投稿日:2025年7月15日

めっき保守点検整備進め方トラブル対策現場予防保全生産設備保守

はじめに:めっき設備の保守点検が製造現場で求められる理由

製造業の現場において、めっき加工は欠かせない工程のひとつです。
しかし、めっき設備は高い生産性を発揮する一方で、定期的な保守点検とトラブル対応が極めて重要になります。
経年による劣化や、アナログな管理体制が残る現場では、突発的なトラブルや品質事故がたびたび発生しています。
本記事では、昭和の時代から抜け出せていない製造現場のリアルな事情に触れつつ、現場目線で実践できるめっき設備の保守点検・トラブル対策・予防保全の進め方について徹底解説します。

めっきの基本と設備に求められる機能

めっきとは、金属表面に他の金属を薄く被覆する技術で、耐食性や装飾性、機能性の付与など、さまざまな目的で活用されています。
製品スペックや用途に応じて、亜鉛メッキやニッケルメッキ、クロムメッキなど多種多様な手法があり、それに伴って設備構成も大きく異なります。

めっき設備において特に重要なのは、「安定した薬液濃度管理」「温度・電流管理」「搬送システムの健全性」の3点です。
どれかひとつでも不調が生じれば、製品不良につながるだけでなく、重大事故の原因になるリスクもあります。
このため、定期的かつ計画的な保守点検が現場運営の根幹と言えるのです。

現場でよくあるめっき設備のトラブルと初動対応

1. 薬液管理の不備によるトラブル

特に多いのは、薬液の濃度管理や補充作業のミスによる不具合です。
例えば、オペレーターが人手不足や多忙を理由に、十分な撹拌や濃度測定を省略してしまう現場もあります。
これが蓄積すると、めっき不良や歩留まり低下、人身事故につながることもあります。

このような時は、すぐに不適合品の流出を防ぐため、生産ラインを一時停止させ、直近の薬液補給記録や測定結果を洗い出すことが重要です。
また、現場担当者への「なぜ省略したのか?」というヒアリングも併せて実施し、表面的な現象だけでなく真因を掘り下げます。

2. 搬送系設備やシーケンサーの異常

コンベアやリフト、ロボットアームなどの搬送機器にトラブルが発生すると、生産ライン全体がストップしてしまいます。
特にアナログ制御の設備では、老朽化によるセンサー誤作動や、配線の接触不良が発生しがちです。

発生直後は、故障個所の特定のために設備全体のエラーログや、異常信号の確認を徹底します。
さらに、アナログ設備の場合は、図面や制御盤と現場の電圧・導通状態を実測して突き合わせ、不具合箇所を限定していきます。

3. 電源・温度制御・廃液・排気トラブル

めっきは電流・温度いずれかが高精度で安定していないと、めっき厚さムラの発生や設備損傷のリスクが高まります。
また、廃液や排気設備のトラブルは現場環境悪化や法令違反に直結します。

異常時は、設定値・測定値の記録突合・伝送系統の点検・機器リセットなど、フローチャート形式で素早く初動対応できる体制づくりが重要です。

めっき設備保守点検の基本ステップと現場で真に機能する仕組みづくり

1. 点検項目と周期を“現場オリジナル”で最適化する

カタログスペック丸写しの点検リストでは不十分です。
実際の生産条件・設備の老朽化度合い・稼働率などをもとに、自社の業務プロセスに沿った点検項目を定義し直す必要があります。

たとえば「薬液槽の補強」「配管の耐食性点検」「搬送系のグリスアップ」など、過去にトラブル発生歴がある部分を重点的に追加するのが有効です。
また、日次・週次・月次・半期ごとなど、点検周期を現場の実情にあわせて柔軟に見直しましょう。

2. “知識の属人化”から“標準化・デジタル化”へのシフト

昭和から続く現場では、「ベテランの勘と経験」に依存する点検・メンテナンスが根強く残っています。
しかし、これでは人材の入れ替わりや世代交代で品質や生産性が安定しません。

