素材選定で知っておきたい天然繊維と合成繊維の特性比較

素材選定の重要性と時代背景

製造業の現場において、素材選定は製品の品質やコスト、さらには企業の競争力までを大きく左右する重要な工程です。

特にアパレルや自動車、電子機器、医療など幅広い分野で活躍する繊維素材は、その進化にともない「天然繊維」と「合成繊維」の使い分けが不可欠となっています。

日本の製造業は、長らく“昭和型”ともいえる熟練者の勘と経験、職人技術に支えられて成長してきました。

しかし市場のグローバル化やサプライチェーンの複雑化により、これまでの常識が通用しない時代へ突入しました。

一方、デジタル化が進んだといえども、素材選定の分野では「昔ながらのこだわり」「コスト一辺倒」「忙しさで時間が取れない」といった理由で、本質的な検討が疎かになりがちです。

これからの製造現場や調達・購買担当者は、天然繊維と合成繊維の違いを深く理解し、用途や時代背景に合わせた最適な素材選定をすることが問われています。

天然繊維の概要と特性

天然繊維の種類

天然繊維には動物由来と植物由来があり、代表的なものとして次のような種類があります。

• 綿（コットン）：植物繊維
• 麻（リネン・ヘンプなど）：植物繊維
• 羊毛（ウール）：動物繊維
• 絹（シルク）：動物繊維

天然繊維の主な特性

天然繊維は、自然が生み出した分子構造や微細な空隙などによって、独自の性質を持ちます。

たとえば、綿は吸水性・通気性に優れ、肌触りが柔らかいです。

羊毛は弾力性と保温性に富み、湿気を吸収しやすい特徴を持っています。

麻は夏物衣料に適した涼しさと速乾性があり、シルクは光沢と滑らかな感触が特長です。

このような特性は天然繊維ならではの素材感・風合いを生み出し、製品の価値やユーザーエクスペリエンスに直結します。

天然繊維が選ばれる現場の理由

現場目線で見ると、天然繊維は「肌触りを重視したい」「高級感を出したい」「環境意識の高いユーザーにアピールしたい」といった場合によく選ばれています。

また、天然繊維ならではの“育てる楽しみ” ― 洗うほど風合いが増す、馴染んでいく、といった付加価値は、昭和世代の技術者からZ世代のユーザーまで根強い人気があります。

ただし、量産の安定性や均一性、コスト面では課題も多く、今後は最新の生産管理技術や品質管理ノウハウが一層重要となります。

合成繊維の概要と特性

合成繊維の種類

合成繊維は石油由来の化学原料を用いて人工的に作られる繊維です。

代表的なものは次のとおりです。

• ポリエステル
• ナイロン
• アクリル
• ポリプロピレン
• ポリウレタン（スパンデックス）

合成繊維の主な特性

合成繊維の最大の特長は、分子レベルから自由自在に設計できる点です。

撥水性や耐久性、形態安定性など、求める性能を人工的に付与できるため、用途の広がりが圧倒的です。

特にポリエステルは、軽量でコストパフォーマンスが高く、シワになりにくいため、衣類はもちろん自動車や産業資材など多岐にわたって利用されています。

ナイロンも耐摩耗性や強度に優れているため工業分野で重宝されます。

機能性の進化は目覚ましく、吸湿発熱、ストレッチ、防炎などの高付加価値を持った“機能性繊維”開発も盛んです。

合成繊維が選ばれる現場の理由

合成繊維は大量生産しやすく、品質の均一化やコスト低減がしやすいのが大きな魅力です。

現場では「大量のロットでも安定供給したい」「メンテナンス性を重視したい」「カスタマイズ性やスペックの厳しい用途に合致する素材が欲しい」といったニーズに応えてくれます。

