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*2025年6月30日現在のGoogle Analyticsのデータより

投稿日:2025年7月4日

信頼性加速試験データ解析で寿命予測精度を高める実務講座

はじめに:製造業を取り巻く信頼性試験の必然性

製造業において、製品の信頼性は企業の命運を左右する要素です。

特に家電、自動車、医療機器といった“命”や“暮らし”に直結する製品では、早期故障は経済的損失だけでなく、企業ブランドを傷つけるだけでなく最悪の場合はリコールや損害賠償に発展します。

そのため、多くのメーカーは加速試験を用いて製品寿命の予測を行います。

しかし、現場でのデータ解析や寿命予測は、マニュアル通りにいかず多くの課題を抱えています。

本稿では、私が工場長や品質部門責任者として実践してきたノウハウと、昭和から引き継がれるアナログな現場の“リアル”を交えつつ、信頼性加速試験データ解析で寿命予測精度を高めるための実践的アプローチを解説します。

加速試験の目的と現場で生じる課題

加速試験の基礎:なぜ必要なのか?

加速試験とは、本来なら数年かかる製品の寿命を、温度や湿度、電圧などのストレス条件を厳しくして短期間で“故障”を誘発させる試験です。

これにより、設計・生産段階での素性(耐久性、弱点箇所)を早い段階で把握し、改善行動に落とし込むことができます。

「たったこれだけ壊れるのか」「思った以上にもつ」といった現場の肌感覚を数値で可視化する意義があります。

現場での課題:Why?を掘り下げることの難しさ

加速試験のデータ解析には以下の課題が潜んでいます。

  • 短納期化により十分なデータ取得が困難
  • 試験条件の現実味と現場の“勘”とのギャップ
  • アナログなデータ管理によるミスやトレース困難
  • 材料や部品バラツキの加味不足
  • 現場の「失敗事例」が水平展開されない

実際に、圧力をかければかけるほど必ずしも現場寿命に比例しない、あるいは加速係数そのものに経験値が必要など、教科書ではカバーしきれないジレンマがメーカー現場には埋もれています。

