PC-GFシボレス内装ドアハンドルと無塗装質感向上

はじめに：製造業における内装部品への期待と課題

自動車産業や家電業界をはじめ、内装部品の質感向上への要求が年々高まっています。
中でも、PC-GF（ポリカーボネート・ガラス繊維強化材）で作られたシボレス内装ドアハンドルは、耐久性と意匠性を両立する新たな選択肢として注目されています。
しかし、その無塗装での質感をいかに向上させるかは、昭和時代から続くアナログ的な手法と、最新の自動化・品質管理技術が共存する現場においても、難問であり続けています。

この記事では、現場で培った実践的な視点から、PC-GFシボレス内装ドアハンドルの無塗装質感向上の取り組みについて詳細に解説します。
調達購買、生産管理、そして品質管理の立場、さらにはサプライヤーからバイヤーまでの多角的な視点を交え、現状の課題と最先端のソリューション、さらには今後の業界動向まで探ります。

PC-GF素材とシボレス仕上げの意義とは

PC-GF素材の強みと現場評価

PC-GFは、ポリカーボネートにガラス繊維を配合することで、優れた耐衝撃性と剛性を兼ね備えています。
また、薄肉化や軽量化にも貢献し、省資源・低コスト化を促進します。
従来、内装ドアハンドルなどの機能部品では一般的にABSやポリプロピレンが主流でしたが、高級車や産業機器では、PC-GFの採用が加速しています。

現場の視点から見ると、PC-GFは寸法安定性や射出成形後のひずみが少なく、金型管理や生産管理の負担も低減できます。
しかし、高いガラス繊維含有率ゆえに、表面の繊維露出や風合いの粗さといった課題も付きまとい、部品表面の「質感」が大きなテーマとなります。

なぜシボレス仕上げなのか

シボ（シボ加工）は、金型に細かな凹凸パターン（テクスチャ）を付与し、製品表面に高級感や独特の質感を与える手法です。
「シボレス」とはシボをあえて廃した（＝レス）仕上げで、滑らかさ・ミニマルな意匠を強調したいプレミアムラインなどで採用されることが増えています。
一見、シンプルな美しさが際立つシボレス仕上げですが、成形時の樹脂流動跡やガラス繊維の浮き・ムラなど、わずかな不均一感も目立ちやすく、その品質管理には高度な知見が求められます。

無塗装化の背景：工程集約と時代的要請

塗装レス化のメリット・デメリット

本来、内装ドアハンドルの表面には塗装処理を加え、意匠性や耐久性を高めていました。
しかし、環境負荷低減や工程短縮、コストダウンの観点から「無塗装化」がトレンドとなっています。

無塗装品のメリットは以下の通りです。

・塗装工程の省略によるコスト削減
・VOC（揮発性有機化合物）削減による環境規制対応
・納期短縮と省人化の実現
・リサイクル性の向上

一方で、塗装による表面のムラ隠し効果や、手触り・質感の向上を失うリスクも大きく、素材選定・金型設計・成形条件の最適化が重要なテーマとなっています。

バイヤーが重視するポイント

バイヤー、すなわち調達購買担当者から見れば、無塗装部品は「調達原価低減」「サプライチェーンの単純化」だけでなく、「最終顧客からの質感要求」「クレーム発生リスク」「評価プロセスの厳格化」など、意思決定のポイントが多岐に渡ります。
特に自動車業界ではESG経営への対応が必須となり、塗装レスを進めつつも、従来以上の仕上がりが求められる“二律背反”の要望に現場が直面しています。

現場からの挑戦：質感向上のための工夫と最新技術

金型技術の進歩とアナログ現場の知恵

シボレス無塗装部品の質感向上に最も影響するのは、金型技術です。
金型表面の加工精度や研磨レベルが、最終製品の滑らかさに直結します。
従来は熟練職人による手仕上げとミクロン単位の磨きが支えていましたが、最近は放電加工技術やレーザー加工などの“デジタル化”も加わり、量産時の再現性が飛躍しています。

一方で、昭和時代の工場には未だ「手当て」や「現物合わせ」といったアナログな知恵も根強く残っています。
例えば、金型温度・射出条件・型締め圧の微妙な調整は、現場リーダーの経験がものを言う部分であり、こうした職人技が“最後のひと押し”となる場面も少なくありません。

成形条件の最適化：温度・圧力・樹脂流動のバランス

射出成形においては、低圧成形で樹脂の乱流やガラス繊維の偏りを抑え、最適な型温管理によって艶やかさを出す取り組みが進んでいます。
また、流動解析を活用したゲート配置や、EDC（Edge Direct Control）により樹脂の充填状態をコントロールし、ムラやウェルドラインの抑制に挑んでいます。

最新の成形機ではIoT連携工場が拡大し、データベース化された条件を活用することで、どの工場、どの人員でも均一品質を実現できるようになりつつあります。

サプライヤー目線での提案型モノづくり

サプライヤーは、ただ「図面どおり、コストどおり」に部品供給するだけでなく、より高機能な材料や金型の設計提案、最適な成形方法の共同開発が求められています。
塗装レス化で発生する細かな表面ムラや光沢違いについても、「現場で調整できます」とアピールするのではなく、「なぜ発生するか」「どのような工程で未然防止できるか」といった根本解決型の提案力が差別化につながります。

実際、筆者が体験した現場では、サプライヤー主導で微細なガラス繊維配合率の変更やマイクロテクスチャ設計を実施し、バイヤーと歩調を合わせた商品開発が市場から高い評価を受けました。

品質評価方法の進化と、現場に必要なラテラルシンキング

従来型のアナログ評価とデジタル評価の融合

無塗装部品の質感チェックには、目視や触感といった職人の「五感評価」が長らく主流でした。
ところが、現在はカメラや画像解析装置による自動外観検査、3Dスキャナを活用した表面粗さの数値管理、さらにはAI検査官の導入が進行中です。

しかし、「これは現場的にNGだが、設計基準上はOK」や、「クレームには発展しない程度の違和感」など、定量化が難しい領域も多く存在します。
ここで必要なのが、硬直的なルール適用ではなく、多方向的（ラテラル）な思考です。
例えば、質感に影響しやすい部分限定で追加処理や金型改修を行う、限定ロットのみ塗装対応を検討する、クレームリスクのある顧客層向けには従来品も併売するなど、枠にとらわれない柔軟な“現場判断”が存続のカギとなります。