また、製品によっては1世代前の天然繊維よりも環境負荷低減に寄与するものもあり、たとえば再生ポリエステル繊維やバイオベース合成繊維なども注目されています。

天然繊維と合成繊維の特性を比較する

比較ポイント1：物性特性

天然繊維は吸湿性、通気性、肌触りが優れる傾向にありますが、耐薬品性や耐光性など化学的安定性では合成繊維に劣ります。

対して合成繊維は強度や寸法安定性、撥水性などが突出し、大量生産や特殊スペックで有利です。

ただし汎用品では静電気の発生や毛玉ができやすいという課題もあります。

比較ポイント2：環境性・サステナビリティ

近年はESG経営やカーボンニュートラルへの関心が高まっています。

天然繊維は生分解性があり環境負荷は小さいですが、農薬や水の大量消費が問題になる場合があります。

合成繊維は石油資源依存やマイクロプラスチック問題が指摘される反面、リサイクルやバイオ化学素材の研究も進んでいます。

企業のサステナビリティ方針や、サプライチェーン全体に対する責任意識が問われる時代です。

比較ポイント3：コストと調達リスク

天然繊維は天候や為替、産地の社会動向（例：リネンの東欧事情など）に強く左右されるため、調達リスクは比較的大きいです。

一方、合成繊維はサプライチェーンがグローバルに分散しており計画的な確保がしやすいものの、世界的な原油需給や地政学的リスクに影響を受けやすい側面に注意が必要です。

最新の業界動向とアナログ現場の実情

DX時代の素材選定

昨今、調達・購買分野においてはDX（デジタルトランスフォーメーション）による素材情報のデジタル管理、AIによる最適選定、省人化の自動見積もりなどが話題となっています。

しかし製造業現場はまだまだアナログ文化が根強く「材料商社との長年の付き合いに頼る」「見本帳や現物見本で感覚的に選ぶ」といった風土も残っています。

このためバイヤーは、最新ツールを駆使しつつも、ベテラン技術者やサプライヤーの経験値と対話しながら、双方のメリットを活かした“ハイブリッド型”素材選定力を鍛える必要があります。

グローバル調達とリスクマネジメント

2020年代はコロナ禍や国際情勢の変化もあり、素材サプライチェーンの安定確保が最大の課題となりました。

天然繊維は一部原産国の天候・地政学リスク、合成繊維もアジア製造拠点の稼働停止や原油価格高騰など、様々なリスクが現実となっています。

現場や調達担当者には「複数ソース化」「国内回帰」「グリーン原材料の導入」などの工夫が求められています。

持続可能なものづくりの潮流

サプライヤーの立場からは「どんな素材が顧客バイヤーに選ばれるのか」を知ることが競争力を左右します。

単なる「安値」「納期」だけでなく、リサイクル原料の提案や、トレーサビリティ（原材料の来歴管理）、環境・社会配慮型の訴求力が今後差を生むポイントとなります。

持続可能なものづくりの実現は、もはや単なる流行ではなくマーケットからの要請となっています。

現場バイヤー・サプライヤー・調達担当が身につけたい素材選定力

１．素材特性に関する基礎知識（科学的データと経験的な数値感覚の両立）
２．最新の動向をキャッチする情報収集力（展示会訪問、材料評価委員会等）
３．現場との対話力（開発・製造・品質管理など部門横断での調整能力）
４．サステナビリティやコンプライアンスへの配慮（利害共有・透明性の確保）
５．実物を見て判断できる五感力と、AI等の分析結果を活用できるITリテラシー

この５つが両輪となることが、昭和から令和、そして次世代へと続く強いサプライチェーンの鍵となります。

まとめ

素材選定で知っておきたい天然繊維と合成繊維の特性比較について、現場目線で実践的に解説しました。

天然繊維は特有の風合いと環境性、合成繊維は機能性や量産性に強みがありますが、どちらも時代の変化に合わせたサステナビリティやリスクマネジメントが求められています。

調達・購買・サプライヤーの皆さんには、情報と感性、伝統と革新をハイブリッドに使いこなし、新たな競争優位を作り出していただきたいと思います。

これからも現場で培った知恵や経験を生かし、持続可能な製造業の発展に貢献していきましょう。