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工程間輸送の計画が甘く生産全体が停滞するケース

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工程間輸送の計画が甘く生産全体が停滞するケース
現場で日々、限られた人員・設備・時間のなか最大の付加価値を生み出すため、あらゆる工夫を重ねてきた日本の製造業。それでもなお、長年にわたるアナログ文化の名残や現場中心主義により、ふとした工程間の “ほころび” が、全体の生産性を大きく損なう事例が後を絶ちません。
なかでも“工程間輸送”の計画力不足が招く停滞は、多くの現場で繰り返し見られる根深い課題です。本記事では、工程間輸送の重要性と計画不備から生じうる停滞の実態、現場でのリアルな失敗事例、そして今後求められるラテラルな視点を共有します。バイヤーやサプライヤー、ひいては製造業の皆様のヒントとしてお役立ていただければ幸いです。
工程間輸送とは ― 工程を「つなぐ」もう一つの主戦場
生産管理や現場改善に長年携わっていると、作業効率・歩留まり・設備稼働率など直接的な指標にばかり目が行きがちですが、実は生産ラインの上下流工程を結ぶ“工程間輸送”の設計・運用は、現場全体のスムーズな流れを左右する要の存在です。
「点」と「線」の考え方 ― 個別最適化が生む落とし穴
各工程の作業者がベストを尽くして効率よく“点”で回していても、これらが“線”でつながった瞬間、複雑なリードタイム・在庫・仕掛かりの問題が表面化します。
実態として、移送タイミングや運搬手段が場当たり的・属人的で計画性に欠ける場合、いくら個々の工程が頑張っていても、全体最適からは遠ざかってしまうのです。逆に、この“つなぎ”にこそ、デジタル化・標準化・工程間連携の工夫が活きます。
典型的な停滞パターン ― 現場の実感を交えて
1. 想定外の「ムダな待ち時間」が全体リードタイムを膨張させる
例えば、鋳造工程から加工工程への部材輸送が、担当者の手の空いた時に“なんとなく”運ばれるだけの運用。加工側では部材不足によるライン停止が日常化し、鋳造側は山積みの仕掛かりにスペースを奪われ作業効率も低下。誰も明確な責任を持たず、“あの工程が遅れているせい”と不満が澱みます。
こうした状況下では、製品リードタイムがジワジワと伸び、受注納期ぎりぎりの綱渡り状態に陥りがちです。管理系担当者としては、現場のサチった「迷子在庫」を目視確認し、内心ヒヤヒヤしながら巻き取り対応をせざるを得ません。
2. 昭和式「人が動けば何とかなる」頼みの運用と属人的ノウハウ
特定のベテラン作業者が自転車操業の如くフォークリフトで工程間輸送を担い、彼の動きで全体が回っている…そんな光景に心当たりのある工場は少なくありません。彼が不在の時は、途端に滞留が発生し、若手は手順が分からずパニックに。結果、「彼がいないと現場が止まる」のが常態化します。DXや標準化が進みにくい現場の典型です。
3. 輸送実態の見えない“ブラックボックス化”
製販分離が進みすぎた現場では、「誰が」「いつ」「どの工程に」「何を」「どれだけ」運んでいるのか、全体像が分からないブラックボックス状態に陥りやすいです。各部門・担当者が自分のKPIだけに終始し、《間》の流れが可視化されず、ボトルネック特定も場当たり対応になってしまいます。
工程間輸送が軽視される根本要因とは
「本業は製造であって、運ぶことではない」という錯覚
現場管理職時代によく聞いた声に、「所詮“運ぶ”のは副次的な作業」という捉え方がありました。製品や部材を“作る”ことが本質的な価値で、運ぶ工程は“誰かがやればよい”雑用扱いされがちです。しかし、これが工程間輸送計画の軽視=全体最適の阻害に直結しているのが現実です。
「古き良き」現場対応主義の限界
「工程間の詰まりは現場同士のコミュニケーションで都度何とかする」式の現場主義は、人的パワーや経験則に依存し、再現性や柔軟性に欠けます。昨今の人手不足・多品種変量生産の潮流において、これでは持続的な成長は見込めません。
ロスの正体―見えないコストとしての輸送ボトルネック
リードタイム増・在庫増・スペース圧迫
不要な待ちや“輸送遅れ”でライン停止が起きると、結果的に仕掛品在庫が積み上がり、倉庫スペース・現場スペースが浪費されます。付加価値を生まない“モノの停滞”が、利益率を間接的にじわじわと蝕むのが実態です。
余剰人員・余剰設備投資の温床に
工程間の輸送ムダを人海戦術で解決し続けることで、本来必要のない人員や運搬機器(カゴ台車・フォークリフト等)が恒常的に余る悪循環も生まれます。工場の省人化・自動化投資に踏み切る機会を損失するゆえ、設備投資のROIも低下します。
ラテラルシンキングで突破する ― 現場目線の打ち手
1. 工程間輸送も“工数”として見える化する
製造工程の工数やタクトタイムに加え、“工程間輸送”もきちんと工数化・見える化しましょう。モノだけでなく「ヒトと時間」もフローの一部と捉え、現場全体の流れを俯瞰する視点が不可欠です。最近はIoTタグや搬送AGVと連動した輸送実績のトラッキングも容易に導入可能です。
2. バイヤー・サプライヤー視点で考える「工程間」の最適化
特に外部サプライヤーとの連携がある場合は、「納入タイミング=工程への供給タイミング」が現場の律速段階になることも多いです。バイヤー経験者なら、“モノがきちんと“つながる”こと=サプライチェーン全体でのリードタイム短縮・在庫削減策”と捉え直しましょう。最適な発注ロットやJIT納入の組み合わせで、不要な滞留を減らす提案型購買も有効です。
3. 工場自動化・搬送システム導入の本質とは
派手な自動搬送設備ばかりに目がいきがちですが、本質は「工程間の情報の連携」「仕掛り適正量の設定」「異常時アラート・フォロー体制」の仕組み作りです。AGV・AMRだけでなく、デジタルサイネージやIoTセンサーの柔軟活用も含め、工程間“情報の可視化”が出口を拓きます。
4. “人為輸送”の標準作業手順化・交代対応
属人的に回っていた輸送業務は、標準作業手順書化・多能工化で誰でもカバーできる仕組み作りを進めましょう。現場のベテランの“暗黙知”を形式知化し、若手育成につなげる動きが停滞リスクを減らします。
まとめ ― 工程間輸送は「つなぐチカラ」そのもの
製造業の高度化・複雑化が進む今日、「工程間輸送」は単なる“運搬”にとどまらず、現場全体を最適化するエンジンであり、サプライチェーン全体の競争力を決定づける要です。
現場の一人ひとりが「工程間もまた付加価値を生む“戦場”」との認識を持ち、バイヤー・サプライヤー・生産メンバーが一体となって“つなぐ力”を高め続けること。それが、昭和の遺産に甘んじない、これからの日本のものづくり発展のカギではないでしょうか。
工程間の細部に魂を込め、全体最適を追求する皆様こそが、製造業の未来を担っています。この地道な現場知の積み重ねが、やがて世界に誇る“日本現場力”の新たな地平線を切り拓くと信じています。