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部品寿命をMTBFで見直しオーバースペック寿命の無駄を外す企画手法

目次
はじめに:MTBFが変える製造業の企画・調達戦略
製造業では、部品選定の際に「とりあえず長寿命・高性能」というアプローチがいまだに根強く残っています。
特に昭和から続く現場や中小のサプライヤー企業では、難しい計算や新しい管理手法よりも「とにかくいいものを」という文化が色濃く、オーバースペックな部品を採用してしまいがちです。
しかし、このやり方には大きな無駄が潜んでいます。
本来必要な性能以上のスペックの部品を使うことは、コスト増、過剰在庫、場合によっては供給リスクの増大など、数多くの問題を引き起こします。
こうした現状を打破するために近年注目されているのが「MTBF(Mean Time Between Failure:平均故障間隔)」という指標に基づく部品寿命の見直しです。
本記事では、20年以上の現場経験と管理職の視点から、MTBFを用いた部品寿命の最適化手法、オーバースペック排除のポイント、そして成果を生み出す具体的な進め方について、徹底的に解説します。
MTBFの基礎知識と製造現場での重要性
MTBFとは何か?
MTBF(平均故障間隔)は、対象となる部品や機器がどれくらいの期間、トラブルなく稼働するかを示す指標です。
例えばMTBFが10,000時間の部品であれば、理論上10,000時間の稼働ごとに一度故障が発生する計算です。
この数値は、製品や装置全体の計画メンテナンスや交換タイミングの設計、部品の調達サイクルを決める基本要素になります。
近年、予防保全やIoTによる稼働監視が普及してきたことにより、MTBFの役割はますます重要になっています。
現場が無視しがちな「必要十分」な寿命設計
現場経験者なら思い当たるでしょうが、「長持ちすれば安心」という価値観は根強いものです。
しかし、それが本当に現場や顧客価値につながっているかというと、必ずしもそうではありません。
装置や製品の使用期間が5年なのに、部品の寿命に20年を求める調達要求は現場あるあるです。
その背景には、設計段階の「安全率志向」や、過去のトラブル経験からくる保守的な心理が影響しています。
ここで重要なのが「必要十分」な寿命設計。
つまり、製品ライフサイクルや実際の運転条件に見合った部品寿命を見極め、適正化することなのです。
昭和的オーバースペック文化の本質的な無駄
安易な長寿命・高スペック主義が生む弊害
1. コスト増
長寿命・高性能の部品は当然ながら価格が高くなります。
装置全体のコスト競争力を下げ、利益を圧迫します。
2. 供給リードタイムの長期化
特殊なスペックの部品は入手困難となりやすく、量産立ち上げ時やトラブル対応時に致命的な遅延を生じさせます。
3. 在庫過多・キャッシュフロー悪化
耐用年数に見合わない高寿命部品を在庫し続けることで、無駄な在庫費用・保管スペースが発生します。
4. 改善・イノベーションの阻害
「いい部品さえ使えば安心」思考は、新しい調達・設計のアプローチを妨げ、現場の改善速度を鈍化させます。
なぜオーバースペックが定着するのか?
