投稿日:2025年9月25日

パワポの見栄えが悪く経営層の共感を得られない事例

はじめに ― 製造業の現場で起きているプレゼン資料の課題

製造業の現場では、日々の業務に追われつつも、発案内容や業務改善活動を経営層に伝える機会が少なからずあります。

しかし、多くの現場担当者や管理職が直面するのが「パワポ(PowerPoint)資料の見栄えが悪く、経営層を納得させる・共感させることに苦労する」という問題です。

この課題を深掘りし、その根本的な理由や実際に起きている事例、そして製造業視点ならではの解決策について考えてみたいと思います。

なぜ現場のパワポは見栄えが悪いのか

属人的な資料作成文化とアナログな業界慣習

長年昭和型のやり方が続いた製造業では、現場担当者が資料作りに十分な教育や訓練を受けていないことがほとんどです。

「わかればいい」「数字さえ伝わればいい」という意識のもと、独自の略語や記号、手書きスキャンの写真をPowerPointに貼り付けて報告というスタイルが根強く残っています。

また、多くの現場では未だにエクセルベースの資料をパワポに「貼るだけ」といった作業がまかり通っており、レイアウトが崩れたり文字サイズやフォントがバラバラのまま提出されることが珍しくありません。

ミスコミュニケーションを生む業界特有の専門用語と略語

製造業界では、同じ社内でも部門ごとに独自の略語や専門用語が定着しています。

現場にいては当たり前の表現でも、経営層の中には製造実務から離れて久しいメンバーもいます。

例えば、「生準(生産準備)」や「現着(現物着荷)」など、読み手にとって意味が分かりづらいスライドが散見されます。

このため、現場が伝えたい内容・意図が正しく伝わらず、せっかくの提案も経営層の共感を得られずに終わってしまうケースが頻発します。

「伝える力」を軽視してきた文化的背景

「現場で汗をかくことが評価される」「実績こそがすべて」とされてきた風土も背景にあります。

数字目標の達成や改善件数の報告など、成果を出せば認められるという安心感が、「伝え方の工夫」を後回しにする土壌をつくってきました。

そのため、中堅・ベテラン層でも「カッコよく作る時間がもったいない」「付加価値がない仕事だ」と思い込み、パワポ資料作成を雑務扱いする傾向が根強く残っています。

パワポで陥りがちな残念な事例

事例1:全部のせスライドの山

報告したいこと、伝えたいこと、裏付けデータ…。

すべてを『1スライドに盛り込みすぎる』ために、結局何がメインか分かりづらくなります。

グラフと写真、テキストが1枚に詰め込まれ、フォントや色使いも統一されていない。

見た瞬間に「読む気を失う」残念な資料が経営会議に多く出回っています。

事例2:作成意図が宙に浮いたテンプレ流用

幹部や本社部門から支給されたパワポテンプレートをそのまま使いまわし、内容を埋めるだけで「現場の声」として提出する。

その結果、肝心の現場課題やリスクが曖昧になり、報告目的とのズレが目立つケースも存在します。

経営層には「自分ごと」として響かず、表層的な理解で終わってしまいがちです。

事例3:分析グラフが別名保存で画質劣化

エクセルで作ったグラフを画像として保存し、それをパワポに貼る。

解像度が低く、拡大するとぼやけて読めない…。

肝心のデータが見づらいため、経営層から「これは何を示してるの?」とツッこまれるのもよくある光景です。

事例4:課題の提起のみに終始し打ち手不明

現場課題の重大さや障壁ばかりを強調し続ける一方で、「ではどうすれば良いか」に全く触れない訴え方も目立ちます。

現場目線では苦労や現実を強く認識している一方、経営層は「だから何をして欲しいのか?」が見えません。

これも共感を得られず、結局現場の訴えが握りつぶされる原因となっています。

なぜ経営層の共感が得られないのか?本質的な理由

経営層が見る「現場の訴え」とは

経営層は、自ら現場業務に日々入り込むことは少なく、数値や報告書、プレゼンテーションを通じて事実を把握し、意思決定を行います。

経営層が重視するのは、「全社最適」「経営課題への貢献」「投資対効果」といった観点です。

現場が苦労や困難な現実を一生懸命伝えても、「全体にとってのメリット」や「経営の方向性」とどう結びつくのかが分からなければ、組織を動かす意思決定にはつながりにくいのです。

