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危険エリア通航時の海賊対策:BMP5・武装警備・CITAの実務

目次
はじめに:製造業にも無関係ではない「海賊リスク」
海賊と聞くと、映画や古い歴史の一幕を思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし、今日のグローバル化した製造業の現場では、製品や原材料の輸送時に海賊被害のリスクが現実に存在しています。
特にアジア・アフリカ間、中東およびアフリカ東岸、インド洋、マラッカ海峡、ソマリア沖などは依然として海賊の危険エリアです。
調達購買や生産管理の業務に携わる方、またバイヤーを目指す方にとって、サプライチェーンの安全管理という観点から海賊リスクを理解しておくことは極めて重要です。
本記事では、危険エリア通航時の海賊対策として国際的に推奨されているBMP5(Best Management Practices 5)、物理的な武装警備、そしてCITA(Confidential Information Transmission Arrangement)といった最新の実務について、現場目線で徹底的に解説します。
危険エリア通航時におけるリスクと製造業への影響
なぜ海賊対策が必須なのか
製造業のグローバル調達活動は、船便による物流が圧倒的多数を占めます。
海賊被害が発生した場合、物理的な被害(商品の強奪・損傷)だけでなく、納期の大幅な遅延、人的被害、保険料の高騰、社会的信用の低下といった多面的なリスクが発生します。
特にJust In Time(JIT)を徹底している現代の大手メーカーにとって、原材料や部品の数日の遅延が、工場全体のラインストップにつながりかねません。
そのため、海賊多発エリアを航行する際には、事前のリスク評価と具体的な対策が不可欠なのです。
サプライヤー・バイヤー双方の意識革新
サプライヤー側も自社製品が安全に納入先へ届くことを担保する責任を持ちます。
一方で、バイヤーは納入遅延や貨物損失による生産停滞リスクを負っています。
双方の信頼関係を深め、長期的なパートナーシップを維持するためにも、海賊リスクに対する知見の共有と情報交換が欠かせません。
ここに「昭和気質」のアナログ的な取組から脱却し、時代に合った海賊対策を導入する必要性があるのです。
BMP5(Best Management Practices 5)とは何か
BMPの背景とバージョンアップの経緯
BMP(Best Management Practices)は、主にソマリア沖およびギニア湾など海賊多発地域を航行する商船向けに策定された国際的な対策ガイドラインです。
業界団体と国際海事機関(IMO)、各国政府機関による連携で、2009年に初版(BMP1)が発表されて以降、海賊の手口や情勢の変化に対応してバージョンアップを重ねてきました。
最新バージョンのBMP5(2018年公開)は、物理的な船体強化やクルーの行動指針、緊急時の通報フロー、情報共有体制など、これまで以上に総合的なリスクマネジメントを重視した構造となっています。
BMP5の主要な実施事項
BMP5の現場での実際の活用ポイントは次の通りです。
- 危険エリア航行前のリスク評価(航路、時期、貨物内容、最新事件情報など)
- 船体の物理的な強化(レイザーワイヤー、バリケード設置、非武装ゾーンの明確化)
- 監視体制の強化(双眼鏡やCCTVによる定期的警戒、見張員増員)
- 疑わしい接近船への注意喚起と追跡記録
- 緊急時の行動訓練(シェルタールームへの退避訓練・連絡体制の整備)
- Vessel Tracking(船の追跡システム導入)と海上協力センターへの位置情報通報
- 徹底した情報非公開(航路・貨物情報を公然にしないCITA的運用)
BMP5を導入することで、単なる“気休め”ではなく、不慮の襲撃時にも組織的な初動対応が可能となり、被害の最小化を図れます。
武装警備—現場でのリアルな実務
武装警備員(PCASP)導入の実態と課題
商船への武装警備員(PCASP:Privately Contracted Armed Security Personnel)の搭載は、BMP5だけでは対応困難な高リスク海域航行時に用いられる代表的な追加措置です。
世界的な大手船社を始め、貨物荷主(メーカー・商社)の明示的な要望により、モーリシャスやスリランカ、アラビア半島一帯、中国南端などに設置された乗下船プラットフォームから警備員を乗船させる方式が一般的です。
