投稿日:2025年12月11日

夜勤帯の不良が解決しない理由が設備の熱安定性にある事例

夜勤帯の不良が解決しない理由が設備の熱安定性にある事例

はじめに:昭和型製造現場が抱える夜勤帯の課題

製造業の現場では、昼夜を問わず製品が作られ続けています。

特に24時間稼働のラインを持つ工場では、シフト制により夜勤帯も日中と同じ品質を保つことが求められます。

しかし、現場では「夜勤になると不良品が急増する」「夜の方がトラブルが多い」という声をよく耳にします。

かつての私も同じ問いに悩まされ、なぜ同じ設備・同じ作業条件下で日中と夜間で品質に差が生まれるのか、何度も現場を行き来して調査した経験があります。

この問題の背景には、単なる「夜勤=人が眠い」「熟練度不足」だけでは説明しきれない、設備の“熱安定性”という見落とされがちな要因が存在するのです。

夜勤帯の不良増加 よくある誤解と本質

多くの現場では夜勤帯の不良品発生について、以下のような仮説が語られます。

– 夜は人員が手薄になり、注意が散漫になるから
– ベテラン作業者が少なく、教育が十分でない
– 夜間特有の気温や湿度変化
– オペレーターの生理的リズム低下

これらはいずれも事実として一定の影響を与えますが、決定的な要因でない場合も多いのです。

同じ現場、同じ人材配置、同じマニュアル・教育水準であっても「昼は不良が出ず、夜だけ増大する」場合、ヒト以外の原因、つまり設備そのものの特性を疑うべきです。

実際、多数の現場で「設備稼働時の熱安定性」が予想以上に影響を及ぼしている事例が存在します。

設備の熱安定性がもたらす見落としがちな罠

生産設備の多くは、運転開始直後から安定運転に至るまでに一定の「立ち上がり時間」が必要です。

このとき最も重要なのが「設備の温度分布がどれだけ安定しているか」という点です。

昼勤帯では、前日の夕方まで連続稼働しているため、機器内部の温度・環境は比較的一定に保たれています。

一方で、夜勤帯は「数時間休止した状態から再稼働する」「昼勤と夜勤のシフト切り替え時に冷却された設備を立ち上げる」ことが多く、その際の温度変化により設備が“理想的な稼働条件”に達しないことが数多くあります。

例えば、プレス機、射出成形機、樹脂加工ライン、溶接ライン、半田付け装置など、「温度」が品質に直結する工程ほど深刻な影響が現れます。

熱が均一にならないまま始業点検を終え、すぐに生産を開始してしまうことで、不良品—たとえばヒケ、バリ、寸法ズレ、溶着不良、強度不良—が多発してしまいます。

部分的な過熱や未加熱、急激な温度の立ち上げ・降下も予期せぬ不良の原因となりえます。

この熱安定性問題は、ヒトの教育やチェックリストでは発見しづらく、現場で長年慢性的な課題として残りやすいのです。

熱安定性の実例:現場で遭遇した失敗と解決への糸口

ここで、私が現場で直面した具体例をご紹介します。

某精密成形工場では、昼勤帯は常に不良率0.1%未満で安定していたのに、夜勤シフト開始から2時間は必ず1%台に跳ね上がる現象が続いていました。

初めは「夜勤のメンバーのスキル?」と疑い、徹底的に教育内容・手順・監督体制を洗い直しましたが改善せず。

製造条件や材料、金型洗浄のローテーションなど通常の管理項目も全てマニュアル通りで、いわゆる“三現主義”で現場・現物・現実をつぶさに確認したところ、「夜間の設備立ち上げ直後は、ヒーター付近の温度計だけが規定値に達しているが、金型全体はまだ均一な温度になっていなかった」という見落としが発覚したのです。

温度監視をヒーターポイントだけでなく、金型内部の複数ポイントでモニタリングした結果、「最低でも30分は空運転(トライショット)が必要」という新しい指針が生まれ、以降の不良率が劇的に低下した、という成功事例があります。

