ユーザビリティ評価テストで製品体験を向上させる実践手法

はじめに：製造業におけるユーザビリティ評価テストの重要性

製造業の現場において「ユーザビリティ」という言葉は、従来あまり強調されてきませんでした。

高度な生産管理や品質保証、工程改善が語られる一方で、製品を実際に使う人がどのように感じ、どう操作し、どの部分でつまずくかを“定量的”“定性的”に評価してフィードバックする動きは、正直に言うと昭和的な現場では後回しにされがちでした。

しかし今、ユーザビリティ評価テストが製造業の現場における競争力向上やバリューチェーン全体の最適化に直結するキーワードとして再注目されています。

この記事では、現場で実際に効果があった“ユーザビリティ評価テストの実践手法”について深堀りし、バイヤーやサプライヤーの双方に役立つ視点、そしてアナログ業界ならではの特有の事情も交えながら解説します。

ユーザビリティ評価テストとは何か？

定義と役割

ユーザビリティ評価テストとは、製品やシステムの「使いやすさ」「わかりやすさ」「直感的な操作性」を客観的に評価し、製品体験（UX：ユーザーエクスペリエンス）を向上させるためのプロセスです。

製造業の場合は、最終顧客に限らず「現場オペレーター」「保守担当者」「バイヤー」「組立工」など非常に多様な“ユーザー”が対象になります。

ユーザビリティ評価テストを行うことで、製品に潜む“気付きにくい課題”――たとえば
– ボタンの押し間違い
– 工具の不適切な収納
– 誤配線しやすい端子形状
– 指差し確認がしにくい表示ラベル

こうした部分まで顧客視点で洗い出し、競合との差別化につなげることができるのです。

現場ではなぜ見過ごされやすいのか

製造業の現場は日々の安全・品質・納期・コストが最優先となりやすく、「とりあえず使えている」「トラブルは現場で改善している」のマインドが根強く残っています。

また、現場のオペレーターや現場改善担当（製造技術者）は日常的に同じ装置や製品に触れているため、“慣れ”が発生し、潜在的な使いにくさやミスの原因を見過ごしやすい傾向があります。

ここにユーザビリティ評価テストを導入することが、“気付き”と“変革”のきっかけになるのです。

なぜユーザビリティ評価テストが今、製造業で注目されるのか

現場の自動化・デジタル化の加速

近年、工場の自動化・デジタル化が一気に進み、設備や装置はますます複雑になっています。

AIやIoT、ロボティクスを駆使した新鋭の生産ラインでも、最終的な「ヒューマンエラー」や「現場での扱いやすさ」が品質不良や停止の原因となることは多々あります。

そこで、仕様書には現れない“使いやすさ”を定量的に評価し、工場全体の生産性向上に寄与する取り組みが求められています。

バイヤーとサプライヤーとの関係性の変化

従来、製造業の購買プロセスはコスト・納期・品質といったトリプルQCD（Quality, Cost, Delivery）が重んじられてきました。

しかし近年では「現場の使い勝手」「アフターサービスのしやすさ」「日常点検の簡便性」といった付加価値の重要性が増しています。

つまりバイヤー（調達担当者）の“選定眼”も高度化しており、サプライヤーとしてはユーザビリティ評価を実施した証拠を示せることが受注競争で有利に働いています。

ユーザビリティ評価テストの実践的アプローチ

なぜ「現場目線」が欠かせないのか

ユーザビリティテストは、開発者や設計者だけで行った場合“理想像”に傾きます。

本当に必要なのは「実際に使う人」の“つまずき”や“迷い”に着目することです。

これを実現するために、実プロジェクトで推奨されるアプローチは以下となります。

STEP 1：ユーザー分析とシナリオ作成

まず、実際のユーザー（オペレーター、現場作業者、バイヤー、保守員など）を明確化します。

どの場面で製品が使われているか、どのような作業手順や業務フローがあるのかを細かく洗い出します。

そして、よくある使用シーン（「新設時の立ち上げ」「メンテナンス時の点検」「生産品切替時」など）ごとに“シナリオ（テストケース）”を作成します。

STEP 2：評価テストの実施

作成したシナリオに基づき、実際のユーザーや第三者を招いてテストを行うことが重要です。

アナログ現場ならではのポイントとして、「普段の作業着」「実際の道具」など出来る限りリアルな環境を用意します。

現場の制約（騒音・照明・作業スペース）も再現しながら、製品を使用してもらい、その途中で
– どこで戸惑ったか
– どんな工夫をしていたか
– “暗黙知”として伝承されている操作は何か

