投稿日:2025年7月14日

プラスチックプレス鍛造ダイカスト金型材料選定法熱表面処理トラブル対策

はじめに:金型材料選定の重要性と現場のリアル

製造業の根幹を支える金型。
特にプラスチック成形やプレス、鍛造、ダイカストといった現場では、それぞれ独特のプロセスと要件があります。
金型のトラブルは、生産性の停滞やコスト増、納期遅延の主要因です。

材料選定や熱・表面処理、トラブル対策を、「なぜその材料なのか」「どんな現場課題を解決できるのか」という観点から解説します。
昭和時代の常識が残るアナログ現場で、今も重視されている判断基準や、近年加速する自動化・省力化トレンドも踏まえ、最前線の実務知識をまとめます。

金型材料の選び方:現場目線による基本指針

1. 金型材料選定の大原則

金型材料は、単に理論値やコストだけでなく、次の観点で評価すべきです。

– 寿命(耐摩耗性・耐熱性)
– 加工性(現場での加工のしやすさ)
– コストパフォーマンス
– メンテナンス性・修理容易性

プレスなら高硬度・高耐摩耗性が、ダイカスト型なら高温に耐える熱衝撃性が、プラスチック金型なら熱伝導や腐食性への配慮が必要です。
昭和時代の「この鋼材で固定」という習慣を超え、用途や生産ロット、使い捨て/長期使用などの要素をラテラルに組み合わせて選定するのが、現代の現場流です。

2. 材料別の特徴と適用例

– プラスチック金型…一般的にプリハードン鋼(NAK55、P20など)が主流です。
バランスの良い機械的性質と加工性が評価され、特に中量~大量生産の大物型で選ばれます。

– プレス金型…冷間用ではSKD11やSKH51などが多いですが、最近は高靭性型(粉末ハイスなど)を使う例が増え、割れ対策と組み合わせています。
耐摩耗メッキやPVDコーティングとの複合技術も進化しています。

– 鍛造金型…SKD61やH13をベースにした高合金鋼が標準ですが、温度上昇部位ではW360や特注合金鋼など、熱クラック対策が鍵です。

– ダイカスト金型…ここもH13系が主流ですが、高温強度のための特殊溶体化処理や、耐アルミ溶損対策のニッケル合金系も注目されています。

熱処理と表面処理の最前線:耐久性UPの秘訣

1. 熱処理の重要性とそのポイント

材料単体の選択だけでは、現場での耐久性は十分とは言えません。
熱処理による微細組織制御こそが、金型寿命を大きく左右します。

– 焼入れ・焼戻し温度の適正化(「カタログ通り」では無く、使用温度・応力状態との適合が大事)
– 表面硬度分布を均一化し、ヒートチェックや早期割れを防ぐ
– 必要に応じてサブゼロ処理や深冷処理を選択し、経年変化への耐性を高める

こうした知恵は、古きよき現場の鍛冶職人からロボット自動化まで、変わらず重視されています。

2. 表面処理技術の進化と実践知

表面処理もまた、金型現場の困りごとをダイレクトに解決する手段となっています。

– 硬質クロムメッキは、いまだに短納期リペアで重宝されています。
– PVD・CVDコーティング(TiN、CrN、DLC等)は、量産型のパンチ・ダイや、溶損が生じるダイカスト型に不可欠です。
– 浸炭・窒化処理(ガス浸炭、イオン浸炭、イオン窒化等)は、衝撃荷重下での「もちのよさ」に効きます。

表面処理の進化によって、下地材料のランクダウン=コストダウン、または既存金型の延命・再利用が容易になりました。
アフターコロナの調達不安の時代には、重要な現場ノウハウと言えるでしょう。

3. トラブルの共通要因と対策

製造現場の金型トラブルには共通因子があります。

– 材料起因…「鋼材のロットバラツキ」や「偽物材料(JISマーク偽造)」など、調達リスクへの警戒が必要です。
– 熱処理失敗…急冷割れ、劣化構造、残留応力の偏在など、ヒューマンエラーがつきものです。
– 合成トラブル…「表面処理+熱処理」の複合工程で、下地処理不足による剥離や割れが発生します。

現場対策としては、設計段階から「何かあった時のリカバリープラン」を組み込み、サプライヤーとのコミュニケーション密度を高めることが良策です。
バイヤー・サプライヤー双方で、材料証明や熱処理保証書のチェック体制を回すことも増えてきました。

製造現場を支えるデジタル化と今後の金型材料選定トレンド

1. デジタル現場化で変わる「見える化」と調達手法

IoT・AI導入の流れで、金型摩耗のセンシングや、材料トレーサビリティの強化が現場で普及しています。

– 型内温度変化、荷重、摩耗のリアルタイム監視
– 材料ロット番号の追跡
– スマート工場化による「ダブルチェック」体制

これによって「壊れてみて初めて分かる」「経験則頼み」の時代から、データドリブンな選定・保全へと進化しています。
サプライヤーもこうしたデータ開示や実機評価実績の提示が求められるため、材料選定のアップデートは必須となっています。

2. サステナビリティとコストダウンの両立

金型材料選定にも、環境配慮型材料の導入や、メンテナンス性重視の流れが加速中です。

– リサイクル鋼やグリーン鋼材の採用
– 洗浄・分解しやすい組み合わせの工夫
– レッドサプライチェーンリスクを回避するための複数調達体制

このような視点は、従来の「安く・早く」だけでなく、「持続可能で・柔軟」な材料調達・金型運用へと進化させるポイントとなります。

現場目線の実践的なトラブル事例と対策アプローチ

1. トラブル事例1:プラスチック型でのスティッキング

樹脂成形時、離型困難になる「スティッキング」は、型表面の微小な「ざらつき」「腐食」や材料組成のバラツキが原因です。

– 事前対策:高鏡面仕上、耐腐食合金の選択
– 運用中:定期的な表面洗浄、薄膜コーティングの再施工
– トラブル発生時:現物評価・トレース管理、樹脂メーカーとの共同評価

2. トラブル事例2:プレス型パンチ部の早期摩耗・割れ

SKD11を使った従来型で、最近の高張力鋼板対応では摩耗・チッピングが頻発しています。

– 対策例:高硬度型SKH、粉末ハイス・ダマスカス素材の活用
– 表面処理追加(DLC系)、ひび割れ部位の電解研磨
– 金型クラウドモニタリングで摩耗進行度の予知保全 など

3. バイヤー・サプライヤー連携で現場力を高める

調達購買・バイヤーは、現場まかせの事後対策だけでなく、設計・見積段階からサプライヤーと現場視点の「リスク共有ミーティング」を行うべきです。

– 材料選定根拠の可視化(カタログ比較だけでなく実績値を重視)
– 熱処理・表面処理までのワンストップ管理体制
– トラブル未然防止に向けたテストピース試験や「お守り」サンプルの提案

これらのアクションが、現場力を底上げし、金型長寿命化やコスト削減、最終的なQCD(品質・コスト・納期)向上に直結します。

まとめ:現場から未来への提言

プラスチック・プレス・鍛造・ダイカストの各種金型材料の選定と、熱処理・表面処理、トラブル対策まで、現場に根差した知識をまとめました。

昭和から続く「経験則」だけでなく、データや新技術を柔軟に取り入れることで、材料選定の地平線が広がります。

現場の知見とサプライヤー・バイヤーの連携によって、強いサプライチェーンと「壊れない工場」をつくりあげましょう。

私たち現場経験者が持つ「カン」と「データ」の両立こそ、競争力ある製造業の次なる一手です。

このノウハウが貴社・貴現場の進化に少しでも貢献できれば幸いです。

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