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サービス業が初めて量産に挑戦する際の発注タイミングと品質保証の考え方

目次
はじめに
サービス業の企業が自社ブランドや新規事業として「モノづくり」の分野に参入し、量産を検討するケースが近年増えています。
IoT機器やオリジナルグッズなど、自分たちのサービス価値を拡張するために製品化へ挑戦する決断は、大きな成長につながる一方、思わぬ落とし穴も多い領域です。
本記事では、サービス業が初めて量産品の発注や品質保証を考える際、どのようなポイントやタイミングに注意すべきか、長年製造業の現場で培った経験から、現場目線かつ実践的なアドバイスをお伝えします。
サービス業と製造業の違いを理解する
業務フローと意思決定サイクルの違い
サービス業では顧客からのフィードバックや状況に応じ、柔軟にサービス内容を改善したり人員配置を調整することが日常的です。
しかし、製品の量産は「工程の棚卸し」と「仕組み作り」が肝となり、計画から実行までに長いリードタイムを要します。
一度動き出したら簡単にやり直せない点が、最大の違いです。
コスト構造の違い
サービス業は変動費の占める割合が高く、繁忙や閑散に応じてコストコントロールがしやすい一方、製造業は「段取り替え」や「発注ロット」「諸経費」といった固定的コストが大きく、発注タイミングを誤ると想定以上のコストオーバーが起こりやすい構造です。
この違いを理解して進めることが大前提となります。
量産発注の最適なタイミング
なぜ「量産開始=製品完成」ではないのか
初めて量産に挑戦する方の多くが勘違いしやすいのですが、「量産開始」の時点で仕様が完全に固まり、完成品が手に入るという幻想があります。
実際は、設計や試作段階で発見できなかった不具合や、現場での思わぬつまづきが次々と現れます。
現場では「試作1号〜2号」「プリプロダクション品(量産直前の試作)」「初期流動品(初期ロット生産品)」など、段階ごとに品質の安定度が異なるという現実を理解しましょう。
発注すべきタイミングの見極め方
量産発注の適切なタイミングは以下の3ステップで判断します。
- 「量産設計(量産用図面)」が完全にFIXしているか。
- 設計意図通りの試作品で、全ての機能・品質項目を満たしているか。
- 量産用の製造ライン全体で、狙いの生産性・コスト・品質が達成できるかテストしたか(いわゆるPP=プレプロダクション評価)。
初めての場合、焦って発注を急げば急ぐほど、後戻りできないミスが一気に拡大します。
「試作⇒小ロットテスト⇒初期流動」などの段階をきちんと経てから量産発注へ移ることが、成功の近道です。
ロットサイズの設定と最小発注単位の罠
発注数が多くなれば1個あたりのコストが下がるため、つい一括で大量に発注したくなります。
しかし、設計や評価段階で残った「小さな不安」を抱えて発注すると、全ロットで同じ不良が量産され、多額の在庫廃棄や市場回収というリスクへ直結します。
「最小ロット分をまず試す」「初期流動品は用途やユーザーを限定して展開しフィードバックを得る」などの段取りが、想定外の損失予防に重要です。
品質保証の考え方と具体的なポイント
サービス業の標準と製造現場の「保証」の違い
サービスの世界では、万一のミスも「現場対応力」や「柔軟さ」でリカバリーしやすいですが、製造現場では「不具合の一斉拡大」が命取りとなります。
不良品は市場や顧客の信頼を一瞬で失い、ブランドの毀損・回収コスト・再発防止対応の三重苦に繋がります。
「結果責任」だけでなく「未然防止(仕組み)」こそが製造業の品質保証の要です。
「管理すべき品質」とは何かを定義する
初めてモノづくりに挑戦するサービス業の方がまず戸惑うのは「品質とは何を示すのか?」という問いです。
重要なのは「顧客の使い方」を想定した中で、どんな性能・耐久性・意匠・安全性などを担保しなければならないか、明確に言語化し、全サプライヤーと共通認識を持つことです。
チェックシート一つ、検査手順一つ取っても「なぜ必要か?なぜこの範囲なのか?」を現場目線で説明できるよう準備しておくべきです。
品質保証体制を仕組みで作る
現場でよくある失敗が、「最後に人が良く見て合格判定すれば大丈夫」というアナログ思考です。
これでは目視もれや作業者の主観でばらつきが出るのは当たり前ですし、「どこで・どうミスを封じ込めるか」の仕組みが作れません。
製造現場では「工程内保証」と言い、各作業で間違いを入り込ませない工夫(ポカヨケ、治具、トレーサビリティ設計)が求められます。
「完成検査を強化する」ではなく「ミスが起きない工程設計」にコストを投入しましょう。
アナログな業界文化と現実的な向き合い方
昭和の現場感覚も侮れない
長年ものづくり現場にいると、「なぜそんな面倒くさい手順を守るのか?」と思う場面もしばしばあります。
例えば「必ず二人で確認する」「帳票をダブルチェック」など、昭和的なアナログ文化ですが、実はヒューマンエラーが大惨事を招く現場経験の積み重ねです。
デジタル化や効率化が進んでも、現実の現場作業やリスク回避手法はアナログの叡智が根底にあることを理解しましょう。
新規参入時は、まず「なぜこうしているのか」をきちんと聞き、闇雲に変えるのではなく良い部分は素直に取り入れる謙虚さも肝要です。
自動化・DX化と現場の知見の融合
昨今はAI検査やIoTモニタリングなどが急速に普及していますが、全てを「機械任せ」にしたとたん、いざという時の対応力や真因分析能力が育ちません。
アナログ的な現場目線と最新技術の併用で、バランスを取りながら現場品質を保つ視点が大切です。
バイヤー・サプライヤーから見る交渉と協力の本質
「条件交渉」ではなく「要件共有」が肝心
価格・納期交渉に注目しがちですが、初めて量産を依頼する立場なら、「なぜこの品質が必要か」「なぜこの管理方法が必須か」をサプライヤーと率直に共有し、要件をすり合わせることが重要です。
サプライヤー側も「なぜそこまで要求されるのか」を現場目線で噛み砕き、納得できるまでコミュニケーションを重ねる。
発注側も「現場で何が難しいのか」「どんなリスクが想定されるか」を尋ね、現場知見を十分に引き出しましょう。
「不適合品が出た時の対応力」がパートナーの真価
初めての量産は必ずどこかにトラブルが出ます。
発注者とサプライヤーの間で「想定外の事態」の対応力こそがビジネス関係の核心です。
「責任の押し付け合い」ではなく、「誰が・どこまでやるのか」を事前に線引きし、起きた時に速やかに一次対応・原因究明・再発防止策までセットで動けるような信頼関係と仕組みを育てましょう。
まとめ
サービス業が初めて量産品の発注や品質保証に取り組む際は、サービスの常識だけで進めず、製造現場の段取りや考え方をしっかり理解することが重要です。
量産発注は「準備9割」であり、一つ一つの工程や試作・テスト段階を着実に踏み、現場と本音でコミュニケーションすることで、“失敗しないモノづくり”の地盤を築くことができます。
昭和的なアナログ知見もデジタル化の波も、使い分けと融合で大きな力になります。
サービス業ならではの顧客志向と、製造業の緻密な品質管理の両立から、ぜひ新たな成功事例を生み出してください。
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