このように、現場の本質問題は“見えない温度ムラ”として長年放置されていることが多く、「夜勤=スキル不足」という先入観が根本原因から目をそらしてしまう弊害を生み出しています。

なぜ昭和的な現場文化では熱安定性の問題が見過ごされやすいのか

昭和から続く製造現場には、「前例踏襲」「職人技に頼る」「設備マニュアルの鵜呑み」「本質より現象対応」といった風土が色濃く残っています。

このような環境では、オペレーターの腕前がすべてをカバーすると錯覚しがちで、設備や工程の理論的な設計意図、その物理的・化学的条件の見直しが後回しにされがちです。

また、管理層や改善活動チームも「マニュアルどおりにはやっています」の一言で調査が終わってしまうことが、組織的なイノベーションの足かせになっています。

熱安定性の課題は、
– 設備メンテナンス記録には現れにくい
-「見えない」「臭わない」「数値として残りにくい」
– 退職間近の熟練工だけが“勘”で対応していた

といった点で、世代交代やデジタル化の波において「取り残される」リスクが高いのです。

サプライヤー・バイヤー目線で考えるべき熱安定性リスク

サプライヤーの技術営業やバイヤーにとっても、この「夜勤帯の不良増加」と「熱安定性」の関係は極めて重大です。

なぜなら、サプライヤーの側で「夜勤帯のみ不良が出るリスク工程」がある場合、その異常が顧客納入後の不良判明(クレーム)として跳ね返ってくるからです。

一方で、バイヤーとしても「サプライヤーの昼勤・夜勤不良率の差」や「設備の温度管理体制」に着目しなければ、思わぬロット不良や歩留まり低下に直面するリスクがあります。

信頼できるサプライヤー選定や、工程監査の際には、ぜひ以下の観点から確認を推奨します。

– 夜勤帯の立上げ時、温度管理をどこまで多点で追っているか
– 計測データのロギング(履歴)とフィードバック体制
– 金型・設備ごとに最適な“安定時間”をマニュアル化しているか
– 現場スタッフへの“なぜ”を追及する風土の有無

また、ESGやカーボンニュートラル推進の観点でも、熱ムラによる不良品発生→再加熱・再処理の連鎖は、省エネやCO2削減への逆行要因となるため、取引先全体での意識共有も重要になってきます。

脱・昭和的! 熱安定性への取り組みとデジタル技術の活用事例

近年はIoT、AI、スマートファクトリーといった最新技術の導入が進む中、設備の熱安定性監視も大きく進化しています。

例えば:

– サーモグラフィーや赤外線カメラによる設備全体の温度マッピング
– 設備ごとにセンサを多点配置し、立ち上げ〜安定運転の各ポイントをリアルタイムで監視
– 不良の傾向データをAIで分析、夜勤帯の立ち上げ条件最適化(ヒートマップ生成など)
– タブレット端末による監視データの即時フィードバック、ライン間連携

こうした仕組みを“まずは一台・一工程から始めてみる”ことが、現場の小さな一歩となり、さらなる改善の種になるでしょう。

重要なのは「夜勤の現場力」だけではなく、「設備に潜む物理的な課題」へ常に目を向ける姿勢、そして“データで現れる真実”を習慣化することです。

まとめ:夜勤の不良撲滅は現場×設備の“見えざる壁”を破らなければ叶わない

夜勤帯に不良が多発するのは、作業者の注意力低下や管理体制の問題だけではなく、多くの現場で見過ごされてきた「設備の熱安定性問題」が根底に潜んでいるケースが珍しくありません。

本稿では、原体験や現場での実例を通じて、設備の“見えない問題”に光を当ててきました。

製造業に携わる皆さん、今一度「夜勤帯の立上げ時に温度分布を定量的に見ていますか?」と自問し、見逃されがちな不良要因に真摯に取り組むことを提案します。

人材育成・工程管理・デジタル化…いずれも「現場で何が起きているか」を深掘りし続けることで、真の品質安定・歩留まり向上が実現されるのです。

変化の激しい新時代に、昭和的“当たり前”や“思い込み”から一歩抜け出し、現場のラテラルシンキングで新たな地平線を切り開いていきましょう。

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