などを定性的に観察・記録します。

STEP 3：定量評価とフィードバック

可能な限り数値化することも欠かせません。

たとえば
– 操作完了までの時間
– ミス発生率
– 説明書の参照回数

といった“数値データ”を取得します。

これにより、感覚的な「使いづらい」の指摘が
– 具体的な時間短縮
– エラー率低減
といった目標値やKPIとして明確になります。

また、収集したデータをもとに「どこをどのように改善すればよいか」を次工程へ迅速にフィードバックすることが重要です。

STEP 4：デザインへの反映と再評価

ユーザビリティテストで得られた気付きやデータをもとに設計変更や改善策を打ち出し、改良後に再度評価を行う──という「実装と評価のサイクル」を回すことが、現場目線の本質的な改善に直結します。

アナログ業界の現場でこそ有効な“工夫”

「三現主義」の応用

昭和から根付く製造業の知恵として有名な「三現主義（現場・現物・現実）」は、ユーザビリティ評価と抜群の親和性を持ちます。

– 設計者や購買担当も“現場”へ赴き
– “現物”を手に取って、実際に使い
– “現実”の作業状況を観察・対話する

このように机上の会議では得られないリアルなインサイトが“差別化”となります。

「百聞は一見に如かず」を徹底する

何度マニュアルを書き直しても作業ミスが続く場合、実は「現場にしかわからない使い勝手の課題」が潜んでいます。

たとえば、筆者の経験上
– ボタン配列が左右逆だったため即座に緊急停止できなかった
– 工場の照明下ではラベルの色味が識別しづらい
– 年配作業者にはタッチパネルが使いづらい

こうした“生データ”を、現場ユーザーとの協働で掘り起こすことが、真のユーザビリティ改善です。

バイヤー目線・サプライヤー目線でのユーザビリティ評価テストの活用法

バイヤー（調達・購買担当者）の活用ポイント

– ユーザビリティ評価の実績（たとえば第三者認証やテストレポート）を取引条件に加える
– 実際の現場オペレーターやエンジニアとユーザビリティテストを見学し、現場目線の“違和感”を吸い上げる
– 操作性や保守性も「コスト」「品質」「納期」同様の評価軸として調達先を選定する

このように購買プロセスにユーザビリティ視点を組み込むことで、現場の不満を減らし、社内クレームの激減や生産性向上にも直結します。

サプライヤー（供給者側）の活用ポイント

– 受注前にユーザビリティ評価テストの成果や具体的な改善事例をプレゼンする
– 自社工場で実施したユーザビリティテストのKPI（たとえば「作業工数XX%改善」「誤操作ゼロ化」など）を明確に訴求する
– カスタマイズや現場に応じた設計変更の柔軟性を提案する

こうした“顧客体験向上”価値の可視化は、価格競争を超えた真のパートナーシップ構築へとつながります。

まとめ：ユーザビリティ評価テストがもたらす新たな地平線

ユーザビリティ評価テストは、単なる「操作のしやすさ」を測るだけでなく「現場の声を製品や仕組みに反映する」ためのイノベーションプロセスといえます。

従来は見過ごされてきた“現場起点の気付き”を重視し、三現主義や三現主義の現代的応用である「ユーザビリティテスト」を通じて、使いやすさ・安全性・メンテ性に優れたプロダクトを目指しましょう。

購買担当者はバリューチェーン全体の最適化を、サプライヤーは顧客提供価値の最大化を、それぞれ実現できる時代です。

時代遅れと思われがちなアナログ現場こそが「人のためのものづくり」に気付ける場であり、ユーザビリティ評価テストはその“変革の第一歩”になるはずです。

ユーザビリティ評価を現場レベルで徹底し、ともに製造業の新たな未来を切り拓いていきましょう。