良)と考える方も多いのですが、実際には下記のような電磁要因が支配的です。

  • トルクリップル(回転トルクの変動)
  • 通電タイミング不良による磁界変動
  • コアの磁束飽和による過剰励磁
  • スロット数(溝数)とポール数の関係による固有周波数騒音

主な電磁振動騒音の原因分析―現場で役立つ視点

1. トルクリップルと磁極スロットの関係

開発メーカーの設計現場でも、トルク変動(トルクリップル)が騒音の主要因と認識されるケースが増えています。
例えばスロット数と磁極数の組み合わせによる固有周波数の共振問題は、設計初期では盲点になりやすいポイントです。

設計段階で“日常的な経験則”でスロット配列やコイル巻数を決定すると、意図せぬ高調波成分が強調され、特定の回転数で激しい振動騒音を発生させることがあります。
この対策には、有限要素法(FEM)やシミュレーション解析が威力を発揮しますが、現場ではそこまでのツールや知識が十分に活用されていないという実情もあります。

2. 鉄心の材料・形状由来の問題

素材や構造設計も見逃せません。
例えば、鉄心(コア)の積層板の材質や板厚(ラミネート)、打ち抜き形状、接合方式の違いは振動伝播特性に大きく作用します。
昭和的なコスト優先文化の現場では、安価な材質やプレス加工が選ばれる傾向がありますが、電磁騒音対策としては逆効果を生むことも多いのが実情です。

また、鉄損低減・材料剛性アップによる高性能化要求は近年ますます高まり、高級珪素鋼板、アモルファス材などを武器にした競争も激化しています。

3. 制御パターン&ドライブ回路の最適化

ソフト的な対策も効果的です。
通電パルス波形の最適化や、PWM(パルス幅変調)周波数の調整、オープンループ・クローズドループ制御のアルゴリズム最適化でも電磁騒音のレベルは大きく左右されます。

現場ではインバータドライブモータの“駆動音が耳障り”といった指摘も増えており、これらのノウハウ蓄積・水平展開はバイヤーや品質保証部門にとっても必須の知識となりつつあります。

低減化設計のための具体的テクニック

1. スロット・ポール最適化と分布巻コイルの工夫

スロット数とポール数、コイルピッチの関係性を最適化することで、トルクリップル発生源となる高調波成分を劇的に低減することができます。

単純な集中巻きから分布巻きに設計を変更したり、コイルをスキュー角(斜め巻き)化すると、各スロット間の磁束密度バラつきが小さくなり高調波トルクが低減されます。
このような設計変更は、手間やコスト増と引き換えになることもありますが、購入部材・サプライヤー選定時に「分布巻仕様対応」「最適スキュー角指定」といった条件を出すことで、バイヤーの優位性を発揮できます。

2. 鉄心材料・積層板設計にこだわる

業界古参の製造現場ほど、コスト重視で低グレード材料を採用しがちですが、高周波損失対策や剛性アップが可能な新材料導入は長期視点でみれば圧倒的にメリットを生み出します。
例えば、薄板高級珪素鋼への変更やラミネート化、さらにはアモルファスやナノクリスタル合金といった新素材への切り替えで、「材料費が高いがトータルで見ると歩留まり・故障対応費が減る」といった成果が得られます。

これらの新材料は、高周波鉄損や磁気ひずみを低減するだけでなく、二次的に発生する“耳障りな高調波騒音”の低減にも大きな効果をもたらします。

3. 振動・音響解析の導入

FEM振動解析や音響カメラなど先端ツールの導入は大企業の専売特許ではなく、中堅メーカー、サプライヤーにも徐々に普及しています。
とくに試作段階や設計検討初期に、音圧レベルマッピングや振動モードの可視化を実施することで、実機量産前に致命的な騒音トラブルを潰すことが可能です。

さらに、近年ではAIベース自動診断や、デジタルツイン環境下での騒音シミュレーションも進歩しており、「現場経験+分析ツール」というアナログとデジタルの融合が今後の主流となるでしょう。

4. ドライブ回路の高周波対策/デジタル制御活用

モータ制御の進化も大きな武器となります。
スイッチング周波数アップや非整数倍PWM制御方式の導入、ベクトル制御や最適化アルゴリズム導入により、トルクリップルや磁束揺らぎを大幅にカットできます。

市場には既に低騒音設計を謳うインバータドライブIC/モジュール製品も登場しており、これをバイヤー側が積極的にスペック要件として取り入れることで、品質・信頼性の差別化にもつながります。

現場目線で見る、アナログ志向の壁とデジタル化の波

製造業界は今も“昭和の知恵”が根付く現場文化が色濃く残ります。
例えば「ベテラン職人の経験値が最も信頼できる」という考えや、「新しい材料や設計はリスクが高い・忌避されやすい」といったマインドセットが根強いのです。

しかし、市場・顧客ニーズは爆速でデジタルシフトしており、先端解析ツールや最適設計アルゴリズムを活用できる現場とそうでない現場の競争力格差は一層拡大しています。
これからの時代、経験・勘に頼るだけでなく、積極的に新しい手法やAI診断、デジタルツイン化に投資できる現場が勝ち残っていくでしょう。

また、バイヤー志望者・サプライヤー側バイヤー対策でも、「設計~部材調達段階で電磁振動騒音リスクへの目配りができる人材」が必須になると断言できます。
サプライヤーの立場でも、設計段階から納入仕様書・性能保障に“低騒音・低振動”を盛り込まれる時代が来ています。

まとめ:モータ電磁振動騒音低減のために、今すぐ現場で実践したい5つのアクション

1. 設計段階でスロット・ポール・巻線配置を最適化し、高調波発生源を徹底除去する。
2. 鉄心材料や積層板仕様の選定に妥協せず、トータル原価を意識した高性能材料を積極提案する。
3. 振動・音響シミュレーションやAI診断などデジタル解析ツールを導入し、具体的な現場の“見える化”を進める。
4. ドライブ回路や制御アルゴリズムの高機能版へ切り替え、制御ソフト側からの騒音低減対策も並行して進める。
5. 昭和的経験則や慣習にとらわれず、現場とバイヤー、サプライヤーが“三位一体”となり議論・改善サイクルを加速させる。

モータ電磁振動騒音問題は、もはや設計者や開発部門だけの課題ではありません。
調達購買、生産管理、品質部門、バイヤー、そして現場に携わる全てのメンバーが一丸となって、業界全体で知恵を出し合い、最適解を探し続ける必要があります。
あなたの目の前の現場から、一歩踏み出して改善アクションを重ねることで、業界の未来は大きく変わります。

今こそ、電磁振動騒音のない、世界に誇れる静謐なモータ開発を目指しましょう。

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