業務標準書やチェックリストの作成はもちろん、「現場で撮影した写真・動画を使った点検マニュアル」や、「スマートフォンやタブレットで逐次記録できるシステム」の導入が理想です。
これによって“人”から“仕組み”への転換が加速し、誰が担当しても同品質での保守点検が実現します。

3. 定量的なデータ収集と現場の“生声”の融合

IoT化やデータロガーなどで電流値・温度推移・設備振動値などを収集する動きが加速しています。
一方、アナログ現場では「気になる音がする」「たまに警報が出る気がする」など、現場担当者の“生声”によるきめ細かな異常察知も極めて貴重です。

両者を融合させ、「数値異常が現れたときに生声の証言と付き合わせて真因究明する」――こうした双方向の仕組みづくりが安定生産への近道となります。

トラブルゼロを目指す“現場主体の予防保全”とは

1. 製造現場で予防保全活動を根付かせるコツ

「起きてから直す」では工程管理が不安定となり、品質や納期リスクも高まります。
理想は、「起きる前に手を打つ」予防保全の定着ですが、多忙な現場で形骸化してしまうことも少なくありません。

そのためのコツは、「故障個所の傾向をデータ化し、小さな兆候を重点点検に反映する」「各作業者が“気づきメモ”を残す仕組みをつくる」「点検やグリスアップ、消耗品交換などを生産計画とリンクさせて自動化する」など、現場の負担を最小化しながら行動に落とし込む工夫です。

2. トラブル未然防止のための教育と組織風土

予防保全活動は、「点検しろ!」「注意して!」という号令だけでは根付きません。
現場の若手・ベテラン問わず、「なぜこれを点検するのか」「その意味は?」という目的意識を持たせる教育が不可欠です。

加えて、「不具合やヒヤリハットを指摘したら叱責される」という風土が残ると、現場から本音が出てきません。
失敗を責めず、出た事例を次のレベルアップに活かす“安心して発信できる職場づくり”も重要なポイントです。

バイヤー・サプライヤーにとってのめっき設備保守点検の重要性

1. バイヤー視点:安定供給・品質確保の根幹条件に

部品や製品の調達担当者にとって、取引先(サプライヤー)のめっき工程がしっかり管理されているかどうかは、“安定調達”に直結します。
一度でも設備トラブルによる納期遅延や品質事故が発生すれば、サプライチェーン全体へ深刻な影響が及びます。

このため、バイヤーは調達先選定や定期監査時、「保守点検はマニュアル化されているか」「過去のトラブル履歴はどうか」「IoTデータや設備稼働状況の見える化は進んでいるか」など、多角的なチェックが求められます。

2. サプライヤー視点:“信頼される工場”の差別化ポイントに

近年では、バイヤーからの監査や評価項目に、めっき設備の保守点検レベルや予防保全活動の有無が必ずと言って良いほど含まれています。
これは極めて重要な商談材料にもなり得ます。

事実、グローバルサプライヤーにおいては「自社の予防保全活動」「IoT導入による故障ゼロへの取り組み」などを積極的に可視化し、バイヤーの信頼を獲得しているケースも多々あります。

めっき設備を中心とした工場全体の“見える化”や“定量化”を推進し、顧客との信頼関係を強化することが、今後ますます生き残りのカギになるでしょう。

まとめ:「仕組み」と「現場」の両輪で、めっき保守点検を進化させる

めっき設備の保守点検・トラブル対策・予防保全は、もはや製造現場だけのテーマではありません。
バイヤーやサプライヤーとの信頼構築、ひいては日本のものづくり全体の競争力底上げに直結する活動です。

昭和の勘やコツ頼みだった時代から、IoTやデジタル技術も活用しつつ、「誰でも・いつでも・確実に」安定した保守点検が行える仕組みに進化させていくことが、今こそ求められています。

生産設備のトラブルゼロを目指して、「現場の気づき」と「標準化・自動化・デジタル化」の両面から、今一度あなたのめっき現場を見直してみてはいかがでしょうか。
この積み重ねが、次代を切り拓く“日本のものづくり”の力強い原動力となると信じています。

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