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投稿日:2025年6月10日

ステンレス鋼の腐食事例とその対策

はじめに:ステンレス鋼は本当に錆びないのか?

ステンレス鋼と聞くと、多くの方が「錆びない」「腐食しない」というイメージを持つことでしょう。
実際、市場拡大の過程でそのキャッチコピーは広く浸透しています。
しかし、製造現場や調達・品質管理の実務経験がある方なら、ステンレス鋼も条件次第で腐食することをご存知のはずです。

昭和の高度経済成長期から、現場では「同じステンレスで良いだろう」という暗黙の了解や、省コスト意識から細かな材質選定が蔑ろにされる場面も多く見てきました。
近年では、高機能要求やグローバル化により、顧客要求や国際規格への対応も求められています。
本記事では、現場至上主義の視点で実際に起こる事例を交えながら、ステンレス鋼の腐食メカニズムや対策についてラテラルシンキングの視点で深掘りします。

ステンレス鋼が腐食する主な原因

ステンレス鋼は基本的に「不動態皮膜」により腐食環境から守られています。
しかし、その皮膜の破壊や失活、特定環境下では「想定外の腐食」が発生します。

1. 不動態皮膜の破壊・損傷

高温・高濃度の塩化物イオン環境(海岸沿いや食品工場など)では、肉眼ではわからないレベルで不動態皮膜が局所的に破壊されることが多いです。
これがきっかけで「孔食」や「隙間腐食」が発生します。
また、現場での溶接や研磨による微細な傷が皮膜形成を阻害し、想定外の腐食を招くことも珍しくありません。

2. ミクロな化学組成の偏り(異方性)

ステンレス材の最新分析技術によって、マクロ的には同じ材質でも、微細組織のフェライト・オーステナイト比や析出物による部分的な化学的不均一性がしばしば観測されています。
この異方性ゆえの「マイクロギャルバニックセル現象」が局所的な腐食の大きな原因となります。

3. 周囲環境・運用条件の変化

昭和から令和にかけて、工場の配置換えや新規設備導入によって、以前は安定稼働していた機械部品で腐食事故が多発するケースがあります。
たとえば、工場内の熱帯魚水槽の廃水が流れてくる配管にSUS304を長年使っていたが、ある日突然大量の点食腐食が発生した、というような事例です。
これはpHや水質の微妙な変化、薬品混入が大きく影響します。

現場で見られるステンレス鋼腐食の具体事例

1. 工場配管の孔食

食品・化学工場の配管では、CIP(定期洗浄)工程で高濃度の塩素系薬品が流れ、不動態皮膜が壊されることで配管内壁にピンホール状の孔食が多発します。
また、建設会社に「同じ規格のSUS304だから大丈夫」と一任した結果、腐食耐性に差のある素材ロットが使用されてしまうトラブルも見かけます。

2. 大型タンク底部の隙間腐食

飲料メーカーや薬品製造工場の大型タンクでは、底部の接合フランジやパッキン部の微小な隙間に液体が長期間滞留し、典型的な「隙間腐食」が発生します。
設計段階で自己排液性を考慮しなかったために起きる事例が少なくありません。

3. 都市のインフラ設備での応力腐食割れ

都市部の高速道路下部や橋梁用ボルトでは、寒暖差・車両振動と塩害によって応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)が発生しています。
これは、ステンレス鋼の見かけ上の「頑健性」に油断した結果、突発トラブルとなり2020年代にも大きな案件が複数報告されています。

腐食対策:調達・購買と現場が連携すべきポイント

部品や新工事を検討する際、「コスト、納期、規格」に加え、腐食リスク評価を購入段階から押さえておくことが重要です。

1. 材質選定の徹底

現場の風土として、「前回もSUS304だったから」という理由だけで選定していませんか。
これがトラブルの温床です。
必要な場合はSUS316やそれ以上の耐食合金へのグレードアップ、あるいはClイオン・S成分・pHなど現場の液分析データをベースにメーカーへ投げるべきです。

2. 加工履歴と表面仕上げへの意識

購入先を鵜呑みにすると、溶接焼け未処理や酸洗・パッシベーション処理漏れ品が混入するケースがあります。
調達側が、どの段階で、どのような表面処理が求められるのかを製造・品質管理と連携して承認・検品するフローを定着させましょう。

3. 部品構造と溶接部の最適設計

腐食事例の多くは、現場溶接の再作業や補修、狭隘部に発生しています。
隙間レスな設計、ドレンの徹底設置、板厚と溶接順序管理といった、今すぐ現場で改善できるポイントが必ずあります。

アナログ業界ならではの「昭和的油断」がもたらすリスク

長年の現場経験で痛感するのは、アナログな情報共有、職人頼みの口頭伝承、カンコツ重視の意思決定が今なお根強いということです。
この伝統には一定の価値がある一方、以下のようなリスクも孕んでいます。

1. ノウハウの属人化による腐食事故の温床

「ここは昔からこの材料で大丈夫だった」という過信は、環境の僅かな変化や資材ロットの変化、新興国素材の流入で破綻します。
客観的な数値・現場計測と、蓄積データに裏付けられた管理が今、重要性を増しています。

2. システム化・自動化の遅れによる検知遅延

IoTやセンシング技術の台頭が進んでいる昨今、現場の一次情報(温度、湿度、Clイオン濃度、振動など)を常時取得することで腐食シグナルを早期にキャッチできる時代です。
それでも紙台帳や個人メモに頼る現場では、致命的な腐食発生を見逃す危険性があります。

知っておきたい:世界の動きと最新規格

EUやアジア各国市場では、RoHSやREACHといった環境規制が年々厳格化しており、材料グレードやリサイクル対応が国際競争力に直結します。
たとえば中国では公共工事にSUS304J1、SUS316の規格標準が強化され、調達購買の段階で耐食保証やトレサビリティを求められるケースが増加しています。

バイヤー、サプライヤー、製造現場が一体となって進めるべき腐食対策

腐食問題は、購買→設計→製造→現場運用まで一貫したリスクマネジメントが求められます。
たった一つの鋼材選定ミスやコストカットの油断が致命的な品質問題や損失に直結する時代です。

ステンレス鋼に頼り切る時代から、用途・仕様・リスクごとに「最適な選択と継続的な検証」を行う新しい地平線が、今、求められています。
特に自社の強みや調達力を生かしつつ、バイヤーは「なぜこの材質なのか」を納得できるロジックと現場観察を両立すべきです。

まとめ:持続的発展のために必要な視点

ステンレス鋼は強くて美しい。
けれども万能ではありません。
本記事で紹介した現場の失敗例と対策を参考に、「腐食リスクゼロ」を目指すのではなく、「リスクを科学的・実践的に低減し続ける文化」を根付かせましょう。

調達購買、生産管理、品質管理、サプライヤーそれぞれが一歩踏み込んで、昭和的な成功体験の殻を破り、新しい知見を互いに共有することで、製造業全体の底上げにつなげていけるはずです。

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