投稿日:2025年9月18日

日本製造業の余剰生産設備を活用した購買コスト低減の実務例

はじめに:日本製造業の現状と課題

日本の製造業は、長らく「モノづくり大国」として世界に冠たる地位を築いてきました。
しかし、人口減少、グローバル競争の激化、デジタル化の遅れなどの要因によって、その地位は大きく揺らいでいます。
加えて、コロナ禍や自然災害によるサプライチェーンの混乱も、産業界に新たな課題を投げかけています。

一方で、日本各地の工場には、バブル期や高度成長期の設備投資の結果として、現在の稼働率が著しく下がっている余剰設備が多く眠っています。
多くの現場では、「今さら使い道がない」「新しい生産プロセスに合わない」として活用方法が模索されないまま、資産としての価値も曖昧になっています。

本記事では、現場目線から『余剰生産設備を活用した購買コスト低減』というテーマに切り込んでいきます。
特に調達購買や生産管理の実務担当者、バイヤー志望者、サプライヤーの立場の読者に向けて、具体的なアプローチや業界の実例を交えつつ、今後の可能性を考察します。

余剰設備の現状:なぜ余るのか?どう眠っているのか?

日本の工場で余剰設備が多く生まれる理由は複合的です。
主な要因は以下の通りです。

設備投資の長期化と製品ライフサイクルの短縮

日本の大手企業では、10~20年単位で設備投資を計画し、減価償却が終わるまで使い続ける傾向が根強くあります。
しかし、近年の市場変化は激しく、製品のライフサイクルはどんどん短くなっています。
このギャップが、償却終了後も設備のみが残り、新製品には使いにくく、もて余されてしまう主因です。

伝統的な「スクラップ&ビルド」文化

新規の設備更新時に古いものを廃棄せず、「壊れるまで取っておく」「もしかしたら使えるかも」と温存するケースが多くあります。
また、工場のレイアウト変更が進みにくい文化もあり、非効率なスペース利用にも影響しています。

データ化・可視化の遅れ

工場内の設備台帳が紙ベース管理だったり、情報が部門間で共有されていなかったりする例も未だに多いのが現状です。
そのため、せっかくの余剰設備がどこにあるかすら把握されていないケースも少なくありません。

余剰設備の活用による購買コスト低減の考え方

余剰設備は、ただ「古い・使わないもの」ではありません。
見方を変えれば、自社やグループ会社、さらには外部パートナーとの連携によって、購買コスト低減やサプライチェーン強化につながる極めて重要な資産です。

この活用方法には、大きく分けて3つのアプローチがあります。

1. 社内・グループ内の再利用

異なる工場間での生産品種の入れ替えや、海外拠点の立ち上げ時に再利用可能なケースがあります。
日本国内で余剰となっていても、新興国拠点や低コスト拠点では十分に価値がある設備も多いです。
移設や改造も選択肢に含めて、投資コストを大幅に削減できます。

2. 社外企業へのリース・売却

サプライヤーや協力会社に対して、不要になった生産設備を貸与・売却する方法です。
これにより、設備導入コストが高くて新たな取引が進まなかったサプライヤーとの関係強化につながる場合があります。
さらに、リース料や売却益で余剰設備の管理コストをまかなうことも可能になります。

3. 短期スポット生産や受託生産の活用

受注変動や季節波動に対応するため、普段は使用しない余剰設備を使って一時的な生産を社外から受託するモデルです。
工場の稼働率向上だけでなく、設備が稼働することでメンテナンス性も維持しやすくなり、結果的に設備の廃棄サイクルを延長できます。

実践例:余剰設備活用による購買コスト削減成功事例

ケース1:海外グループ会社への設備移設

某精密部品メーカーA社では、国内主力工場で余剰となっていた組立ライン設備について、グループ傘下の東南アジア工場に移設。
新規ライン導入に必要だった投資費用が1/4に圧縮され、結果的に現地調達コストも20%削減することができました。
移設にあたっては、部材の規格や安全基準の違いに対応するため、現場主導で設備改良を施した点がポイントです。

