- お役立ち記事
- CAE解析の過信が現物試験との乖離を生む深刻なズレ
CAE解析の過信が現物試験との乖離を生む深刻なズレ

目次
はじめに:CAE解析と現場のギャップが生むもの
製造業における設計開発の現場では、CAE(Computer Aided Engineering)解析の重要性が急速に高まっています。
設計段階での効率化、コスト低減、開発スピードの向上など、CAE解析がもたらす恩恵は計り知れません。
しかし、その一方で「CAE解析の結果=現実の性能」と盲信することによって、実際の現物試験で思わぬ問題や不適合が生じるケースが多発しています。
この”解析と現物の乖離”は、現場にとって深刻なコスト増加や納期遅延、そしてバイヤーやサプライヤー間の信頼問題に直結します。
本記事では、20年以上の現場経験に基づいた視点で、この乖離がなぜ生じるのか、なぜ「昭和的アナログ力」もいまだ現場で強く必要とされているのかについて掘り下げます。
さらに、調達購買やサプライヤーの方が知っておくべきバイヤーの視点、ズレが生む具体的なリスク、そして打開策まで、実務に役立つ内容をお伝えします。
CAE解析はなぜ万能ではないのか
理想化と現場との差異
CAE解析の本質は、物理現象や構造解析をコンピュータ上で「数値モデル」として仮想再現することです。
このモデルには数々の前提条件や仮定が含まれています。
材料物性値、荷重条件、拘束条件、メッシュサイズ…。
これらは設計者や解析者が設定し、その信頼性や妥当性は“人”の知識と経験によって左右されます。
たとえば、実際の材料のばらつきや加工時の寸法公差、温度や湿度変化による影響、ユーザーが現場でどんな使い方をするか――これらの全てを完全にモデルに反映することは理論上はほぼ不可能です。
また、CAEは現実の摩耗、経年変化、微小なクラックの発生など、仮想空間では表現しづらい「現場独自の現象」を見落としがちです。
解析者と現場技術者のコミュニケーション不足
多くの組織では、CAE解析は設計部門や高度な専門性を持った技術者が担当します。
一方で、現物試験や量産工程、設備管理を担うのは、現場スタッフや中間管理層です。
この二者間のコミュニケーションが希薄だと、CAE解析の”前提”と”現実”のギャップはさらに広がります。
よくあるのは、設計者が「CAEでは十分強度が出ているから大丈夫」と結論づけ、それをうのみにした現場が現物試験で予想外の破損を経験するケースです。
現場側がリアルな「あるある」を伝える機会がない、または軽視される、そんな組織構造が背景にあります。
昭和時代の職人感覚――”現場の勘どころ”が超デジタル化時代でも「再評価され始めている」理由がここにあります。
現物試験との乖離が引き起こすリスク
量産トラブルとコスト増
CAE解析のみを過信し、現物試験との付き合わせを怠ると、量産後のトラブル発生率が跳ね上がります。
モジュールや部品の形状不具合、組付け精度不足、予想外の早期破損など、FMEA分析にも乗り切らない“想定外”のトラブルが頻発します。
この際のリカバリーコストは想像以上です。
設計の手戻り、追加の金型改修、納期遅延による顧客信頼の喪失、「調達部門」への火の粉、さらには不良品発生時の現地対応コストまで波及します。
バイヤーとサプライヤーの信頼問題
CAE解析だけを根拠に「このスペックで問題ありません」と言い切るサプライヤーが、現物納入後に不適合を出すと、バイヤー(調達企業/完成車メーカー/セットメーカー等)は一気に信頼を失います。
購買部門は取引先評価を下げ、次回取引選定時に大きなマイナス材料として記録されます。
一方、バイヤーもCAE解析だけに依存し「現物確認をすっ飛ばす」と、自社生産ラインで予期せぬ混乱に巻き込まれます。
これにより経営戦略・企画部門との信頼関係まで損なわれかねません。
現場力の喪失と技術伝承の断絶
昨今の人材難で、現場スタッフや熟練工の退職が相次ぎ、現物の「勘所」を語れる人材の減少が危惧されています。
CAE解析が一層台頭することで、“現物を見て・触って・直に感じる”というアナログな知見が蔑ろにされがちです。
その結果、現場力という製造業の根幹が空洞化し、“解析バカ”が意思決定の現場を支配する危険性が高まっています。
乖離を埋める具体的アプローチ