現場で感じる主なポイントには次のものがあります。
- 武装警備員の制限—各国の法規制によって搭載可否や武器携行の範囲が異なる
- 搭載・下船コスト—船会社から輸出メーカー・商社へ費用転嫁されがち
- 訓練の質のバラつき—元軍人を中心としたプロ集団であっても、言語障害や出身国文化の差によるトラブルが発生しうる
- 保険との連携—保険会社(P&Iクラブ等)が武装警備員の有無を条件にすることがある
バイヤー・荷主の現場目線では、「費用対効果」「コミュニケーションの確保」「万一の際の責任分担」が特に着目点となることを付け加えておきます。
CITA(Confidential Information Transmission Arrangement)の新潮流
なぜCITAが重視されているのか
BMP5や武装警備の物理的対策が重要なのは当然として、近年急速に存在感を増しているのが情報管理・伝達におけるCITAです。
CITAとは、「機密保持された情報伝達手段(Confidential Information Transmission Arrangement)」のことで、具体的には“航路情報・貨物内容・立寄港・スケジュールなどを必要最小限の関係者にしか伝えない/漏れが生じない体制”を指します。
近年の海賊事件では、内通者やサイバー攻撃を通じて貨物船の航路情報が事前に漏洩し、計画的な襲撃事件が発生するケースが増加しています。
SNSや衛星AISの活用が容易になった現代、意図しない情報公開から「狙われやすい船」になるパターンも多く見られます。
製造業バイヤー・サプライヤーに求められるCITA意識
ここで、調達購買・バイヤー、またサプライヤー現場が持つべきCITA発想は次の通りです。
- 納品先工場(顧客)・物流子会社・船会社・港湾代理店などとの安全なデータ共有体制(パスワード管理、アクセス権限の限定)を徹底する
- 関係者外部とのコミュニケーション(口頭・メール・SNS)による不用意な情報拡散を禁止する社内教育
- 船の運航計画や納期の詳細連絡を「必要最小限」の担当者だけに限定する
昭和的な“電話一本、ファックス一枚”による情報伝達文化に慣れてしまっている現場にこそ、CITA精神の徹底が今後不可欠となります。
現場目線で考える「海賊対策の最適解」—ラテラルシンキングの発想を以て
ルーティン化と周辺対策だけでは不十分
一般的な工場長や現場担当は、「BMP5マニュアル入手」「書面で確認」「武装警備オプション契約」のみを以て対策を完了した気分に陥りやすいものです。
しかし、ラテラル(水平)シンキングの発想を持てば、もっと深い課題と解決への道筋が見えてきます。
一例として、「外注先のサプライヤー側が調達した下請輸送船が、勝手なショートカットで危険海域を航行していた」といったケースも珍しくありません。
また「急ぎ便」や「スポット受注」で既定のフローが飛ばされ、安全確認やCITA違反、情報流出につながることもあります。
担当者個人や特定部署だけに任せず、全社・パートナー連携によるリスクチェックと“二重・三重の監視体制”が今こそ求められています。
サプライチェーン全体の連携強化が不可欠
また、バイヤーとサプライヤーが互いにリスク情報をオープン共有することで、早期の予兆検知と代替案提示(船便ルート変更、航空便振替、小分け分納など)も取りやすくなります。
「昭和モデル」のような縦割り・現場まかせではなく、IT活用による可視化・迅速な意思決定を積極的に取り入れたいものです。
まとめ:危険エリア通航対策は「現場力」「情報力」「時代適応力」の3本柱
海賊リスクは、物理的な強化(BMP5)、人的抑止力(武装警備)、そして情報管理(CITA)の3層構造で考え、都度最適な対策を選択することが重要です。
さらに、有事に備えた訓練・BCP(事業継続計画)の徹底やInsurance(貨物保険)手配も、ぬかりなく進めましょう。
製造業にかかわるすべての方が、“危険エリアを通る物流の現実”を正しく理解し、現場の知恵やテクノロジーを生かして、海賊リスク管理に強い企業として発展していくことを願っています。
「危機を、知恵と連携で乗り越える」——それこそが、21世紀の製造業に求められる“新しい現場力”です。
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