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腐食トラブルを防ぐ金属材料選定と防食設計実践ガイド

目次
はじめに:製造業現場での腐食トラブルとその深刻さ
日本の製造業において、金属腐食によるトラブルは今なお大きな課題です。
昭和時代から続く現場の知恵や経験が現在も根強く残る一方で、グローバル競争、コストダウン、環境対応など新たな要求が押し寄せています。
腐食トラブルは無視できません。
部品の寿命短縮、設備故障によるダウンタイム、再加工や交換コスト、さらには安全問題や顧客クレームに直結します。
腐食対策の失敗は、見えないところで経営に大打撃を与えます。
この記事では、工場長や調達担当、生産管理者、品質管理者として20年以上製造現場を経験した筆者が、腐食トラブルを未然に防ぐための金属材料選定と防食設計の具体的な実践ノウハウ、現場発のリアルな業界動向を解説します。
バイヤー志望の方、サプライヤーでバイヤーの考えを知りたい方にも役立つ内容です。
本記事で現場目線の本質的な腐食対策を身につけ、製造現場を次の時代へ引き上げるきっかけにしてください。
腐食とは何か?製造業を蝕むメカニズムを知る
腐食の基本:化学的腐食と電気化学的腐食
金属の腐食とは、金属が周囲の環境(空気、水、土壌、化学薬品等)と反応し、もとの性質を損なう現象です。
主な腐食には「化学的腐食」と「電気化学的腐食」の2種類があります。
化学的腐食は、主に高温環境下で酸素や硫黄などと金属が直接反応する現象です。
一方、電気化学的腐食は、水分や電解質が関与して金属のイオン化が進み、その後金属表面から溶け出す現象で、現場で発生するほとんどの腐食はこの電気化学的腐食です。
腐食が現場にもたらす現実的リスク
腐食に起因するリスクは多岐にわたります。
・金属部品の強度低下による機械故障・安全事故
・配管やタンクの破損、および環境汚染
・操作異常によるライン停止、納期遅延
・クレームやブランド価値毀損
・目に見えない経年劣化の見落とし
多くの現場で「腐食=サビ=外観の問題」と捉えられがちですが、構造体や安全性、信頼性の根幹に関わる現象だと再認識することが重要です。
現場が押さえておくべき腐食の主なパターン
現実の工場やプラントでよく遭遇する腐食現象を以下にまとめます。
一般腐食(全面均一腐食)
金属表面全体が一様に腐食する現象です。
鉄や銅の素地が雨水や湿気に晒されるときよく見られ、大部分が徐々に薄くなっていきます。
これは比較的予測が簡単ですが、厚み測定などで定量管理が必要です。
局所腐食(孔食・隙間腐食・粒界腐食など)
局所的に激しく腐食する現象です。
例として、ステンレスのピンホール(孔食)、ボルトナットの隙間部分の腐食(隙間腐食)、溶接部近傍の粒界腐食などが挙げられます。
これらは外観では発見が難しく、突発的な破壊につながりやすいため、現場での定期点検と予兆検知が不可欠です。
ガルバニック腐食(異種金属接触腐食)
素材の違う金属同士が電気的に接触し水分を介すると、片方のみが強く腐食します。
設計段階で異種材料の組み合わせを意識できるかが要です。
防食設計の基本アプローチ—なぜ「材料選定」が重要なのか
多くの工場で「防錆塗装に頼る」「錆びたら交換」「現場任せ」の対症療法に留まっています。
しかし、腐食は現場トラブルや品質不良の“根本原因”にもつながるため、「腐食しない材料を選ぶ」「腐食しにくい設計にする」ことこそ合理的な解決策です。
腐食環境を正確に把握する
材料選定時に最も重要なのは、「現場ごとの腐食環境」を正確に整理、把握する力です。
・屋外/屋内の設置場所
・温湿度の変動
・接触する液体や薬品の種類/濃度
・周辺の異種金属
・大気中や水中の塩分、硫黄成分濃度
これらを明文化し、最悪条件を想定することが最初のステップです。
目的別・コストバランスを見据えた材料選定
「オーバースペックな材料は原価上昇を招き、安易な廉価材は品質事故のリスクを増大させます」。
以下の観点から選定しましょう。
・腐食環境に見合った耐食性(メーカーの耐食データシート等参照)
・必要強度、加工性、溶接性
・コスト(材料単価、調達難易度、量産性)
