投稿日:2025年10月31日

技術力を製品価値に変えるためのパッケージデザインとネーミング戦略

はじめに:技術力だけでは勝てない時代の到来

ものづくり大国と言われる日本では、「良い製品を作れば売れる」という信念が長く根付いてきました。

確かに、高い技術力は日本の製造業の礎であり、他国には真似できないような緻密なモノ作りは今も現場の強みです。

しかし、時代は大きく変わりました。

顧客の価値観が多様化し、情報化社会の中で新しい競争軸が生まれています。

技術があるだけでは売れない。

製品の真価や世界観を「どう伝えるか」、すなわちパッケージデザインとネーミングの巧拙が製品の市場価値を大きく左右する時代に突入しています。

この記事では、製造業の現場目線から、技術力を効果的に製品価値へ転換するためのパッケージデザインとネーミング戦略について、実践的かつ現実的に掘り下げて解説します。

昭和的「中身勝負」の限界と現代のリアル

昭和の時代、製造業界は圧倒的な技術力と量産技術で世界を席巻しました。

「製品は中身で勝負」
「良いものは黙っていても分かる」
そうした信条が美徳とされ、製品のネーミングやパッケージは「せいぜい品番程度」、営業マンも「スペックの羅列」という現場も多かったはずです。

しかし現代社会では、選択肢が無数にあふれ、SNSなどで一瞬で商品が比較される時代です。

消費者はまず見た目で印象を判断し、ネーミングで関心を持ち、機能で納得して選択するようになりました。

BtoBであっても、デザインやネーミングといった“表現力”が、購買担当者や技術者の記憶・印象に残る重要な武器となっています。

「見た目9割時代」に対応するために

どんなに高性能な製品であっても、「何なのか分からない」「ダサい」「印象的でない」―こうした第一印象で選考外になる例はBtoBビジネスでも日常茶飯事です。

だからこそ、技術の価値を最大限に伝える“外側”に投資することが求められています。

製造業で活きるパッケージデザインの役割

パッケージデザインは単なる「箱の見た目」ではありません。

それは製品の価値や企業理念を伝える媒体であり、技術の優位性を瞬時に伝達するブランディングの要でもあります。

パッケージデザインが与えるインパクト

製造業がBtoB中心でも、商談の現場や工場見学、展示会で「箱」や「ラベル」の印象が潜在顧客の心に残ることは少なくありません。

例えば
・清潔感のあるパッケージで品質志向を訴求
・色分けで製品の用途や性能差を一目で分かりやすく
・環境配慮型のマークや素材選定でSDGs対応をアピール
など、“作る側のこだわりや想い”を形にすることで、顧客の感じる価値が引き上がります。

現場で実感する「開発部門とデザイン部門の壁」

実際の工場現場では、開発・製造部門はどうしても中身重視に偏りがちです。

パッケージデザインやラべリングの重要性を感じつつも、「そこにコストは割けない」「デザインのセンスがわからない」という声も現実に耳にします。

しかし、例えば
・現場の安全意識向上のための注意喚起デザイン
・QRコード連携で運用効率を上げるパッケージ設計
など、工場の現場からフィードバックを得れば、デザインが単なる装飾ではなく“現場改善”の一手となることがあります。

ネーミング戦略で「覚えてもらう」ことの価値

製造業の製品はどうしても「型番」「品名」に頼りがちです。

しかし、他社との競争が激しい現代では、分かりやすく親しみやすいネーミングが一気に差別化要因となります。

型番だけでは埋もれてしまう危険性

製造業界でありがちなのが、「ABX-1234」などの製品コードのお化粧だけで済ませてしまうケースです。

これでは、商談時にバイヤーやエンジニアの印象に残りにくく、競合多数の市場では他社に埋もれてしまいます。

記憶に残るネーミングの工夫

例えば
・用途や機能、強みを直球で表現したネーミング(例:スーパーフィルター、イージーローダーなど)
・技術者のこだわりやストーリーを絡めた名前(開発背景や独自性を一言で表す造語など)
・グローバル市場を意識した英語や現地語の採用
など、商談やカタログ、SNS投稿でも「話題にしやすく、覚えやすい」名付けは製品の売れ行きを何倍にも左右します。