ケース2:サプライヤーへの設備無償貸与による調達単価低減

大手自動車部品メーカーB社では、自社のライン再構築により余ったプレス機を、長年取引のあるサプライヤーに無償貸与。
通常はサプライヤーが高額な投資をする必要がありますが、B社が設備を提供することでサプライヤーの負担を軽減。
その見返りとして調達単価の5%引き下げに成功し、年間数億円規模のコストメリットを獲得しました。
また、サプライヤーとの長期契約や品質向上活動も推進され、信頼関係が深化するプラス効果も生まれています。

ケース3:中古市場を活用した案件型生産

新興スタートアップC社では、製品の立ち上げ当初は需要予測が難しく、投資は極小に抑える必要がありました。
そこで大手メーカーから中古で買い取った余剰加工機をリユースする体制を構築。
初期費用を大幅に減らすことで、短期受注型のビジネスにも柔軟に対応しています。

現場で「余剰設備活用」を推進するためのポイント

1. 設備台帳・情報の見える化

まずは「自社にどんな設備があるか」を正確に把握できていなければ、どんな施策も始まりません。
現場にヒアリングを重ねながら、設備台帳・稼働状況・メンテナンス履歴などを可視化、デジタル管理することが第一歩です。
最近ではクラウド型設備管理ツールも増えており、部署や工場をまたいだ横断的な情報共有が求められます。

2. 管理者と現場担当者の連携強化

余剰設備の再活用には、既存オペレーターや技術スタッフの知恵が不可欠です。
「この設備は古いが改造すれば使える」「このライン構成であれば転用可能」という判断は、現場目線でこそ実現します。
工場長や工程責任者が主導し、経営層・購買部門との橋渡しになることが、プロジェクト成功のカギです。

3. 業界内外のネットワーク活用

欧米では設備オークションサイトや設備リマーケットが盛んですが、日本国内ではまだ普及途上です。
しかし最近は、産業設備のマッチングプラットフォーム、買取専門業者、自治体・商工会議所のリサイクル支援など、多様な選択肢が生まれています。
自社内または業界団体で積極的なネットワークづくりを進めましょう。

4. 稼働率向上施策と組み合わせる視点

単なるコスト削減だけでなく、設備稼働率の向上や人材育成(多能工化)、生産プロセス改善と組み合わせて施策を動かすことで、大きな波及効果も狙えます。
余剰設備が「いざという時の代替機」や「多品種少量生産用」「段取り替え練習用」等として役立つ余地があります。

昭和から令和へ―アナログ産業が変わるために必要な「発想転換」

製造業の現場は、未だ手書きの帳簿やアナログな進捗管理が根強く残っています。
しかし今こそ、目線を水平ではなく“ラテラル(横断的)”に広げ直すタイミングです。

「余剰品」や「お荷物」だと決めつけてきた設備も、見方をわずかに変えることで、
・グループ企業や外部パートナーとの新たな協業基盤
・取引先の技術レベル底上げとリスク分散
・サステナビリティ推進・廃棄ロス低減
といった価値へ転換できます。

購買担当にとっては、「安く買う」「調達先を広げる」だけが能ではありません。
サプライヤーと共に成長するために、自社資産(設備)をどう武器に変えるか。
これこそが、これからのバイヤー、そして製造業全体に求められる発想転換です。

まとめ:未来の購買部門・バイヤーに求められる視点

本稿では、日本製造業の余剰設備活用を通じて購買コストを低減する具体的アプローチを、現場のリアルな視点で解説しました。

設備資産の見直し・可視化、現場と管理職の連携、サプライヤーやグループ間の枠を超えたネットワーク活用など、いずれも従来の「部分最適」から「全体最適」への変革が不可欠です。

製造現場の知恵と購買現場の交渉力、そして異業種やベンチャー的発想を融合させ、新しい地平線を共に切り拓いていきましょう。
いまこそ、昭和的な思い込みや固定観念を超えて、「余剰設備=新たな価値創出の源泉」という大転換に挑戦するときです。

購買・生産管理・品質管理・調達・現場管理、それぞれの立場でできる一歩を、明日からぜひ実践してみてください。

You cannot copy content of this page