信頼性加速試験の実務的ステップ

STEP1:目的明確化とシナリオ設計

まず最初の工程は、「何のために試験をするのか」を定義することです。

現場では「他社に負けない品質レベルを達成したい」「顧客要求書に記載されたスペックをクリアしたい」など動機が様々です。

ここで大事なのは、最終使用者の視点、クレーム履歴、サプライチェーンの課題を網羅的にリスニングし、現場のモヤモヤを数値化できる指標に落とし込むことです。

STEP2:故障モード仮説と加速条件設計

加速試験で劣化モードを見極めるにはFMEA(故障モード影響分析)やFTA(故障の木解析)など、現場に根付いたトラブル事例を活用して仮説を立てます。

(例)「回路基板のハンダクラックが発生しやすい」「ゴムパッキンの硬化による漏れが心配」など、過去のヒヤリハット事例は宝の山です。

ストレス条件(温度×湿度×通電サイクルなど)は、経験値に加えて“業界標準”や“フィールドデータ”を取り込むことで、現場ならではのリアリティを持たせます。

STEP3:データ取得とアナログ文化との葛藤

実際の現場では、まだまだ紙ベースでの記録やExcel台帳が主流です。

短納期・多品種少量化が進む中、限られたリソースで「いかに高信頼なデータを集めるか」が肝になります。

故障時の状態(異音、変色、寸法変化など)を“五感”で記録し、写真や動画も併用することで、データ以上の“現場情報”を残すことが重要です。

また、測定器の校正管理やIoT計測機器の導入も進みつつありますが、アナログとの両立(“人の目”のチェック)は欠かせません。

寿命予測の精度を高めるデータ解析アプローチ

ワイブル解析の勘所

ワイブル解析は、加速試験の定量的な寿命予測に有効です。

但し、データ数が少ない場合や異常値が混じると結果が大きくブレます。

極力30点以上のデータを確保し、NGサンプルの発生タイミング、症状も丁寧に記録しましょう。

また、ゼロ故障(全数生存)や打ち切り試験の場合は、右側打切りや区間打切りを考慮した統計手法の採用も有効です。

加速係数(AF)の取り扱いと失敗事例

「温度10℃アップで寿命半減」のような加速係数は便利ですが、材料や構造設計が変われば大きく異なります。

実例として、樹脂パーツの熱劣化では材質ロットによるバラツキ、ハーネスの断線検出では使用条件の違いが大きく影響しました。

過去の加速係数を鵜呑みにせず、その時々で“検証プロセス”を通すことが必要です。

現場では仮設計値からフィールドデータを取り込んだ補正式にすることで、外れ値を抑制できます。

多変量解析・AIとの融合と昭和流との両立

最近では、多変量解析や機械学習による寿命予測にも挑戦できます。

例えば、複数項目(温度、振動、湿度)を同時解析することで、従来の単一係数手法より高精度化できます。

ただし、この解析を使いこなすには現場“肌感覚”との融合が不可欠です。

データが示す傾向と「現物の声」に違和感がある場合は、迷わず現場フィードバックを重視しましょう。

AI時代でも、昭和流の「モノづくり魂」と臨機応変な観察眼は現役です。

工場現場で役立つデータ解析の“七つ道具”

ここで、私が実践してきた“失敗しにくい”ケーススタディを紹介します。

  • データシートは「現場作業者が自ら記入できる」「写真付き」で可視化
  • NG発生時には“三現主義(現場、現物、現実)”を徹底し、必ず異常現象の現状保存
  • 定期的なミーティングで設計、品質、生産、購買メンバーが一体となって失敗事例の水平展開を行う
  • データ解析にICT(Excelマクロ、クラウドストレージ)の活用を始め、小さなデジタル化から段階的に推進
  • 「100%デジタル」は理想だが、昭和流の“現場手書き”・写真張りつけも併用するダブルトラック方式
  • 寿命予測の検証結果は、月1回の品質レビュー会議で必ず全レイヤー共有し「現場力」として蓄積
  • バイヤー、サプライヤー、設計現場をまたいだ“故障要因ヒアリング”を怠らず、系列間の壁を破る

バイヤー視点・サプライヤーとの信頼関係構築

バイヤーが最重要視する“信頼できる根拠”とは?

調達購買部門のバイヤーは、「実績」「データの透明性」「改善ループの仕組み」を重視しています。

信頼性加速試験のデータは、単なる“社内資料”や“取引先向けデータ”に収まることなく、購入決定理由の根拠となります。

サプライヤー側は自社の品質保証体制とデータ解析力を前面に出し、客観的な実績を積み重ねることが重要です。

「このSupplierなら大丈夫だ」と確信させるには、“失敗を隠さず公開”“再発防止策を数値で見せる”ことが信頼獲得の近道です。

アナログ業界の真骨頂:人と人のデータ解析会議

日本の製造業には今も根強く「顔を合わせて議論」「現物を観察して納得」があります。

サプライヤーが自主的に現場で加速試験の様子を見せる、改善活動のPDCAを“ライブ感”で共有する場は、データシート以上の説得力を発揮します。

数字だけで勝負せず、現場力・現物力・データ解析力を三位一体で語ること。

これこそが日本のバイヤーが求める真の信頼ではないでしょうか。

まとめ:現場力×データ解析力=製造業の未来

信頼性加速試験は、製品進化のエンジンであり、現場の経験と科学的データ解析の融合によって最大化します。

デジタル化が進む今も、現場の観察力や“気配り目線”は欠かせません。

バイヤーは「根拠のあるデータ」「オープンな現場」「全階層の納得感」を求めています。

サプライヤーは“実データと人の力”を自信を持って発信し、失敗も共有しながら共に成長を目指して欲しいと思います。

製造業という「昭和から続くアナログ業界」だからこそ、現場から生まれる“ちょっとした工夫”と“現代的なAI・データ力”を掛け合わせることで、新たな地平線が必ず見えてきます。

皆さん一人ひとりの「現場力」を、ぜひデータ解析とともに発信していきましょう。

現場を知る者だから分かる、寿命予測のリアリティと実践的ノウハウが、必ずや製造業の発展につながると信じています。

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