また、ネーミングのガイドラインを社内で策定し、シリーズ商品や展開製品でコンセプトを持たせることで、ブランド価値の一貫性やストーリー性も植え付けることができます。

BtoBでも有効なパッケージ&ネーミングの実践例

1. 機能訴求型のパッケージ+簡潔ネーミング

工業用フィルターを例に挙げます。

標準品は「FILTER-A123」といった無味乾燥なラベルでした。

これを
・見た目で流量や材質が分かる色分けパッケージ
・ラベルに「オイルミスト対応」「高耐久」などのピクトグラムやアイコン
・製品名も「オイルバリアPRO」など親しみやすさと訴求力を両立
こうした工夫で、展示会での接客時、「あの商品」と指名が増えた施策例があります。

2. 電子部品メーカーの成功事例

従来の「型番+用途」だけでなく、「未来感」や「環境対応」を表す共通ラベルやサブタイトルをパッケージ・Web・カタログに展開。

顧客から「分かりやすい」「環境方針が明確」と高評価を獲得し、他社との差別化に成功しました。

3. サプライヤーのブランディング事例

部品サプライヤーが、あえて下請けイメージを払拭するため、社名ロゴ入りの高級感ある箱や、多言語対応のネーミングを採用。

バイヤー目線では「信頼の置ける企業」「OEM提案しやすい」として、新規引き合いの獲得機会が増えたとのことです。

バイヤーの目線に立ったパッケージ&ネーミング選定

製造業のバイヤーは、毎日多くの製品や資料、見積書に目を通しています。

確かな事実として、「中身だけでなく、分かりやすさ・訴求力・センス」も選定の重要ポイントです。

バイヤーが感じるメリットとは?

・一目で差別化された商品であれば、提案や社内説明資料が作りやすい
・営業担当や調達部門間でも、記憶に残る名前や見た目は情報共有しやすい
・最終ユーザー(現場作業者やエンジニア)への薦めやすさにも直結
つまり、「バイヤーの仕事のしやすさを高める」パッケージとネーミングは、間接的に自社の競争力アップにつながります。

アナログ業界でも始めやすい改善アクション

「ウチの業界は保守的だから…」「デザインとか難しい」と感じる場合でも、今すぐ始められる改善策はたくさんあります。

1. 他業種の優れた例を真似る、現場提案を形にする

食品や家電、アパレルなど消費者向け業界のパッケージやネーミングの例を積極的にリサーチし、自社製品に流用できるポイントを探してみましょう。

また営業担当や生産現場からの「こうしたら分かりやすい」という意見も、実は宝の山です。

2. 社内コンテストでアイデアを募る

特別なデザイン専門家がいなくても、社内コンテストや公募形式で現場の声や斬新な発想を引き出すことができます。

特に若手社員や女性社員、海外出身従業員の意見などは新しい切り口となることが多いです。

3. 小規模なパイロットでテスト導入する

新パッケージや新ネーミングを、一部製品だけ・展示会や特定顧客向けにテスト展開し、現場の反応やバイヤーの反応を定量的・定性的に集めて改善サイクルを回しましょう。

まとめ:技術の“らしさ”を伝える力が生き残りの鍵に

製造業の最大の強みは、現場に根差した「技術力」と「改善力」にあります。

しかし、良いモノを作る“だけ”では、情報があふれる現代社会では選ばれません。

パッケージデザインやネーミング戦略は、決してファッションや装飾ではなく、「技術力を顧客価値に転換するトランスレーター(翻訳者)」として機能します。

現場目線の実践的な知恵や、アナログから一歩踏み出す勇気が、他社との差別化と持続的な発展への第一歩となります。

製造業に関わるすべての皆さまが、自社の技術の“らしさ”や“想い”を伝えるために、ぜひパッケージとネーミングにも新しいチャレンジを取り入れてみてください。

きっと、今まで見過ごされていた価値が「発見」や「指名買い」という形で市場から評価されるようになるはずです。

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