– 現場に「故障=自分の責任」というプレッシャーが強くかかる
– 過去トラブルの根絶を求められ、非常に保守的な判断が選ばれやすい
– サプライヤーにスペックの根拠を追及せず、現状維持志向で部品選定が進む
– 評価指標が「不具合ゼロ」「保守実績重視」に偏り、本来の最適化を意識しにくい
まさに「昭和イズム」ですが、これを打破するには理論的な根拠と上層部・現場の納得感が不可欠です。
MTBFを軸にした部品寿命最適化の進め方
STEP1:装置・製品寿命を明確化する
まずは対象となる装置や製品そのものの期待耐用年数を明確に整理します。
例えば、「10年稼働し続けるライン」「5年でモデルチェンジする機械」など、装置のライフサイクル設計が出発点です。
顧客への保証期間や実際の運転負荷(1日何時間、年間稼働日数)も正確に把握しましょう。
STEP2:現状使用部品のMTBFリストアップ
次に、現状の採用品リストから各部品のMTBFを調査し一覧化します。
サプライヤーからの仕様書、各社カタログ数値、独自評価実績等を可視化して記録しましょう。
難しい場合はサプライヤー担当者からヒアリングも効果的です。
STEP3:「十分条件」を満たすMTBFを逆算する
装置全体のライフサイクルから、最低限必要なMTBF値を逆算します。
例えば、装置寿命10年×365日×8時間=29,200時間。
「交換なしに10年間トラブルなし」が要件なら、MTBFが3~5万時間の部品で十分です。
定期メンテナンスで交換許容ならさらに短くできます。
これにより「過剰に高価な長寿命部品が本当に必要か?」を可視化できます。
STEP4:オーバースペック部品の見直し・置換え企画
一覧化したMTBFと必要十分条件を照合し、明らかにオーバースペックとなっている部品をピックアップします。
これらに対し、下位グレード部品や、リードタイム短縮・コストダウン可能な選択肢への切り替えを提案しましょう。
サプライヤーに適合品提案を依頼し、テスト評価や現場導入検証まで含めて進めるのがポイントです。
STEP5:合意形成と実践・メンテナンス計画の策定
従来からの長寿命信仰に一石を投じるわけですから、現場や上層部との合意形成が重要です。
影響調査とリスク分析を事前に行い、実際の効果(コスト削減・調達改善・保守効率化)をシミュレーションし、社内説明資料や会議資料も準備しましょう。
あわせて「部品寿命に合ったメンテナンス頻度・方法」や「一斉交換タイミング」まで緻密に検討することで、現場の納得感を高めることができます。
バイヤー・サプライヤー視点でのMTBF活用術
バイヤーが目指すべき「攻めの寿命設計」とは
バイヤーは単なる調達価格だけでなく、部品寿命と交換タイミング、安定供給のバランスを取る戦略設計者としての役割が求められます。
サプライヤーの提案を鵜呑みにせず、「なぜそのMTBFが必要か」「装置の全体最適はどこにあるか」を常に考え、企画段階から設計・品質・生産管理と連携した仕様決定を意識しましょう。
寿命データの裏付けと、交換時期シナリオ設計の提案力がバイヤーの市場価値を決めます。
サプライヤーから見る「バイヤーの期待」とは
サプライヤーが最も気になることは「バイヤーはなぜそこまで高スペックを求めるのか」「適正寿命で満足してくれるのか」という根本的ニーズです。
バイヤー側からMTBFや使用条件を明確に伝え、装置全体としてどんな役割を担うかを共有することで、無駄な高スペック提案から実効性重視の適正寿命提案へと転換できます。
これにより、コストメリットを出しつつ、供給安定・技術革新にもつながる関係性を構築できます。
実践事例:MTBF見直しが生んだ効果
ケーススタディ1:ライン制御用リレーのグレードダウン
某自動車部品工場では、制御盤内のリレー交換頻度を過度に恐れるあまり、MTBF10万時間超のリレーを導入し続けていました。
装置寿命自体は8年(約2.5万時間)にすぎません。
MTBF計算の見直しと実稼働データの比較で、2.5万時間対応の汎用品への切り替えを決断。
調達コストを約60%削減、納期も短縮し、定期メンテナンスで無理なく対応できる体制を構築できました。
ケーススタディ2:搬送ライン用ベアリングの適正寿命化
搬送設備のベアリングに20万時間対応の高額品を使用。
作業環境・潤滑管理の実態から、現実寿命は8万時間前後で充分であることがMTBF評価で判明。
新規サプライヤーの標準品にローテーション交換計画を加え、トータル管理費を30%以上削減できた事例です。
まとめ:MTBF指標で未来志向の部品選定へ
部品寿命の最適化は、単なるコストダウンにとどまるものではありません。
MTBFという科学的な指標を活用することで、「感覚」や「前例踏襲」ではなく、本当に必要な機能・寿命・供給安定を実現する合理的なサプライチェーン構築が可能になります。
昭和的な「いいもの神話」から脱却し、バイヤーもサプライヤーも建設的な対話を進めていくことで、製造業の競争力は一段と高まるはずです。
自社の標準や設計思想を見直す絶好のタイミングとして、ぜひ「MTBFで寿命再設計」を実践してみてください。
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