多品種少量生産が進む今、「現場のベテランの経験値」と「メーカー公開の材料データシートやISO規格」の両方を活用しましょう。
主要金属材料別の腐食特性と選定実例
鉄(炭素鋼・合金鋼)
コスト・強度・加工性に優れますが、無防護での屋外使用はサビ(酸化鉄)が発生します。
【選定のコツ】
・室内のみであれば塗装など簡易防食でも可
・屋外、化学プラント、水や蒸気配管ならメッキ、亜鉛鋼板、合金への置換が◎
ステンレス鋼(SUS304/SUS316など)
クロムやニッケル添加により優れた耐食性を持ちます。
ただし、塩素イオンが多い環境(食品・薬品・沿岸部など)では孔食や粒界腐食リスクが高まります。
【選定のコツ】
・塩素対策にはSUS316や二相系ステンレス等の高耐食グレードを検討
・高コストになるため、溶接後の酸洗い処理や設置環境をふまえて慎重に
アルミニウム・銅・ニッケル・チタン系材料
アルミは耐食性と軽量化に強み、しかしアルカリや酸に弱い性質も。
銅は水や電解環境に強いが、硫黄やアンモニア系には弱点。
ニッケル系、チタン系は高温・強酸・耐塩分環境で選択肢。
【選定のコツ】
・アルミは異種金属接触によるガルバニック腐食対策必須
・コスト面を踏まえ、サブアッセンブリーやコア部品に限定利用
効果的な防食設計・実践ノウハウ
コーティング・メッキによる表面防食
鋼材への防錆塗装、亜鉛メッキ、アルマイト処理(アルミ)、化学ニッケルメッキ等、さまざまな表面処理技術が存在します。
現場で行う場合は、以下のポイントに注意しましょう。
・膜厚管理の徹底(膜厚チェックゲージ活用)
・表面処理後の緻密な外観検査
・設置後の定期メンテナンス・タッチアップ
異種金属接触の最適設計
・意図的に絶縁材を挟み電気的接触を絶つ
・同系統の金属組み合わせを選ぶ
・腐食セルのアノード(金属の中で腐食されやすい側)には容易交換可能部品を配置
など設計段階で工夫をしましょう。
水分・化学薬品管理/安全配置の工夫
・排水溝やドレン設置で水溜まりを残さない
・定期洗浄や薬品のこぼれ防止設備の設置
・“隙間”や“溶接部近く”など見落としやすい部分への点検注力
「現場のルーチン」と「設計段階からの腐食管理」の両輪が不可欠です。
デジタル変革期の腐食対策最前線と現場改善へのアプローチ
現場・サプライヤー・バイヤー連携の重要性
近年、製造現場DXが進むことで、腐食対策も以下のような新たな取り組みが拡大しています。
・IOTを活用した設備の腐食モニタリングと発生予兆検知
・BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)による履歴管理
・サプライヤーとの腐食環境情報共有による材料トレーサビリティ強化
現場目線では、現物中心から「記録・データ」で腐食リスクを管理する時代に変わりつつあります。
バイヤー志望の方は、価格・納期だけでなく「防食設計が担う現場の持続性、トータルコスト」に目を向けて取引判断を行うことが求められます。
“昭和流”に学び、“令和のデータ”へと統合する視点
昭和の現場で培われた「五感重視」と「経験による勘」は、今も抜群に価値があります。
しかし、属人的なノウハウにだけ依存せず、「なぜここで腐食が起こるのか」「素材選定の根拠は何か」をデータで裏付けし、多様な人材が連携して腐食トラブルを防ぐことが、これからの製造業で求められる考え方です。
まとめ:現場の腐食対策力を高め、製造業の未来へ貢献する
金属材料の適切な選定と、防食設計の徹底は「見えない経営リスク」を減らし、製造現場の信頼性を上げる最重要施策です。
・腐食環境の正確把握
・目的、コストバランスを踏まえた素材選定
・表面処理、異種金属対策、清掃保全含めた総合アプローチ
この“地味だが本当に効果がある一手”が、企業の競争力や、顧客からの信頼につながります。
製造業に携わる全ての皆さんが「腐食対策=現場品質の根幹」と捉え、設計・調達・生産・現場保全の垣根を超えた知恵とラテラルな発想で“腐食トラブルゼロ”の現場を目指しましょう。
そしていつか、「日本のものづくりは腐食対策でも世界一」に胸を張れる日をみんなで実現していきましょう。
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