ユーザビリティ評価とユーザ行動を活かした設計改善のための実践ノウハウ

はじめに：ユーザビリティ評価が切り拓く製造業の新時代

近年、製造業でも「ユーザビリティ評価」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
かつて製品の使いやすさや設計は設計者の勘や経験に頼っていた部分が大きかったものの、現在は市場のグローバル化や顧客要求の多様化により、ユーザー起点のものづくりが急速に進んでいます。

ユーザビリティ評価とは、製品やシステムを実際の利用者の立場で使ったときの「使いやすさ」や「わかりやすさ」を客観的に評価するプロセスを指します。
これは製造現場の自動化機械や操作パネルから、工場IoTシステム、部品の形状、パッケージ、説明書に至るまで、実に多岐にわたる分野で効力を発揮します。

昭和から続くアナログな現場でも、ユーザー行動に着目する視点は今後ますます不可欠になっていきます。
本記事では、20年以上の現場経験をふまえ、製造業の設計・開発を実務レベルで改善するためのユーザビリティ評価とその実践ノウハウを徹底解説します。

ユーザビリティ評価とは何か？製造業での意義

ユーザビリティの本質と視点の転換

ユーザビリティ（Usability）は直訳すると「使いやすさ」です。
しかし、これは単なる「直感的であるか」「誤操作しにくいか」といった観点だけではありません。

現場作業者、保守担当者、生産管理の現場、調達購買のバイヤー…など、立場の異なるユーザーがそれぞれの場面で最も価値を感じるポイントは異なります。
たとえば、
・ライン作業者＝疲労しづらい配置やツール設計
・バイヤー＝調達先の探しやすさや発注プロセスの明瞭さ
・開発者＝実装や後工程での改良のしやすさ
このように、「ユーザー像」と「ユースケース」の明確化を出発点にし、設計初期からユーザーの行動や心理を組み込むことが必要です。

なぜ今ユーザビリティ評価なのか？バイヤー・サプライヤー視点から

サプライヤーとしてバイヤーの要求に応えるためにも、「なぜ今ユーザビリティが重要視されるか」を知る必要があります。

・労働人口減少により“誰でも使える”設備設計が不可欠に
・海外顧客・現地法人など多様なユーザーが対象となる
・安全規制や品質要求の高度化により実地検証の重要性が増大
・他社との差別化やブランド価値向上の決定打となる
こうした背景から、現場目線での使いやすさ評価なしでは設計が進まない時代となっています。

現場で実践するユーザビリティ評価の手法

有効なユーザビリティ調査手法とは？

ユーザビリティ評価にはさまざまな手法がありますが、現場で即使える代表的なものを紹介します。

観察調査（ユーザーを後ろから観察して行動パターン、つまずきポイントを記録）
インタビュー（設計時からエンドユーザーへのヒアリングを組み込む）
紙や模型によるプロトタイピング（現場作業者に事前に触ってもらい改善フィードバックを得る）
エラーログ収集（設備のエラー履歴や作業トラブル報告書から課題抽出）
ヒューリスティック評価（ベテランが自ら設計案を評価し“典型的な落とし穴”をチェック）

有名なウェブや家電業界のユーザビリティ評価と違い、製造現場では「アナログとデジタルが同居した作業環境」「複雑な作業動線」が前提です。
そのため、「机上の計算や設計」だけでは捉えきれない現場特有の課題が山積しています。

ラテラルシンキングで発想をひねる：現場改善事例

たとえば、生産現場に新しい操作パネルを導入するとき、「液晶に必要な操作が全部表示されているから分かりやすいはず」と単純に考えていませんか？

現場での観察では、「操作項目が多すぎて探せない」「作業中の手袋では押しにくい」「操作位置が高くて小柄な人には見づらい」といった細かい問題が多発します。
こうした“使われ方”のギャップを発見するには、定型の評価手法ではなく、「もし自分が高齢者だったら？」「極端に不器用な新入社員だったら？」などラテラルシンキングで視点を拡げ、さまざまな仮想ユーザー像で評価することが重要です。

ユーザ行動の具体的な分析と設計改善への活かし方

行動観察から課題と対策案を導く方法

ユーザ行動分析の流れは以下のようになります。

1. 仮説を立てる
どこでつまずくか、どうすれば使いやすくなるか、“現場の直感”で仮説を持つ

2. 観察・計測・インタビューの実施
実際に現場作業者やバイヤー、調達担当者が「どのように操作しているか」「どんな心理状態で使うか」観察とヒアリングを両立させる

3. 行動パターンのデータ化
作業時間、エラー発生箇所、複数ユーザーの反応などを記録し、ボトルネックを特定

4. 設計改善への落とし込み
手順削減、操作系の色や表示方法変更、無駄な動線の排除など、具体的な改善案を設計図に反映する

5. 再評価と継続的な見直し
改善の結果を再度現場で検証、定期的なフィードバック体制をつくる

現場でありがちな思い込みを覆す視点転換

製造現場では、「ルールで決まっているから安全」「ベテランは失敗しない」「紙マニュアルがあれば十分」といった思い込みが根強くあります。
しかし、ユーザビリティ評価を取り入れることで、
・実は誰も読んでいない分厚いマニュアル
・経験者しか理解できない独特の手順
・取り外し方で毎回つまずく消耗部品
といった「昭和の遺産」が次々と浮き彫りになるのです。

現場で見落としがちな「小さな使い勝手の悪さ」こそ、生産性・安全性・品質向上や離職率の低減、顧客満足度の向上に直結します。

バイヤー・サプライヤー間で活きるユーザー志向とは

調達購買のバイヤーを目指す方やサプライヤーの皆さんにとっても、ユーザー起点の設計評価力は今後ますます重要度を増します。
なぜなら、取引先企業の生産現場で「うちの部品は現場作業のどこで使われ、どんな問題を生むのか」まで想像し、改善提案できるパートナーこそ付加価値の高いサプライヤーと評価されるからです。

バイヤーは発注先の選定だけでなく、その先の社内現場ユーザーや最終顧客の反応を直感的にイメージできる提案が必要となります。
選ばれるためには「現場起点のユーザビリティ」を自社の強みにしましょう。

ユーザビリティ評価に強い現場・工場の組織づくり

全員参加型の改善体制の構築

ユーザビリティ評価を定着させるためには、組織全体の姿勢が重要です。

・設計部門だけでなく、現場作業員や品質管理、調達、営業、保守など多部門からフィードバックを集める
・評価結果を“批判”とせず“成長の種”として捉えるカルチャーを醸成する
・現場で起きたミスや「カイゼン提案」が定期的に設計や調達・営業に還元される仕組み
・ユーザビリティの成果（工数削減、トラブル低減、顧客評価向上）を見える化し発信する

こうしたサイクルが定着することで、製造業の現場でもデジタル時代の“強力な競争優位”を築くことができます。

昭和型アナログ現場を変える現代的アプローチ

アナログ文化が根強く残る現場では、IT導入だけでは解決できない“人間的な壁”が立ちはだかります。
そこで有効なのが、
・現場の“暗黙知”の可視化ワークショップを実施
・アナログとデジタルをつなぐ「ハイブリッド検証」
・現場OBや女性、若手の多様な意見を尊重しUX多角化
こうした取り組みを通して、「使いやすさ×安全性×生産性」の同時実現を加速できます。