1. 検証サイクルの確立:解析→試験→フィードバック
CAE解析は「万能な魔法」でなく、あくまで現物試験・現場検証と表裏一体で運用されるべきです。
まずは、解析のシナリオ策定時点で「どの現象をどこまでモデル化できるか」を冷静に棚卸し、「再現できない/しきれない現象」を洗い出しましょう。
そして、設計評価段階で小規模でも良いので必ず現物試験を織り込み、その結果を解析モデルへフィードバックする。
このサイクルを、初期検討の時点から当たり前のように組み込むことが最重要です。
2. アナログ的現場観察力の再評価
現場には「図面やスペックに現れない現象」が数多く眠っています。
例えばボルトの一発止めで締め付けトルクが逃げやすい部位、溶接部のピット入りの微細なバラツキ、わずかな加工誤差から生じる“組み立てやすさ”など、CAE解析では捉えきれないリアルな不具合は、現場の作業者が一番早く気付きます。
表示上の“合格”よりも“違和感”をキャッチするアンテナが、事故を未然に防いでいます。
この「現場観察力」を組織で可視化・記録し、設計・解析チームにも積極的に情報共有しましょう。
3. サプライヤー—バイヤー間の現場参加型レビュー
バイヤーとサプライヤーの双方にとって有益なのは、現物試作段階での「現場参加型レビュー会議」です。
これにより“設計—解析—現物”の三者相互フィードバックが実現します。
単なる数字や根拠だけでなく、「なぜうまくいかなかったのか」を現場で突き合わせることがカギとなります。
この取り組みはトヨタ自動車など大手自動車メーカーだけでなく、中堅製造業の間でも徐々に広がっています。
数千円〜数万円程度の現物試作費用を惜しまないことで、量産トラブルや取引停止リスクを大きく減らすことができます。
これからの時代に求められるバイヤー・サプライヤーのスタンス
バイヤーが心得るべき視点
バイヤーに求められるのは、CAE解析データだけを鵜呑みにせず、必ず「現物・現場」での実証性を両睨みできる目利き力です。
コスト重視も重要ですが、「現物を見て納得できるまで詰める」姿勢が、長期的視点での品質・信頼を守ります。
また、サプライヤーとオープンに現物試験のフィードバックを共有できる関係作りが大切です。
サプライヤーが身につけるべき態度
サプライヤーは、「CAE解析で合格」と「現物で合格」はイコールではない現実を肝に銘じるべきです。
自社での現物試験をサボらず、得られた改善知見を積極的に開示提案できれば、バイヤーからの信頼は格段にアップします。
逆に、解析だけを掲げて「大丈夫です!」と突っぱねる姿勢は、現場力が疑われ長期取引に大きなダメージとなります。
若手技術者・バイヤー志望者へ
今、設計現場や購買の若手人材には「デジタル解析とアナログ現物の両刀遣い」こそが最強の武器となります。
CAE解析を使いこなしながら、現場で手を動かし、「実際はどうなっているのか」を自ら観察・検証する習慣を忘れずに持ちましょう。
これが将来への大きな財産となります。
まとめ:現実を見る力を組織の武器に
CAE解析は製造業の未来を拓く強力なツールですが、それだけに頼るのは大きなリスクでもあります。
現場の実証、現場作業者の知見、現物の“違和感”をきちんと可視化できる組織こそが、変化の激しい時代に生き残る条件です。
バイヤー、サプライヤー、設計者…立場を超え、アナログとデジタルを融合させる「ラテラル思考」の実践が今こそ重要です。
昭和から令和へ、現場を知る人間の目とCAE解析のデータ、この両輪で製造業の真の競争力を作り上げましょう。
ノウハウ集ダウンロード
製造業の課題解決に役立つ、充実した資料集を今すぐダウンロード!
実用的なガイドや、製造業に特化した最新のノウハウを豊富にご用意しています。
あなたのビジネスを次のステージへ引き上げるための情報がここにあります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが重要だと分かっていても、
「何から手を付けるべきか分からない」「現場で止まってしまう」
そんな声を多く伺います。
貴社の調達・受発注・原価構造を整理し、
どこに改善余地があるのか、どこから着手すべきかを
一緒に整理するご相談を承っています。
まずは現状のお悩みをお聞かせください。