投稿日:2025年6月18日

非接触3次元計測技術とその適用事例および活用のポイント

はじめに:非接触3次元計測技術がもたらす現場革新

製造業の現場では、部品・製品の高精度化が極めて重要になっています。
「ものづくり大国」日本が令和の時代にも世界と戦い続けるためには、より確実な品質保証・工程管理、そして生産リードタイム短縮が不可欠です。
そんな中で非接触型の3次元計測技術は、単なる“便利な測定ツール”にとどまりません。
まさに現場の在り方を根本から変革し、次代のものづくりをリードする存在です。
本記事では現場の実務経験者だからこそ伝えられる視点で、非接触3次元計測技術の要点と最新動向、リアルな適用事例や導入のポイントについて徹底解説します。

そもそも非接触3次元計測技術とは?

従来の接触式測定との違い

ファクトリーオートメーションが進展する以前、計測と言えば「ノギス」「マイクロメータ」「三次元測定機(CMM)」など、物体そのものに接触して寸法を測定する方法が主流でした。
これら従来技術は確かに高精度ですが、冶具調整や設置に手間がかかり、曲面や複雑形状には対応が難しいのが現実です。
また接触圧による製品への負荷、そして作業者の熟練度依存といった課題も多くありました。

非接触3次元計測技術は、こうした問題を根本から解決します。
代表的な方式としては、レーザー測定、光学式(ストラクチャードライトやホワイトライト)、X線CTスキャナがあります。
物体表面に触れずに短時間で“面”全体の3次元形状を捉えられるのが最大の特徴です。

非接触3次元計測の種類と特徴

主要な方式を整理しましょう。

  • レーザースキャン方式:レーザー光を走査投影し、反射光から表面形状を3次元データ化。比較的高速で大型品にも対応可能。
  • ストラクチャードライト方式:一定パターンの光を投影し、歪み方から立体形状を取得。微細形状・高精度品に強み。
  • X線CTスキャナ方式:X線透過画像から内部構造まで3D化。樹脂・複合材などでも内部欠陥を検出できる。

これら以外にも、フォトグラメトリ(写真計測)など新たな技術も登場しており、製造業現場の課題や対象製品ごとに適した手法を選定することが求められています。

非接触3次元計測技術の適用事例

事例1:自動車部品製造での全数検査

自動車メーカーや自動車部品サプライヤーでは、曲面や複雑な立体形状部品の全数検査要請が年々増加しています。
たとえば樹脂成形バンパーやメーターパネル、エンジンのアルミ鋳造部品など、従来のゲージでは計測不可能だった形状も、非接触3次元計測装置で一括データ化可能です。
金型リバースエンジニアリング、試作部品の品質評価、ライン直結の自動計測など、現場の多様なニーズに応えています。

事例2:航空機産業での大型複合材検査

航空機業界では、炭素繊維強化樹脂(CFRP)など新素材の活用が進む一方、航空法による厳密な全数品質保証が求められています。
ここでもX線CTスキャナや大判ストラクチャードライトセンサが威力を発揮しています。
従来なら分解・破壊検査しなければわからなかった複合材料の内部剥離や気泡、
最終組立後のリブや接合部の歪みなどを、非破壊で高精度に把握できるためです。

事例3:生産ライン内(インライン)自動検査

生産性と品質を同時に高次元で両立したい場合、非接触式3Dスキャナとロボットを組み合わせてインライン検査システムを構築できます。
たとえば電子部品実装基板の高さばらつきや、エンジン組立ラインでのガスケット装着有無など、人手では難しい全数自動検査をリアルタイムで可能にします。
これにより「作りながら検査」を実現し、不良流出の予防や省力化に大きく貢献している現場も多いのです。

非接触3次元計測技術が製造業現場にもたらす意義

デジタルツインの構築と生産革新

三次元計測で得られる膨大な点群データ・メッシュデータは、CADやPLM、生産管理システムとの連携を強力に推進します。
リアルな生産現場の“今”をそっくりデジタル空間に再現――これこそが「デジタルツイン」の考え方です。
不良発生の傾向抽出、組付け・装置の異常診断、リバースエンジニアリングやリードタイム見積り精度の向上など、多種多様な用途が現場に芽生えています。

ノウハウの標準化・技能継承

長年、計測や測定は職人技がものを言う分野でした。
しかし3次元計測技術は、曖昧な「勘と経験」をデータ化し、誰でも「同じ品質で」「同じ結果」を得られる環境づくりに寄与します。
標準化できることで品質維持・技能継承の補助手段となり、昭和のアナログ現場から“デジタル現場”への脱皮を進める強力な武器になります。

導入・活用のポイント

導入フェーズで押さえるべき要素

非接触3次元計測技術は万能ではありません。
導入成功のカギは“適材適所”に尽きます。
例えば大型品・高速検査にはレーザースキャナ、小型精密部品にはホワイトライト、内部観察にはX線CT…。
計測目的や求める精度・解析範囲を明確にし、トータルコストや既存設備との親和性にも十分留意しましょう。

加えて、計測専任者や品質管理担当だけでなく、現場の作業者・生産管理・設計など関係各部門を巻き込んだ要件検討が重要です。
データの受け皿となるIT環境整備や教育プログラムも不可欠です。

データ活用における注意点

非接触3次元計測で得られる情報は膨大なビッグデータです。
有効活用には次の点に注意しましょう。

  • セグメントごと(バイヤー・サプライヤー双方)の管理基準統一
  • 顧客要件と自社の検査仕様の齟齬防止
  • データ保存・セキュリティ体制の構築
  • CADデータとの乖離発生時のフィードバック体制

昭和的な「紙図面」「口頭伝承」だけに頼らず、現場―設計―工程をつなぐ情報基盤をどう築くか。これはデジタル時代のものづくりを占う最重要テーマです。

バイヤー・サプライヤー双方が知っておきたいこと

バイヤー視点:測定要求の明確化とその伝達

非接触3次元計測技術の普及で、「どこまで測るか」「どこまで管理するか」がサプライヤー任せでは済まなくなっています。
特にIATF16949やISOなど国際規格準拠の部品は、測定箇所・精度・データ提出フォーマットまで細やかさが問われます。
工程内での測定頻度やサンプル数、測定データの活用方法(トレーサビリティ、成形条件のフィードバック等)もきちんと伝達しなければ、サプライヤー側との齟齬が生じかねません。

サプライヤー視点:データドリブンへの対応と付加価値強化

発注側からの計測仕様やデータ提出要求が厳しくなる一方で、サプライヤーは「計測データをどう事業価値に昇華させるか」という攻めの姿勢が重要です。
例えば、測定から得たビッグデータを独自解析し、成形金型の設計改善、工程変更のフィードバック、新たな付加価値提案など、一歩進んだサービス提供が可能です。
「測って渡すだけ」から「測ることで改善し、競争力を強化する」パートナー型サプライヤーに進化することが今後の差別化ポイントです。

まとめ:非接触3次元計測技術が開く新時代

非接触3次元計測技術は、工場現場の“肌感”と最先端デジタル技術が融合したソリューションです。
導入すれば即時バラ色の未来が約束されるわけではありませんが、現場力×データドリブン——これが昭和のものづくりから脱却し、サプライチェーン全体で勝ち残るカギです。

バイヤーもサプライヤーも「何のために測るのか」「測ることで何が変わるのか」を今一度深く自問し、部門横断の取り組みで現場変革に取り組んでみてはいかがでしょうか。
非接触3次元計測技術は、その答えをきっと導き出してくれるはずです。

You cannot copy content of this page