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糸のカール発生を防ぐ延伸比・冷却風速・巻取り張力の最適化

目次
はじめに:伸子からみる糸のカール問題
製造現場で日々直面する課題のひとつに「糸のカール発生」があります。
カールは生産効率の低下や品質トラブルの原因となり、最終製品にも影響を及ぼします。
このカール問題は、延伸比、冷却風速、巻取り張力など、複数の工程パラメータに根強く関係しています。
昭和のアナログ的手法が色濃く残る業界では「勘」と「経験」に頼りがちですが、現代は数字に基づいた最適化と現場知見の融合が求められています。
本記事では、現場の実践に裏打ちされたノウハウをもとに、糸のカール発生に関わる主要因とそのコントロール方法を詳しく解説します。
また、購買やバイヤー視点から“なぜこの工程を拘るのか”といった背景知識も盛り込み、ひとつ上の現場力養成を目指します。
糸のカールとは何か?:発生メカニズムを知る
カール(curl)は、繊維糸が自然に巻き癖を帯びる現象です。
主に合成繊維やフィラメント糸で顕著にみられ、織布、編立てやその後の加工工程で問題となります。
では、なぜカールが生じるのでしょうか。
その主要メカニズムは「分子配向のアンバランス」と「繊維内部の応力」にあります。
糸を生産する過程で加えられる力、温度、冷却条件の影響により、繊維内のポリマー鎖が一様に配列されず、一部に応力が残存します。
これが糸の変形や縮みを引き起こし、カールとして現れるのです。
カール発生に影響する工程パラメータ
1. 延伸比の重要性
延伸比とは、原糸から最終糸まで“どれだけ引き伸ばすか”を示す指標です。
延伸によって分子鎖が配列され、力学特性や耐熱性が向上します。
一方、最適延伸比を超えると分子鎖が過剰に整列し、内応力が著しくなります。
これがカール発生の主要因の一つです。
緩すぎる延伸では配列が不十分となり機械的強度が低下、強すぎると反発的な力がカールを生む。
この絶妙なバランスを現場で見極めることが求められます。
2. 冷却風速の最適化
延伸直後の繊維は高温・高エネルギー状態です。
この時、どのタイミングで、どの速度で冷却するかが分子配向の安定に大きく関わります。
冷却が不十分(風速が遅い/弱い)だと、分子は固定されずランダムな配列となり、カールしやすくなります。
逆に急激な冷却も応力を糸内部に封じこめる可能性があります。
経験的には“糸表面温度が最適化された冷却ゾーンを経過する”ことがカギとなります。
最新ラインでは風速センサーや温度プロファイルによる管理手法も活用されていますが、未だに多くの現場では五感+過去データの合わせ技が主流です。
3. 巻取り張力のコントロール
糸の仕上げ工程として、最終的にボビンやスプールへ巻き取る際の張力も、カール発生を左右します。
張力が緩いと、糸が自由な状態になり残留応力が不均一に働きます。
張力が強過ぎれば、延伸時に発生した応力が更に積み重なり内部に蓄積、カールの原因になります。
巻取り張力には原理上「素材に合致したレンジ」があり、その許容内でこまめな調整が功を奏します。
ここも温度・湿度・糸の種類など多くの現場変動要素が絡みますので、日々のラインチェックが不可欠です。
現場目線でのパラメータ最適化プロセス
定量データに“人の目”を融合する
近年、IoTや画像処理技術の普及で工程データが豊富に取れるようになりました。
しかし、繊維やフィラメント糸の表面にはミクロな凹凸や質感、わずかな色調変化など、人の目でしか判別できない要素も残ります。
昭和のベテランが「触って、見て、違いを読む」文化は、今も現場レベルで大切にされています。
延伸比、冷却風速、張力に加え、“今の原料ロットにこの設定がマッチしているか?”という感覚値も侮れません。
PDCAの積み上げとテストピースの活用
最適条件の見出しには、工程ごとに要素を分けてPDCA(計画・実行・確認・改善)を繰り返すことが求められます。
例えば、
– 延伸比の設定を段階的に小刻みに変えてみる
– 巻取り速度を5m/min単位で微調整
– 冷却風速のセッティング例との比較
といったアプローチが考えられます。
また「試験用ピース(テストピース)」を生産し、染色や編立てまでの挙動を見る方法も有効です。
これにより“その時の最適値”を迅速に現場へ展開できます。
バイヤー・サプライヤー視点での最適化の意義
バイヤーが重視する工程安定性
製品購買担当者は、単なる“スペック達成”ではなく、いかに継続的に「安定した品質」を供給できるかを見ています。
糸のカール問題は出荷段階では顕在化しないこともしばしばですが、その後の用途(織り・染色・縫製)で大きくトラブルになり得ます。
バイヤーは「どの条件で製造したか」「どんなノウハウでカール低減に取り組んでいるか」を明文化してもらうことで、サプライチェーン全体の品質保証につなげたいと考えています。
サプライヤーが持つ現場力の武器化
糸のカール低減は一朝一夕で身につくものではありません。
長年のトライ&エラーから得た“暗黙知”こそがサプライヤーの強みです。
これをしっかりと言語化・可視化し、バイヤーへ積極的に開示することで独自価値となります。
具体的には
– 過去のトラブル事例と対策
– 各工程ごとの安定領域の設定値
– 利用者からのフィードバックへの迅速な応答体制
といった情報発信が、他社との差別化・信頼構築につながります。
工程自動化とアナログノウハウの融合
多くの工場で自動化投資が進む中、「画一的な設定」で全ての課題が解決するとは限りません。
特に繊維加工のように“天然素材〜人工物まで変動要素が多い”業界では、最後は現場の判断がモノを言います。
AIや画像検査装置から得られる情報を材料にしつつ、異常値や不良発生時のファーストアクションは現場経験が欠かせません。
また、他工程(例:原材料の湿度変化、ライン停止後の再スタート時挙動、季節変動による室温変化)を意識した横断的なパラメータ調整もポイントです。
これができる現場力を“標準化”し、作業手順書や仕組みとして次世代へつなげることが、日本ものづくりの持続的成長につながります。
まとめ:これからのカール対策のあり方
糸のカール発生は「延伸比」「冷却風速」「巻取り張力」という三つの主要パラメータに強く依存しています。
一方で、それぞれの条件最適化は単なる数字合わせにとどまらず、現場知見や経験に裏打ちされたノウハウの積み重ねが不可欠です。
バイヤーや購買側も、その背景にある現場努力やリスク低減プロセスを理解することで、より建設的なパートナーシップを構築することができます。
サプライヤーも自社の暗黙知を積極的に可視化し、強みに変えていくことが求められます。
これからの製造現場では「デジタル+アナログ」「現場+管理」「サプライヤー+バイヤー」といった掛け算で、新たな地平線のものづくりを共に切り開くことが肝要です。
糸のカール発生対策という一点に絞っても、その積み重ねが日本の工場現場をより強く、グローバル競争に負けない現場力へ導くカギとなるでしょう。
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