「現場目線の正しさ」と「経営判断の視点」の違い

現場の視点では、「具体的な問題」や「今すぐ手を打つべき課題」に迫ります。

一方、経営層はその多様な課題の中から『いちばん会社全体にインパクトがあるテーマ』『持続的な価値を生むテーマ』を選び、合理的に資源分配します。

つまり、どれだけ現場で実感値が高いことでも「経営全体にどう影響するのか」「戦略的にどんな位置付けか」が見える形で伝わらなければ、共感は生まれません。

最終的に「なんとなく現場が困っている」程度の認識で留まり、意思決定が先送りされることも往々にして起きるのです。

製造業の現場がパワポ改善でやるべきこと

現場視点を経営視点に“翻訳”する力を持つ

パワポ資料という「見える化」の機会を活かし、単なる状況説明だけで終わらせず「提案型」「意思決定促進型」に進化させる工夫が必要です。

現場で感じる課題を、そのまま直情的に述べるのではなく、「なぜそれが経営全体の利益に直結するのか」「事業戦略にどんな意味を持つか」を紐づけます。

具体例として、例えば「新たな生産設備の導入による歩留まり改善」を訴えるとき。

従来なら「これだけラインが止まって不良が出て困っている」と現場目線で訴えがちですが、経営層には「この設備投資で全体不良率が●%改善し、年間で●千万円分のコストダウンと納期短縮が見込める」という形で端的に示すことが重要です。

ストーリー設計で「問題提起」「解決策」「期待効果」を明確に

パワポの1スライドにすべてを詰め込むのではなく、「ストーリー・流れ」を工夫します。

最初に『全体に関わる問題(背景)』を示し、次に『現場での具体的な課題』を分かりやすく、その後『現場が考える解決策』、最後に『経営層がメリットを感じる期待効果』で締める。

この流れは古いアナログ体質の企業であっても、違和感なく受け入れられやすい構成です。

グラフィックデザインの基礎を押さえる

デザイン性を高めるための小さな工夫も大切です。

例えば、

・フォントは2種類までに絞る(全スライドで統一感)
・ポイントとなる要素を色分けし、重要度を可視化する
・グラフは画像貼り付けではなく、パワポ内で直接作成
・「●」や「→」などでストーリーと視線の導線を設計する

こうした基本動作を徹底するだけで資料の見やすさ・伝わりやすさは格段に向上します。

「一次情報」の強みを最大化してバックアップ

現場こそ、リアルなデータや実体験を一番持っています。

経営層に響く一次情報(生産現場で拾った事例や実際の数字)をビジュアル・写真・動画などを活用してわかりやすく見せることで、説得力と共感が増します。

「百聞は一見に如かず」は、アナログな業界だからこそ有効です。

現場メンバー主導での“プレゼン練習”文化をつくる

資料だけを整えても、口頭説明(プレゼン)が弱いと、共感は薄くなってしまいます。

部署内で模擬プレゼンを行い、「経営層役」と「現場説明役」に分かれ、疑問点や改善点をフィードバックし合う仕組みを設けることも大切です。

これにより元々苦手意識の強かったパワポ発表や「伝えること」全体に対するスキルが底上げされます。

アナログ業界の変革は現場発パワポから始まる

製造業、とりわけ歴史ある大手メーカーの現場では、ITツールの導入やDX(デジタルトランスフォーメーション)の機運が高まる一方、いまだに「報告資料」はアナログ感満載という悩みが付きまといます。

しかし、現場に根付く課題や「一次情報」を経営全体に伝える役割を担っているのは、まさに現場メンバーです。

パワーポイントというわかりやすい世界共通の「伝達装置」を、現場から変革していくことは、組織全体の風土改革にもつながるのです。

バイヤー・サプライヤー関係でも重要性が増すプレゼン力

昨今のサプライチェーン再編や調達購買プロセスの高度化により、社外取引先に対するプレゼンテーション力も重要性を増しています。

見栄えが悪く要点を押さえていない資料は、先方バイヤーやパートナーから評価されにくく、せっかくの信頼構築や案件受注のチャンスを逃すリスクもあります。

サプライヤー側の営業担当も、バイヤーに「なぜこの提案が御社発展に寄与するのか」を伝えるためのストーリー・見やすい資料づくりが必要なのです。

まとめ ―「見せ方」を工夫し、現場から経営に影響する時代へ

パワーポイントの見栄えが悪く経営層の共感を得られない事例は、実は業界全体に通じる根深い構造的課題でもあります。

現場実務・アナログ業務が中心の製造業だからこそ、「伝える力=見せ方」の進化が、現場発の業務改革・イノベーションにつながります。

記事でご紹介した課題・解決策や事例を、現場業務の日常にしっかり落とし込み、「伝える力」で製造業の発展に貢献するムーブメントを皆さん自身で起こしていきましょう。

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